このアルバムの3つのポイント

チャイコフスキー交響曲全集 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1975-1979年)
チャイコフスキー交響曲全集 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1975-1979年)
  • ヘルベルト・フォン・カラヤン得意のチャイコフスキーの交響曲全集
  • ベルリンフィルとの最高の関係だった1970年代の録音
  • 憂いと美しさ

20世紀を代表する指揮者の一人、ヘルベルト・フォン・カラヤンは幅広いレパートリーを誇っていましたが、キャリアを通じて何度も演奏・録音したのはベートーヴェン、ブルックナー、ブラームス、そしてチャイコフスキーあたりです。

ベートーヴェン、ブルックナー、ブラームスは他の指揮者でも得意としていた方が多かったのですが、チャイコフスキーについては同時期の他の指揮者の追随を許さなかったと思います。

カラヤンはチャイコフスキーの後期の交響曲(第4番から第6番)については何度も録音していましたが、チャイコフスキーの交響曲全集は一度だけ。1970年代にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してドイツ・グラモフォンに録音しました。

交響曲全集は度々再リリースされていますが、最近のものではSACDやBlu-ray Audioの高音質でリリースされています。最近はCDが売れなくなってきたからか、国内盤では廉価な値段での販売はせず、高音質CDにして高めの価格で発売されるのが多くなっている気がします。

私は輸入盤の459 518-2の交響曲第1番〜第3番のCD2枚組のアルバムと、453 088-2の交響曲第4番〜6番のCD2枚組のアルバムを持っていますし、CD38枚組のカラヤン・シンフォニー・エディションも持っているので、重複してしまいました。

このアルバムには1966年に録音されたスラヴ行進曲Op.31とイタリア奇想曲Op.45も含まれています。こちらはベルリン・イエス・キリスト教会でのセッション録音で、それ以外の交響曲はベルリン・フィルハーモニーでのセッション録音です。なお、最近リリースされたSACDでは3枚組で交響曲のみの収録となっているのでご注意を。

チャイコフスキー交響曲第1番〜第3番 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1975-1979年)
チャイコフスキー交響曲第1番〜第3番 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1975-1979年)
チャイコフスキー交響曲第4番〜第6番 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1975-1979年)
チャイコフスキー交響曲第4番〜第6番 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1975-1979年)

チャイコフスキーの前期の交響曲3曲はカラヤンにとっての唯一の録音となったものです。交響曲第1番ト短調「冬の日の幻想」、第2番ハ短調「小ロシア」、第3番ニ長調「ポーランド」とそれぞれに副題を持つ曲で、ロマンティックな音楽が特徴。

チャイコフスキーを得意とするカラヤンですが、録音が初めてということでかなり手こずった形跡が伺えます。録音が多い交響曲第4番から第6番は、1975年10月に第5番、1976年5月に第6番「悲愴」、1976年12月に第4番と、それぞれ1ヶ月以内で録音セッションを終えています。しかし第3番が1977年12月、1978年2月、そして1979年1月、2月にまたがり、第1番が1977年12月と1979年1月〜2月、第2番も1979年1月と2月に録音セッションがまたがっています。第3番なんかは一度録音して、翌年、翌々年にまた録音しているのですが、録音してから一度寝かしてまた録音し直すというのがカラヤンのこだわりを感じます。

同時期にベートーヴェンの交響曲全集にも取り組んでいたカラヤンとベルリンフィルですが、第9番「合唱付き」の録音でも1976年10月、12月、1977年1月にベルリン・フィルハーモニーで録音した後、第4楽章の合唱部分だけを1977年2月にウィーンで録音していましたね。

ライヴと違ってセッション録音ではじっくりと気が済むまで演奏ができますが、あまりにセッションが複数回に分かれたり長期化したりすると、通しで聴くと音楽の流れに違和感が出てしまいます。

そういう意味では、この初期の交響曲はうまいのですが手探りな感じもします。ライヴだとどういう演奏をしたのかなと気になります。

3曲ともどれも引き締まった演奏で、まるでギリシャ彫刻のように贅肉がなくスマートです。ロマンや耽美に溺れることなく、シンフォニックに描いています。

その一方で、第4番から第6番「悲愴」はカラヤンの指揮もベルリンフィルの演奏も慣れたもの。

1980年代にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と再録音をおこなったカラヤンですが、このサイトでも第4番(1984年のウィーンフィルとの再録音)を紹介しています。

そちらではウィーンフィルの美音を活かしてまろやかな演奏になっていましたが、緩急の付け方にクセがあったり、アンサンブルが揃っていなかったりという面もあります。その点では70年代のベルリンフィルとのこの録音のほうが機能性が高く、一つの金字塔を作ったように思えます。

交響曲第4番は再録に比べると第1楽章から第4楽章までの流れが良いと思いますし、研ぎ澄まされたハーモニーと申しましょうか、ベルリンフィルの響きのバランスが良いです。

交響曲第5番は第2楽章が聴きどころで、これでもかというぐらいに叙情的な演奏です。

1976年の「悲愴」の録音については、こちらの記事で紹介しました。数多い「悲愴」の録音の中でも、素晴らしい録音でしょう。

チャイコフスキーを得意としたヘルベルト・フォン・カラヤンが、ベルリン・フィルハーモニーと全盛期を迎えている1970年代に録音した交響曲全集。研ぎ澄まされて、贅肉のない引き締まった彫刻のような演奏を聴かせてくれます。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1966年10月(スラヴ行進曲, イタリア奇想曲), ベルリン・イエス・キリスト教会
1975年10月(第5番), 1976年5月(第6番), 1976年12月(第4番),
1977年12月, 1978年2月, 1979年1月, 2月(第3番),
1977年12月, 1979年1月, 2月(第1番),
1979年1月, 2月(第2番), ベルリン・フィルハーモニー、

iTunes(第1番〜3番第4番〜6番)で試聴可能。

特に無し。

Tags

コメントはまだありません。この記事の最初のコメントを付けてみませんか?

コメントを書く

Twitterタイムライン
カテゴリー
タグ
1976年 (21) 1977年 (15) 1978年 (19) 1980年 (14) 1985年 (14) 1987年 (17) 1988年 (15) 1989年 (14) 2019年 (20) アンドリス・ネルソンス (19) ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (81) ウィーン楽友協会・大ホール (58) エジソン賞 (18) オススメ度2 (14) オススメ度3 (79) オススメ度4 (115) オススメ度5 (143) カルロ・マリア・ジュリーニ (27) カール・ベーム (28) キングズウェイ・ホール (14) クラウディオ・アバド (24) クリスティアン・ティーレマン (18) グラミー賞 (29) コンセルトヘボウ (35) サー・ゲオルグ・ショルティ (54) サー・サイモン・ラトル (22) シカゴ・オーケストラ・ホール (23) シカゴ・メディナ・テンプル (16) シカゴ交響楽団 (52) バイエルン放送交響楽団 (35) フィルハーモニー・ガスタイク (16) ヘラクレス・ザール (21) ヘルベルト・フォン・カラヤン (32) ベルナルト・ハイティンク (37) ベルリン・イエス・キリスト教会 (22) ベルリン・フィルハーモニー (33) ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 (64) マウリツィオ・ポリーニ (17) マリス・ヤンソンス (42) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (17) リッカルド・シャイー (21) レコードアカデミー賞 (26) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (42) ロンドン交響楽団 (14) ヴラディーミル・アシュケナージ (27)
Categories