このアルバムの3つのポイント
- ザルツブルク音楽祭1990での「仮面舞踏会」再演
- ショルティがカラヤンから引き継いだドミンゴ、ヌッチなどの豪華キャスト
- 引き締まって躍動感あるオペラ
1989年7月16日、クラシック音楽界に激震が走った
以前の記事で紹介したとおり、1989年7月16日、クラシック界に激震が走った。「帝王」として君臨していた指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンが急死したのだ。カラヤンはその11日後にザルツブルク音楽祭でヴェルディの「仮面舞踏会」を指揮する予定で、前日にリハーサルを行ったばかり。急すぎる死に音楽祭の関係者も戸惑った。カラヤンありきのオペラだったので万一に備えて代理の指揮者を立てていなかったのだ。
オペラ研究家の岸 純信氏の解説によると、イタリアで休暇中だったサー・ゲオルグ・ショルティの元へ音楽祭の主催者側から連絡があり、「この仮面舞踏会を振ることができるのはあなたしかいません」と言われたそうだ。ただ、ショルティは過去7年間このオペラを演奏していなかったので、急な依頼に戸惑い、即答はせずに「6時間だけ時間を欲しい」と回答を保留したそうだ。結局、断ることはほぼ不可能と考えたショルティはその代役を引き受け、イタリアからザルツブルクへと駆けつけ、カラヤンと演奏する予定だった豪華な歌手陣もそのまま引き継ぎ、短期間でリハーサルを行い、見事に7月27日、ザルツブルク音楽祭1989での「仮面舞踏会」の本番を迎えた。
ただ、サー・ゲオルグ・ショルティのドキュメンタリー映像「人生の旅 (Journey of a lifetime)を見たら、ショルティの妻ヴァレリーがこの時のエピソードを語っていたが、プラシド・ドミンゴから直接ショルティの元へ電話があったようだ。そして最初は断ったが、ドミンゴからの2回目の電話で了承したと言っていた。
1年後のザルツブルク音楽祭1990での再演
そのときの公演が成功したことを受けてなのか、1年後のザルツブルク音楽祭1990で同じキャストで「仮面舞踏会」が再演される。そのときの映像がDVD化されていて、私は2011年に日本コロムビアからリリースされたDVD(COBO-5902)で観たが、2015年にはArthaus MusikレーベルからDVDとBlu-rayの両方がリリースされている。
ヴェルディの歌劇「仮面舞踏会」は、スウェーデンの国王が仮面舞踏会の壇上で暗殺された事実を基にした台本なのだが、当時は検閲が厳しくて舞台をヨーロッパ以外のアメリカのボストンにして登場人物も変更したバージョンとして上演が許された。ただ、このザルツブルク音楽祭で上演されたのはオリジナル版で、舞台はスウェーデンだ。
これがまたすごい演奏だ。序曲からショルティのはっきりとしたリズム、そして指でつまむような仕草でくっきりとしたピチカートの音をウィーンフィルから引き出している。当時77歳だったショルティだが、少しも老いぼれることはなく、指揮にも勢いがあるし、ハツラツとしてものすごく若い。
豪華な歌手陣
そして何よりも歌手陣がものすごい。急逝する前のカラヤンが主催者側と相談して決めた歌手陣なのだろうが、それをショルティがそのまま引き継いでいる。グスターヴォ三世役にはプラシド・ドミンゴ、アンカルストレーム伯爵役はレオ・ヌッチ。そしてオスカル役には韓国出身のスミ・ジョー。
プラシド・ドミンゴはもういるだけで存在感がすごい。歌唱力ももちろんなのだが、余裕すら感じるその立ち居振る舞いは主人公を務めるのにうってつけのキャストだろう。
そして、レオ・ヌッチ。私は2013年のミラノ・スカラ座の来日公演でリゴレット役を務めた当時71歳の彼のオペラにいたく感動をしたのだが(FC2ブログの記事)、こうして過去のオペラの映像を観ているとレオ・ヌッチが色々なところで登場していて嬉しい。この「仮面舞踏会」では、国王グスターヴォ三世の忠実な家臣ながら、妻アメーリアが国王から求愛され、裏切られたと思い、国王を暗殺する側に回るアンカルストレーム伯爵を演じ、渋みがあって良い味を出している。
こちらは国王を暗殺する場面。オペラの台本では剣で突き刺すとなっているだが、演出家のジョン・シュレジンジャーはオペラが基づく国王暗殺の事実に沿って、銃撃する演出にしている。
国王が暗殺される場面では、ショルティらしく緊迫感のある音楽でオペラを駆り立てる。
そしてグスターヴォ三世が、自分を暗殺することを知っていながら自分と妻アメーリアを逃がそうとしていたことを知り、呆然とするアンカルストレーム伯爵。このレオ・ヌッチの表情も渋くて、良い。
カーテンコールで見せたショルティの表情
そして、3幕にわたって全部で145分ぐらいの長丁場を指揮したゲオルグ・ショルティ。当時77歳だったのに最後までエネルギッシュだ。これが最後の音を指揮していたときのショルティの指揮ぶりだが、全く疲れを見せていない。
そしてカーテンコールでは、自分が聴衆からの拍手を受けるよりも先に、ウィーンフィルのメンバーに対して拍手を贈っていた。1950年代のヴァーグナーのオペラのレコーディングから長く共演しているオーケストラと指揮者の信頼関係を伺える。
まとめ
ライヴ録音なので、躍動感があることもさることながら、オペラの合間合間に拍手が入り、臨場感もある。ショルティらしくテンポは緩急自在で、引き締まった演奏。巨匠たちのすごさに改めて感動してしまうオペラだ。
オススメ度
グスターヴォ三世役:プラシド・ドミンゴ(テノール)
アンカルストレーム伯爵役:レオ・ヌッチ(バリトン)
アメーリア役:ジョセフィーン・バーストゥ(ソプラノ)
ウルリカ役:フローレンス・クイヴァー(メゾソプラノ)
オスカル役:スミ・ジョー(ソプラノ)
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
演出:ジョン・シュレジンジャー
演奏:1990年7月28日, ザルツブルク祝祭大劇場(ライヴ)
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特に無し。
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特に無し。
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