- ベームがチャイコフスキー?意外なレパートリー
- ロンドン響とのビビッドな演奏
- 最晩年の演奏で癒やされる緩徐楽章が
カール・ベームがチャイコフスキーを指揮!?
カール・ベームの晩年のレコーディングを集めた、Karl Böhm Late Recordings。つい1、2年前ぐらいに購入した覚えがあるのだが、発売日は2015年6月だった。もう5年も経っていたとは。
ベームは1977年からロンドン交響楽団の総裁を務めていたが、1894年生まれのベームが83歳〜85歳に録音したのがこのチャイコフスキーの後期交響曲集。1981年8月に亡くなるので、本当に最晩年の演奏と呼んで良いだろう。
ドイツ・オーストリアの作曲家の録音が多いベームにしては、珍しいロシア物の録音である。ただ、交響曲第4番は演奏会でも何度か取り上げてはいるようだ。ただ、第4番、5番、6番「悲愴」全てで唯一のセッション録音がこの録音。共演の多かったウィーンフィルやベルリンフィルとではなく、ロンドン響との演奏というのも珍しいポイント。カール・ベームのファンでも、物珍しい演奏だろう。私も、興味本位でどんな演奏なのか聴いてみた。第4番、6番「悲愴」はアナログ録音(ADD)だが、第5番はデジタル録音(DDD)で音質が少し良い。
この録音は2020年2月9日(日)の日経新聞の名作コンシェルジュでも紹介され、鈴木淳史氏が「重厚で巨大なゴツゴツ ドイツ風のロシア音楽」と評していた。ただ、このシリーズの評論はいつも読んでいるのだが、評者が良いなと思ったものを紹介するというよりも、物珍しい演奏を紹介しているような節があり、読んだからといって「よし聴いてみよう」という気分にならないものだが、音楽をこういう風に文章として表現するんだなぁと感心している。
ロンドン響のビビッドなサウンド
チャイコフスキーの交響曲第4番、第5番、第6番「悲愴」の3曲が収録されているが、共通するのは、ややゆったりとしたテンポ、情に流されずに作品の構成をしっかりと捉えていること、ロンドン響らしいビビッドで華やかな響き。ウィーンやベルリンフィルだとまた違った演奏になっただろうが、近代音楽を得意とするロンドン響だけに、目が覚めるようなハッとする音を作り出している。
浮いた金管と遅すぎるテンポ
3曲ともフォルテの金管楽器は強すぎて浮いてしまっている感じが否めないのだが、ここはチャイコフスキーということでいつものベームのスタイルから変えてしまったのだろうか。ブルックナーの「ロマンティック」の録音のように、金管が溶け合うようなサウンドになると良かったのだが。ただ、穏やかな緩徐楽章は特に良く、癒やされる。第5番は第2楽章での第1主題のホルンの美しさが絶品。ただこの楽章の第2主題のクライマックスでもテンポがゆっくりなので、遅いかなという気はする。さらに、第4楽章の後半のテンポも遅すぎる。これじゃエルガーの「威風堂々」のテンポよりも遅くなってしまっている。
第6番「悲愴」は第1楽章が劇的な表現になっているが、まるでモーツァルトの作品かのように音符を「タタタ」と区切って演奏している。「タララ」と演奏しても良いような気がするが、ここがドイツ=オーストリア音楽を得意としたベームの解釈なのだろう。音を流さずにきっちりと弾いている。第4楽章の切ない調べでも、弦が奏でる旋律の輪郭は太く、力強い。線が途切れるような繊細な「悲愴」を求めるなら違う演奏を当たったほうが良いだろう。軋むような弦で、しくしく泣いているよりも吠えているような演奏で、まるでブラームスやヴァーグナーを聴いているような気分だ。
ベームファンでも評価はイマイチ?
ただ、この録音についてはベームファンにとっても評価はイマイチのようで、ネットで調べてみると「テンポがゆっくりすぎる」とか、「クライマックスをうまく表現できていない」とか、「音質も良くない」とか、ちょっとがっかりしている感じのレビューが目立つ。
まとめ
カール・ベームには珍しいチャイコフスキーで、しかもロンドン交響楽団とのコンビ。ただ、演奏の素晴らしさというよりも、ベームがどうチャイコフスキーを解釈したかの物珍しさが勝つ録音かと。
オススメ度
指揮:カール・ベーム
ロンドン交響楽団
録音:1977年12月14, 15日(第4番), 1978年12月21, 22日(第6番), ウォルサムストウ・タウンホール
1980年5月5, 6日(第5番), セント・ジョンズ・スミス・スクエア
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受賞
特に無し。
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