このアルバムの3つのポイント

チャイコフスキー ピアノ三重奏曲 ヴラディーミル・アシュケナージ/イツァーク・パールマン/リン・ハレル(1980年)
チャイコフスキー ピアノ三重奏曲 ヴラディーミル・アシュケナージ/イツァーク・パールマン/リン・ハレル(1980年)
  • アシュケナージ、パールマン、ハレルという当代随一のソリストの結集
  • はち切れんばかりの哀しみ、そして駆け巡る思い出
  • 米国グラミー賞受賞

ピアノのヴラディーミル・アシュケナージ(1937年生まれ)、ヴァイオリンのイツァーク・パールマン(1945年生まれ)、そしてチェロのリン・ハレル(1944年〜2020年)。当代随一のソリストが、1980年にチャイコフスキーのピアノ三重奏曲を録音しました。

他にもベートーヴェン(1979年、1984年)とブラームスのピアノ三重奏曲(1991年)も全曲録音して高い評価を得たこのトリオですが、三者とも自己主張し過ぎない程度に調和の取れた演奏は、安心して聴ける演奏だと思います。

今回紹介するのは、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲 イ短調 Op.50のアルバム。ニューヨークのCBSスタジオでの録音で、米国のグラミー賞を受賞した名盤です。

この曲はチャイコフスキーの親友だったニコライ・ルビンシテインが死去したことによって書かれた作品です。モスクワ音楽院を創設したルビンシテインとチャイコフスキーは厚い友情で結ばれていましたが、腸結核によって45歳で亡くなってしまいます。

音色が融合しないという理由でこれまでピアノ三重奏曲を作曲することに否定的だったチャイコフスキーですが、親友の死によってピアノ三重奏曲の作曲に取り掛かり、『偉大な芸術家の思い出に』という副題を付けています。

第1楽章はルビンシテインを失った悲痛な哀しみに覆われますが、第2楽章ではルビンシテインを回想するかのように主題と変奏曲で様々な音楽がつながれていきます。

アシュケナージ、パールマン、ハレルのトリオによる演奏は、第1楽章は冒頭からはち切れんばかりの哀しみに満ちています。

演奏をリードしているのはピアノのアシュケナージですが、室内楽としてのバランスが取れていて、ピアノが目立ちすぎることはありません。1980年代のアシュケナージは相変わらずキレがありますが力強さを増しています。この三重奏曲でもピアノの音量は最弱音から最大限まで幅広いレンジで演奏されています。

もちろん、パールマンの完璧なヴァイオリンと、憂いを帯びたハレルのチェロもすごいの一言です。

第2楽章では主題と変奏で、ルビンシテインにちなむ音楽がつながれていきますが、何とも生き生きとして、希望に溢れていることでしょうか。第1楽章の哀しみとのギャップに驚かされます。

そして変奏の終曲とコーダではクライマックスから少しずつ、少しずつ、波が小さくなっていき、ピアノがそっとタン・タターンと葬送行進曲を奏で、静かに消えていきます。

全曲を通じて50分という大作なのですが、聴いているとあっという間に時間が経ってしまう、魅力的な演奏です。

アシュケナージ、パールマン、ハレルという当代随一のソリストたちによるピアノ三重奏曲。親友を失ったチャイコフスキーのはち切れんばかりの悲痛さと、親友を回想する音楽が希望のように駆け巡ります。ただただ、素晴らしいです。

オススメ度

評価 :5/5。

ピアノ:ヴラディーミル・アシュケナージ
ヴァイオリン:イツァーク・パールマン
チェロ:リン・ハレル
録音:1980年1月24-26日, ニューヨーク・CBSスタジオ

iTunes及びワーナー・クラシックスの商品ページで試聴可能。

1981年米国グラミー賞「BEST CHAMBER MUSIC PERFORMANCE」を受賞。

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