ベートーヴェン交響曲全集 サイモン・ラトル/ウィーンフィル(2002年)

ベートーヴェン交響曲全集 サー・サイモン・ラトル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2002年)
ベートーヴェン交響曲全集 サー・サイモン・ラトル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2002年)
ベートーヴェン交響曲全集 サー・サイモン・ラトル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(2002年)
  • サイモン・ラトルがウィーンフィルと2002年に3週間でライヴ録音したベートーヴェンの交響曲全集
  • 新時代を予感させる斬新な解釈
  • ラトルらしいドライブ

サー・サイモン・ラトルは2002年4月29日から5月17日のわずか3週間で、ウィーンフィルとベートーヴェンの交響曲全集をライヴ録音した。楽譜は20世紀後半にイギリスの音楽学者でベートーヴェンの研究の権威であるジョナサン・デル・マー氏が発表した新原典版(ベーレンライターのジョナサン・デル・マー校訂版)を使用。21世紀の幕開けを予感させる新時代のベートーヴェン像に賛否両論があったようだ。後に2015年10月にベルリンフィルを指揮したライヴ録音での全集もあるが、そのレコーディングは「否」の意見は少ない。

2002年と言えば、サイモン・ラトルがクラウディオ・アバドの後任としてベルリンフィルの音楽監督に就任した年で、名実ともに充実期が始まったとき。サイモン・ラトルの勢いを感じるこのベートーヴェンの交響曲全集をレビューしたい。

一方で、同時期にアバドもベルリンフィルを指揮して2000年と2001年にベートーヴェンの交響曲全集をライヴで完成させている。アバド vs ラトル、ベルリンフィル vs ウィーンフィル、そしてドイツ・グラモフォン vs EMI(現ワーナー)の構図となってクラシック音楽ファンの話題になった。

斬新な始まり方だ。聴こえるか聴こえないかぐらいの静かさでふわっと和音を奏でていく。かなりアゴーギクとデュナーミクのテクニックに寄ってしまっている演奏だ。ベートーヴェンの交響曲をウィーンフィルが演奏すると良い意味で金太郎飴のように、誰が指揮してもあまり変化が分からないのだが、このラトル盤は明らかに他と違う。ただ、強弱の味付けが強すぎて、聴いていると車酔いする感じになってくる。正直、聴き続けるのはキツイ。

交響曲第2番は冒頭はキレのある和音とゆったりとしたテンポで良いなと思っていたが、ヴィヴァーチェに入ると交響曲第1番と同様にテンポの緩急と細かいトレモロの際立たせが目立って、癖が強い。

交響曲第1番とカップリングされている交響曲第3番「英雄」は、まだ聴きやすい。第1楽章のアレグロ・コン・ブリオは特急電車のように速いテンポでビュンビュン進んで行くのだが、音がものすごく軽い。ウィーンフィルらしい美音と言えば美音なのだが、重厚感がなくて妙にスカスカしている。第2楽章の葬送行進曲では、この時期のラトルらしくテンポに変化を付けている。溜めを効かせて、オーボエが良い味を出している。ただ、ここもラトルが技巧的にこだわりすぎているため、ベートーヴェンの悲痛さを期待すると肩透かしを食らってしまう。第3楽章のスケルツォはラトルのアプローチがピッタリとハマっている。ここだけ違和感が無い。そして第4楽章はなぜかゆっくりとしたテンポで演奏される。いまいちラトルのテンポの緩急と私のリズムが噛み合わない。何で第1楽章であんなに飛ばしていたのに最終楽章はちょっとゆっくりなのだろう。最後までハーモニーは軽量なまま演奏されていく。

この交響曲第4番は素直にうまい。ラトルがウィーンフィルを巧みにドライブして、熱演をおこなっている。

この「運命」は迫力と勢いがみなぎっている。ラトル自身何度も演奏している曲だけに、解釈にも全く違和感が無いし、オーケストラをドライブしていくのも極めて自然。全集の中ではこの「運命」が最も良い出来だ思う。

こちらは判断が難しい。ウィーンフィルなのに決して音色はふくよかで無いし、高音のメロディラインだけが強調されているかのような演奏。

「運命」と同じくラトルが得意とする交響曲第7番。第1楽章では音がパーッと広がっていき、光を与えている。さすがの演奏だ。第2楽章でもしんみりと、痛いほど悲しい旋律だ。本当に泣いているように聴こえる。こういう演奏を第3番「英雄」の第2楽章でも聴きたかった。第3楽章もキビキビとしていて、第4楽章ではもう水を得た魚のようにピチピチとしている。

明るい曲で始まりは良いのだが、これもまた寄せては返すところで強弱を極端に付けていて、悪酔いする。第4楽章はキビキビとしてハツラツとしていて良いと思うのだが。

第9番は、2002年5月12、14,15日にムジークフェライン・ザール(ウィーン楽友協会)の大ホールで演奏されたライヴ録音。たよたよと、しんみりと始まる第1楽章では、徐々にクレッシェンドしていき、一気に爆発させる。しっとりとしたハーモニーで演奏されるのだが、ウィーンフィルの雅な響きで音としては軽め。ニ短調で重々しく演奏し、苦悩を表現するのが多いこの楽章だが、このラトルとウィーンフィルの演奏は軽く、低音があまり鳴らされない。まるで第3番「英雄」を演奏するかのように、伸び伸びとしている。ところどころ「わー」っと騒々しくなるところもあり、確かに従来の第九のイメージを一掃する演奏だ。

スケルツォ風の第2楽章ではティンパニの音が強めで荒々しい。少しテンポを揺らして変化をつけているが、ラトルらしいクセがよく出ている。

第3楽章は穏やかでウィーンフィルならではの美音が優しく奏でられる。弦のハーモニーが神秘的なほど美しい。ここはじっくり聴きたいところなのだが、ラトルはせっかちなのか、動かさなくて良いのにと思うところでテンポを動かしてしまう。

第4楽章でもそこまで重くはなく、楽器それぞれのソロが丁寧に演奏されるが、全体としては淡白な感じ。低弦で奏でられる「このような調べではない」というところでは、せっかちに速い。合唱が加わった後も、急にフッと弱音にするところがあり、ラトルらしいアプローチが随所に出ている。歓喜の歌も畳み掛けるように煽ってくるので、まるでショスタコーヴィチの交響曲のような「強制された歓喜」のような違和感がある。最もテンポが速くなるべき最後のPrestissimoでなぜか遅くしているのも不思議。

ウィーンフィルが演奏した割にはベートーヴェンの従来のイメージに捉われない演奏。軽量級の第九だし、新時代の斬新な演奏であるのは間違いないが、新原典版を使っているのにラトルのクセが強くて好き嫌いが分かれる演奏だろう。ただ、交響曲第4番、第5番「運命」、第7番は良いと思う。

オススメ度

評価 :2/5。

ソプラノ:バーバラ・ボニー
アルト:ビルギット・レンメルト
テノール:クルト・ストレイト
バス:トーマス・ハンプソン
バーミンガム市交響合唱団
指揮:サー・サイモン・ラトル
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2002年4月29日〜5月17日(第1番〜第8番), 5月12, 14, 15日(第9番), ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ)

【タワレコ】ベートーヴェン: 交響曲全集


iTunesで試聴可能。

特に無し。

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