1849年に撮影されたフレデリック・ショパン
1849年に撮影されたフレデリック・ショパン

私は5歳からピアノを始め、レッスンを受けていたのが16年間。今は独学ですが細々と25年くらいピアノと人生を共に歩んできました。クラシック音楽を聴くほうも好きで、今はブルックナーやマーラーの交響曲、ヴァーグナーやR.シュトラウスのオペラを聴くほうが多くなってきました。

ただ、ピアノを軸にしてきた私にとって、「ピアノの詩人」と言われ、作曲したほとんどがピアノ作品の作曲家、フレデリック・ショパンは格別な存在です。ショパン国際コンクールの優勝者の演奏はチェックしますし、特にバラードが好きなのでバラード全集があると聴きたくなります。

今はネットで色々と調べられるので、YouTubeで見聞きして「良いな」と思った作品は、著作権が切れた楽譜を調べて、自分でも弾くのを試して、本格的に練習しようと思ったらちゃんとした楽譜をネットショッピングで購入しています。

作曲家によってそれぞれの魅力があります。ベートーヴェンは抗えない運命に対して立ち向かう生命力や希望、ブルックナーは荘厳さと美しさ、シューマンの文学との融合した詩情、ヴァーグナーの壮大さと崇高さ、ブラームスの内に秘めた情熱、マーラーの苦悩と官能美、ショスタコーヴィチの大胆さなどなど。

それではショパンの魅力って何でしょうか。これについては色んな意見があると思いますが、私が考える魅力は、豊かな詩情音楽とピアノとの一体感です。ベートーヴェンの第九交響曲だと1時間くらい、マーラーの交響曲だと1時間半、ヴァーグナーのオペラだと4時間も掛かるように、管弦楽作品だと長大な作品にもなることがありますが、ピアノだと休みなくそこまで長く弾けません。なのでショパンの作品は最長でもピアノ協奏曲で40分ぐらい。マズルカだと2分で終わるものもありますし、バラードでも10分くらい。長くないからこそ、ぎゅっと凝縮したような世界観が込められています。

ショパンと言うとどの曲を思い浮かべるでしょうか?「子犬のワルツ」とか「雨だれ」はポピュラーですよね。あとはフィギュアスケートで浅田真央選手がBGMに使った「ノクターン第2番」とか?

ピアノの発表会でも上級者の方が弾くような「英雄ポロネーズ」や「革命」、「バラード第1番」もありますね。

ただ、私が思うショパンのオススメの曲はこれだけじゃないです。自分でも弾いたり聴いたりした中で、ショパンのオススメの作品を10曲とオススメの録音も合わせてご紹介したいと思います。

ちなみに、Op.というのは「オーパス」という意味で、作品番号のことです。曲のタイトルや第○番でも分かるのですが、作品番号だと一つに定まるのでOp.で表しています。

1.ノクターン第17番 Op.62-1

数あるノクターンの中でも、最も気品があると感じるのがこのノクターン第17番です。

オススメはマウリツィオ・ポリーニ(2016年)。iTunesで試聴できます。

2.バラード第3番 Op.47

4曲あるバラードのうち、第3番はみずみずしくて、「あぁショパンだな」と感じる作品です。

オススメはヴラディーミル・アシュケナージ(1964年)とクリスチャン・ツィメルマン(1987年)。iTunes(アシュケナージ)iTunes(ツィメルマン)で試聴できます。

3.エチュード第1番 Op.25 「エオリアンハープ」

エチュードは練習曲のこと。ただ、ショパンのエチュードは技巧的な練習曲に留まらず、表現力が要求されます。エチュードはOp.10の12曲とOp.25の12曲の合わせて24曲ありますが、オススメしたいのはOp.25の第1曲。「エオリアンハープ」という呼称が付いていて、まるでハープを奏でているかのようなアルペジオ(分散和音)で演奏されていきます。

オススメはマウリツィオ・ポリーニ(1972年)。iTunesで試聴できます。

4.ポロネーズ第6番「英雄」 Op.53

ポロネーズとは、ポーランド民族の舞踊なのですが、この「英雄」ポロネーズは「英雄」という副題が付いていることから分かるように壮大な作品です。

オススメはエフゲニー・キーシン(1999年)とラファウ・ブレハッチ(2013年)。iTunes(キーシン)iTunes(ブレハッチ)で試聴できます。

5.ピアノソナタ第3番 Op.58

ショパンはピアノソナタを3つ作曲していますが、「葬送」という副題がある第2番と第3番の2曲がよく演奏されます。ピアノソナタ第3番は星がきらめくような第1楽章、慌ただしく駆け回る第2楽章、奥深くて美しい第3楽章、そして燃え上がる第4楽章と、どの楽章も素晴らしいです。

オススメはエフゲニー・キーシン(1993年)。iTunesで試聴できます。

6.スケルツォ第3番 Op.39

スケルツォ(Schezo)は イタリア語で「冗談」という意味で、肩の力を抜いた「ふざけた」音楽という意味だったのですが、ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが交響曲の中間楽章で使って「スケルツォ」を進化させ、さらにショパンが単独のピアノ作品として発展させていきました。ショパンは4つのスケルツォを作曲しましたが、聴きやすさでのオススメは第3番。ほとばしる情熱が見事です。

