このアルバムの3つのポイント

マーラー交響曲全集 サー・サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団他 (1984-2004年)
マーラー交響曲全集 サー・サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団他 (1984-2004年)
  • サイモン・ラトルのウィーンフィル指揮デビュー
  • こだわりの対向配置
  • 大胆な伸び縮み

1つ前の記事サー・サイモン・ラトルベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任した直後のグスタフ・マーラーの交響曲第5番の録音を紹介しました。今日もラトルのマーラーを紹介したいと思います。

英国のバーミンガム市交響楽団の首席指揮者(1980〜98年)だったラトルは、1993年12月、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に初めて客演をおこないます。そこで演奏したのはマーラーの大作、交響曲第9番。デビューでいきなり難易度の高い作品に取り組みました。ラトルはベルリンフィルに初めて客演したとき、そして首席指揮者として最後の演奏会でもマーラーの交響曲第6番「悲劇的」を選びましたし、ここぞというときにマーラーなのかもしれません。

この演奏会の録音は、EMIレーベル(現ワーナー)からリリースされていましたが、現在は入手困難に。iTunesでもアルバムが見つかりませんでした。私はラトルの交響曲全集を2007年リリースのものを持っていまして、そちらには第9番の録音はウィーンフィル盤でしたが、2017年に再リリースされた全集の新盤やiTunesのアルバムでは、交響曲第9番はベルリンフィルとの2007年の再録音に差し替わっています。「20世紀末の伝説と言われている名演」と書いているぐらいならもっと安定的に販売してもらいたいのですが、この演奏も賛否両論はあるようで。

レコード・レーベルの説明によると、この演奏会ではヴァイオリンの対向配置(両翼配置)にこだわったラトルと反対したウィーンフィルとで一悶着あって、演奏会がキャンセルになりかけたそうです。

対向配置については、クリスティアン・ティーレマンとウィーンフィルによるベートーヴェンの交響曲全集の紹介記事で詳しく書きましたが、指揮者から見て第1ヴァイオリンが最も左、第2ヴァイオリンが最も右に配置される対向配置は、一昔前のオーケストラではスタンダードな配置でしたが、現代では珍しいです。左手から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、そして一番右にチェロという配置が多いですね。伝統的なウィーンフィルと言えでも対向配置になっているのは私が知る限りは最近ではティーレマンと演奏しているときぐらいです。あとはヘルベルト・ブロムシュテットの時代から対向配置の伝統を維持しているライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が有名ですね。リッカルド・シャイーとのマーラーの交響曲を演奏を紹介したこちらの記事を参照ください。

ウィーンフィルと多く共演した名指揮者カール・ベーム1976年4月のマウリツィオ・ポリーニとのモーツァルトのピアノ協奏曲の映像を見るとウィーンフィルは対向ではなく標準配置でしたし。

ラトル自身も映像で見ると、2008年10月〜11月のベルリンフィルとのブラームスの交響曲全集では対向配置ではなくオーソドックスな配置でしたし、2017年9月のロンドン交響楽団での首席指揮者就任コンサート(FC2ブログ記事)でも標準配置でした。

ただ、当時38歳だったラトルはどうしても対向配置にこだわったそうで。ウィーンフィルという老舗オーケストラへのデビューにマーラーの9番を選ぶところも大胆ですが、さらにオーケストラと対立してまで配置にこだわるのも若さゆえでしょうか。

対向配置の違いを感じるのは第4楽章の最後。この楽章では音楽が死に絶えるように徐々に弱くなっていき、楽器も少しずつ減って第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロだけの弦楽演奏になるのですが、対向配置でステレオ録音されたので第1ヴァイオリンが左のスピーカー、第2ヴァイオリンが右のスピーカーからそれぞれ聴こえてきます。第4楽章の最後で左右から高いヴァイオリンの響きがしてくるのですが、これが標準配置だったら左だけから主に聴こえてきたでしょう。最後まで聴いて初めてラトルの意図が分かった気がしました。

さて、演奏全体はというとかなり大胆に伸び縮みする音楽で、第1楽章のAndante comodoはゆっくりと慎重に始まります。とてもデリケートに演奏していくのです。そして徐々に熱くなっていき、身もだえするようなおどろおどろしくなった後、一気にクライマックスを生み出しています。さらに第1主題ではウィーンフィルの美しさが引き立っています。そしてラトルとウィーンフィルは強弱のメリハリを付けて、テンポの緩急も大胆に伸び縮みさせていきます。

第2楽章や第3楽章は少し表現しづらくて、演奏としてはオーソドックスなのですが淡白な印象もあり、あまりハッとす演奏ではないです。第4楽章はウィーンフィルの美しい弦が堪能できます。ただ「死に絶えるように」という感じはせず、音が小さくなっていくだけのような印象もします。作品の背景を敢えて読み取らず、純粋な音楽として演奏したかったラトルの思惑かもしれません。

サイモン・ラトルがウィーンフィルにデビューした演奏会で取り上げたマーラーの交響曲第9番のライヴ録音。色々と新たな発見がある演奏でした。

オススメ度

評価 :3/5。

指揮:サイモン・ラトル
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1993年12月4ー5日, ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ)

廃盤のため無し。

タワーレコードオンラインの1. CDと2. CDの下にあるヘッドホンのアイコンから試聴可能。

特に無し。

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