このアルバムの3つのポイント

マーラー交響曲第9番 ダニエル・バレンボイム/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団(2014年)
マーラー交響曲第9番 ダニエル・バレンボイム/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団(2014年)
  • ダニエル・バレンボイム、8年間のミラノ・スカラ座の音楽監督最後のコンサート
  • 濃いめのテンポ・ルバート、かき乱される感情
  • 音質は…ひどい

※2022/11/09 追記、2021/06/04 初稿

2022年のシュターツカペレ・ベルリンとの来日公演を健康上の理由で降板したダニエル・バレンボイム。代理でクリスティアン・ティーレマンが指揮をおこなうことをこちらの記事で紹介しました。

ただ、この1ヶ月ほどバレンボイムが指揮したレコーディングを聴き直していたので、こちらの記事も追記したいと思います。

指揮者のダニエル・バレンボイムは、2007年から2014年まで、イタリアの名門歌劇場、ミラノ・スカラ座の音楽監督を務めていました。映像作品も多くリリースされていますが、ヴァーグナーのオペラが多く、ヴェルディが少し。イタリアの歌劇場なのに、プッチーニやマスカーニなどのイタリア・オペラが全くありません。もしかしたら上演はしたけど、撮影やレコーディングはされていないという可能性もありますが、バレンボイムの得意とするドイツ作品に偏り過ぎた感じは否めません。

その反動か、バレンボイムの後任として音楽監督に就任したリッカルド・シャイーはスカラ座とイタリアのオペラを勢力的に上演・演奏しています。初のレコーディングとなったアルバムもイタリア・オペラの序曲・前奏曲・間奏曲集でしたし、これは日本のレコードアカデミー賞(管弦楽曲部門)を受賞した名盤。映像作品でもプッチーニの『蝶々夫人』などを出しています。

バレンボイムは2014年11月のコンサートを持ってミラノ・スカラ座の音楽監督を退任しましたが、最後のコンサートは「ラスト・バレンボイム、ラスト・マーラー」という題目で2014年11月12日、14日、15日に開催されました。これまたスカラ座には異色なオーストリアの作曲家、グスタフ・マーラーの交響曲第9番を中心とするプログラムで、その最後の11月15日の公演でのがイタリア・ユニバーサルミュージックから2015年2月にリリースされています。日本国内盤や、英語の輸入盤のリリースはなく、イタリア盤だけでの発売でした。

マーラーの交響曲第9番は、第4楽章が死ぬように静かに終わるため「別れ」の曲として取らえられることもあります。バレンボイムはミラノ・スカラ座との最後のコンサートでこの別れの曲を持ってきました。

この演奏は、アドリブを効かせたバレンボイムの指揮が濃いめの味付けになっています。レナード・バーンスタインよりもクセのある演奏でしょう。ミラノ・スカラ座の美しい音色も聴きどころですが、強音の金管やティンパニで音割れするところもあるので、2014年の録音にしては音質がイマイチ。配信で聴くならともかく、CDを買う価値は正直ないかと思います。

第1楽章はバレンボイムのアドリブが随所に現れ、テンポを細かく揺らしてルバートします。安穏させないでマーラーの渦巻く心中を現しているようです。中間部ではテンポが落ち着き、ミラノ・スカラ座らしい美しいハーモニーが心地よいのですが、残念なのは強音のフレーズで音がバリバリと割れること。少なくとも、開始5分19秒あたりと16分3秒あたり、そして19分8秒あたりの金管の強音で割れてしまっています。1960年代や70年代の録音ならまだしも、2014年の録音でここまでひどいのは珍しいです。

第2楽章は速めのテンポでささっと流れ、曲が盛り上がってくるとさらにテンポが速くなっていきます。こうしたテンポの煽り方がバレンボイムらしく、だいぶクセがあります。後半は滑らかなハーモニーで、アップテンポしていきティンパニがハマり、指揮者もオーケストラもノリノリで進んでいきます。ただ、またしても7分8秒あたりで音が割れています。最高潮に達する10分55秒あたりも音質が不安定になります。そして嵐が去ったような静けさで終焉を迎え、次の楽章へ。

カオスの世界からの浄化

第3楽章は金管が活躍する楽章ですが、ミラノ・スカラ座の金管は強音でも耳障りになることはなく、滑らかです。テンポが加速していき、バレンボイムらしいカオスの世界へと誘われます。スカラ座の個々の奏者が織り成す豪華絢爛の響きといった表現。ここでも爆発的に盛り上がるところの12分03秒あたり音が割れてしまい、シンバルの音が消されてしまっていますし、12分34秒あたりから最後まで音割れしたままで突き進みます。

第4楽章はミラノ・スカラ座の持ち味である美しさが見事に引き出されています。まるで大河が流れるように、厚みあるハーモニーで進んでいくのですが、音楽監督退任の演奏だから溜めを効かせるかと思ったら、バレンボイムは意外にも浸ることなく穏やかに流れていきます。ヴァイオリン・ソロでは特に美しさが際立っています。

ここでも金管の強音で若干音割れしているのが惜しいのですが、このアルバムで最も良いできなのは第4楽章でしょう。後半では穏やかなテンポになり、透き通った美しいハーモニーで心が浄化されていきます。ドイツ=オーストリア音楽を強化したスカラ座のバレンボイム時代の最後は、消え入るように静かに幕を閉じました。

ミラノ・スカラ座の持ち味である美しさが引き出された第4楽章は特に素晴らしいですが、それ以上にバレンボイムのテンポ・ルバートのクセが強くて、私はやや苦手です。また全楽章とも音割れがひどくて、とても2014年の録音品質とは思えません。音質に定評のあるデッカ・レーベルですが、このアルバムはちょっとクオリティがイマイチかなと。

オススメ度

評価 :2/5。

指揮:ダニエル・バレンボイム
ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団
録音:2014年11月15日, ミラノ・スカラ座(ライヴ)

iTunesで試聴可能。

特に無し。

Tags

コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?

コメントを書く

Twitterタイムライン
カテゴリー
タグ
1976年 (21) 1977年 (15) 1978年 (19) 1980年 (14) 1985年 (14) 1987年 (17) 1988年 (15) 1989年 (14) 2019年 (20) アンドリス・ネルソンス (19) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (81) ウィーン楽友協会・大ホール (58) エジソン賞 (18) オススメ度2 (14) オススメ度3 (79) オススメ度4 (115) オススメ度5 (143) カルロ・マリア・ジュリーニ (27) カール・ベーム (28) キングズウェイ・ホール (14) クラウディオ・アバド (24) クリスティアン・ティーレマン (18) グラミー賞 (29) コンセルトヘボウ (35) サー・ゲオルグ・ショルティ (54) サー・サイモン・ラトル (22) シカゴ・オーケストラ・ホール (23) シカゴ・メディナ・テンプル (16) シカゴ交響楽団 (52) バイエルン放送交響楽団 (35) フィルハーモニー・ガスタイク (16) ヘラクレス・ザール (21) ヘルベルト・フォン・カラヤン (32) ベルナルト・ハイティンク (37) ベルリン・イエス・キリスト教会 (22) ベルリン・フィルハーモニー (33) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (64) マウリツィオ・ポリーニ (17) マリス・ヤンソンス (42) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (17) リッカルド・シャイー (21) レコードアカデミー賞 (26) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (42) ロンドン交響楽団 (14) ヴラディーミル・アシュケナージ (27)
Categories