このアルバムの3つのポイント

マーラー交響曲第9番 ハイティンク/バイエルン放送響(2011年)
  • ハイティンク×バイエルン放送響のライヴ録音
  • ヤンソンスの代役での快挙
  • エコー賞&マーラー賞受賞

今日はクリスマス・イヴ。だいぶ前から今日はバッハのクリスマス・オラトリオについて書こうと準備していた。テレワークで音楽を聴きながら仕事を進めていて、重厚ながら明るいこの音楽のおかげで気分も上々だった。

ただ、そんな明るい調子が一気に短調に変わったのが、職場の同僚から掛かってきた一本の電話。これまで私があまり担当していなかった顧客企業に対して、その同僚は色々と案件を持ち掛けてくれた。様々なプロジェクトで一緒になっていたが、数日前、風の噂でその方が辞めるらしいと聞いた。直接聞いていないから半信半疑だったものが確信に変わったのが、その電話だった。それを聞いて私の気分も一気に沈んだ。人は同じ道に進むときもあるし、違う道を歩むこともある。だからいちいち一喜一憂してられないのだが、私自身があの時にこうしていれば微力ながら結果は変わっていたのかもしれないと思うようになった。

そして脳裏に流れたのが、マーラーの交響曲第9番第4楽章の旋律。あぁ、これは別れの曲だな。ダニエル・バレンボイムもミラノ・スカラ座を引退するときに演奏していたな、と。だからクリスマス・オラトリオを書くつもりは消えてしまい、マーラーの交響曲第9番を書こうと思うようになった。

そして本日紹介するのは、ベルナルト・ハイティンク指揮バイエルン放送交響楽団が2011年12月にドイツ・ミュンヘンのフィルハーモニー・ガスタイクでライヴ録音したもの。BR Klassikレーベルからリリースされている。本当なら、マリス・ヤンソンスが指揮台に立つ予定だったが、体調不良により、ハイティンクに代わったらしい。一方でヤンソンスとバイエルン放送響のマーラー交響曲第9番は2016年10月に、同じくフィルハーモニー・ガスタイクでライヴ録音している。こちらの記事で紹介したが、これまた名盤だ。

既にマーラーの作品を数多く、繰り返し録音してきたハイティンクだが、ここでの第9番も素晴らしい出来だ。一言で言うなら「自然体の境地」。楽譜に自分のエゴで味付けを足さないで、引かないで、純粋に作品の良さを引き出している。ハイティンクのマーラーには、バーンスタインのような、没頭するような入魂の演奏とはアプローチが違うのだが、普遍的なマーラーを表現するという点では彼にしかできない、素晴らしさがある。

バイエルン放送響もこの作品にぴったりだ。室内楽のような緻密なアンサンブルや、第1楽章で魅せる迫力、第2楽章での躍動感、第3楽章での生き生きとした演奏、そして第4楽章のあの美しさ。特にヴァイオリンのソロで聴かせる美しさは比類がない。

この第4楽章を聴くと、悲しみも浄化されていく。悲しいときにはマーラーを聴くようにしているが、マーラーは心に傷を負ったときに聴くとよりその作品の奥深さに驚かされるし、癒やされる。ハイティンクのマーラーの録音はかなり聴いてきたほうだと思うが、この2011年ライヴ録音はまさに真骨頂だと思う。

まだまだ、立ち直らなくて良い。もう少しだけ、後ろを向いていよう。

決して重々しさはなく、音楽が自然体で紡がれていく。マーラーの交響曲第9番の録音は古今東西様々な録音があるが、その中でも最も好きな演奏がこれ。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:ベルナルト・ハイティンク
バイエルン放送交響楽団
録音:2011年12月15-16日, フィルハーモニー・ガスタイク(ライヴ)

【タワレコ】マーラー: 交響曲第9番(CD)

iTunesで試聴可能。

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コメント数:1

  1. ハイティンクの関連でこちらの記事を読んで、聴いてみました。ジュリーニ・シカゴ響の演奏に衝撃を受けた身にとっては、こちらの演奏は淡々と進んでいく印象を最初に受けました。しかし聴き進めるうちにハイティンクの演奏は、各場面ごとのインパクトというよりは、全体の構成を重視しているのではないか、などと思い始めました。なんだかんだで、聴き終わったときには、疲れた心がすっかり浄化されていました。

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