このアルバムの3つのポイント
- アシュケナージのバッハ録音第2弾
- 則天去私の純粋なバッハ
- 心に染みる一音一音
アシュケナージのバッハ録音第2弾
ヴラディーミル・アシュケナージはピアニストとしてキャリアを開始し、1980年代から指揮者としての活動をメインに移してきた。近年はピアニストとしてのコンサート活動はせず(弾き振りやピアノ連弾で出たことはあったが)、アシュケナージのピアノ演奏を聴くにはもっぱらレコーディングでのみとなっていた。
J.S.バッハについては、1965年にデイヴィッド・ジンマン指揮ロンドン交響楽団とピアノ協奏曲第1番を録音したものの、その後はぱったり無くなってしまった。じっくりと時間をかけて2004年から2005年に録音された「平均律クラヴィーア曲集」では高い評価を得て、それに続くアシュケナージのバッハ録音第2弾としてリリースされたのがこの6つのパルティータ集である。
パルティータとは、17世紀では変奏曲の意味で用いられていたが、18世紀のドイツにて、様々な舞曲が統一性をもたせて構成された組曲という意味に変化した。このパルティータ集は、バッハが自費出版した処女作に当たり、「クラヴィーア練習曲集」として出版された。序曲に続いてアルマンド、サラバンド、ジーグなど、様々な舞曲が入り、カプリッチョやスケルツォなども含まれる組曲である。
2010年にリリースされたこのCDだが、現時点では輸入盤も国内盤も廃盤・取り扱い無しになってしまい、入手困難になってしまっている。ストリーミング配信では聴けるだろうが、CDも再発売されて多くの方が聴けるようになることを期待したい。
お気に入りのポットン・ホールで
近年のアシュケナージのレコーディングは英国サフォーク州にあるポットン・ホールで行われている。自然に囲まれたこの建物はアシュケナージお気に入りの場所で、安らぎを感じながら集中して作品に取り組めるのだろうか、哲学のように深い演奏が多い。
6つのパルティータを1つの塊として
パルティータは第1番だけとか抜粋して演奏されることが多い中、アシュケナージは第1番から第6番から全てをまとめて演奏しレコーディングした。第1番から第6番を1つの組曲としてとらえ、第6番にクライマックスを持ってくるように、第1番からテンションを上げていっている。
則天去私のバッハ
バッハの作品を現代のピアノで演奏するとき、ピアニストは自分の個性を強調しようとして、作品の姿を歪めてしまうことがある。アシュケナージは平均律クラヴィーア曲集のときに、自然体でいながら作品本来の素晴らしさを引き出したその演奏に多くの賛辞が贈られたが、このパルティータでもその姿勢は変わらない。「則天去私」と表現したいバッハだ。
指揮者で言えばベルナルト・ハイティンクが同じような考えだ。あくまでも作品が主体で、自然体に表現しようとする。アシュケナージのピアノ作品への姿勢にも共通するものがある。
このパルティータ集でも、第1番の前奏曲から自然体の優しい音色。ペダルは最小限にしてバッハの時代の鍵盤楽器事情を考慮しているが、その響きは美しく、現代のグランドピアノでバッハ作品を演奏する意義を世に伝えてくれる。
現代人はとかく疲れがち。仕事に追われて、育児や介護にも追われている方も多いだろう。気持ちに余裕すら無くなってしまうこともあるだろう。そんなとき、このアシュケナージのパルティータを聴くと、乾いた心に一音一音が潤いを与えてくれ、染み入るように聴こえてくる。
まとめ
とかく疲れがちで気持ちに余裕が無くなってしまう現代だからこそ聴いてほしい。潤いを与えてくれるバッハである。
オススメ度
ピアノ:ヴラディーミル・アシュケナージ
録音:2009年2月16-18日(第1・5・6番), 8月14-16日, 12月11-12日(第2・4番), ポットン・ホール
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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