オススメはヴラディーミル・アシュケナージ(1967年)とマウリツィオ・ポリーニ(1990年)。

iTunes(アシュケナージ)iTunes(ポリーニ)で試聴できます。

7.ピアノ協奏曲第1番 Op.21

ショパンは同時期に20歳のときに2つのピアノ協奏曲を完成させています。ショパンはオーケストラの楽器の作曲に難があるとも言われていますが、どちらも青春期の繊細さや熱さを感じる作品です。私は甘酸っぱいピアノ協奏曲第2番のほうが好きですが、初心者の方でも聴きやすいのは第1番のほう。第1楽章では英雄のような壮大さがあります。

オススメはマルタ・アルゲリッチがピアノ独奏を務め、シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団と演奏した1998年の録音。あとはクリスチャン・ツィメルマンがピアノを弾き、カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ロサンゼルス・フィルハーモニックが伴奏した1978年の録音。CD化はされていませんが、NHK音楽祭2011でエフゲニー・キーシンがピアノ独奏でヴラディーミル・アシュケナージ指揮シドニー交響楽団と演奏したライヴも超絶すごかったです。

iTunes(アルゲリッチ)iTunes(ツィメルマン)で試聴できます。

ショパンは晩年(といってもまだ30代後半でしたが)に味わい深い音楽を書いています。

8.バラード第4番 Op.52

枯淡の侘び寂びを表したような作品が、バラード第4番。しんみりとして、物思いにふけるときに聴くとピッタリです。

オススメはヴラディーミル・アシュケナージ(1999年)。ただ、試聴ができないのでマレイ・ペライア(1994年)のiTunesを載せておきます。

9.舟歌 Op.60

舟歌はヴェネツィアのゴンドラの舟歌を模した音楽で、まるで水の上でゴンドラがゆらゆらと揺れながら進んでいく情景が浮かびます。

オススメはヴラディーミル・アシュケナージ(1999年)。iTunesで試聴できます。

10.幻想ポロネーズ Op.61

ポロネーズの中でも奥深さでは随一なのが「幻想ポロネーズ」。もはや踊りのための音楽ではなくなってしまっていますが、とにかく味わい深いんです。

オススメはヴラディーミル・アシュケナージ(1999年)やラファウ・ブレハッチ(2013年)。ただ、どちらも試聴ができないし、iTunesの仕様で10分を超える曲は原則試聴が不可になっているようでオススメの録音が軒並み視聴できません。ここではアルフレッド・コルトーのiTunesの試聴リンクを載せておきます。演奏は古いですが、20世紀前半のフランスを代表するピアニストでした。

ショパンのオススメの作品を紹介したところで、せっかくなので、ショパンにちなんだクイズをしてみます。

Q. ショパン国際コンクールで「技術的には既に我々審査員の誰よりもうまい」と言われたピアニストは?

→マウリツィオ・ポリーニ。1960年のコンクール。ちなみに審査員長だったのはアルトゥール・ルービンシュタイン。ショパンと同じポーランド出身で、ショパン演奏に定評がある当代随一のピアニストでした。

Q. ショパンのピアノ作品全てを録音したピアニストは?

→ヴラディーミル・アシュケナージ。1971〜1984年にかけてショパンのピアノ・ソロ作品全てを録音しました。

Q. 理想の演奏のために自分でオーケストラを創設して指揮とピアノ独奏を両方務めたのは?

→クリスチャン・ツィメルマンが1999年にポーランド祝祭管弦楽団を創設して、ショパンのピアノ協奏曲第1番と第2番を弾き振り(ピアノ独奏と指揮の兼任)をおこないました。

Q. 12歳でショパンのピアノ協奏曲を演奏した神童ピアニストは?

→エフゲニー・キーシンです。まだ12歳だった時に、ドミトリー・キタエンコが指揮するモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団という旧ソ連の一流オーケストラと共演して2つのピアノ協奏曲を演奏し、その録音は大いに話題となりました。

Q. ショパン国際コンクールで審査員の降板が起きたのはいつ?

→1955年と1980年です。1955年の第5回ショパン国際コンクールでは、ヴラディーミル・アシュケナージが第2位で優勝を逃したことに不服としたアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリが審査員を降板しました。また、1980年の第10回ショパン国際コンクールでは、イーヴォ・ポゴレリチの奇抜な演奏が本選で落選となったことに審査員だったマルタ・アルゲリッチが不服とし、降板しました。

Q. ショパン国際コンクールで副賞も含めて完全優勝したピアニストは?

→ラファウ・ブレハッチが2005年に達成しました。副賞とはポーランド放送が贈るマズルカ賞、ポーランド・ショパン協会が贈るポロネーズ賞、ワルシャワ管弦楽団が贈るコンチェルト(協奏曲)賞、そしてポーランド出身のピアニスト、クリスチャン・ツィメルマンが贈るソナタ賞、の全てを受賞しました。

ピアノの詩人、フレデリック・ショパンの名曲10選はいかがでしたでしょうか。クラシック音楽ファンの方の中でも、オーケストラやオペラの作品が好みの方だとピアノのレパートリーは手薄になってしまうでしょうし、ある商品のCMでショパンの曲を耳にして、もっとショパンの音楽を聴いてみたいと思った方にもお役に立てるようにと思い記事にまとめてみました。

ショパンの魅力が少しでも伝われば幸いです。

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