- ポリーニ/アバドの最強コンビの若かりし演奏
- アバドのほとばしる情熱
- ポリーニの完璧なピアノ
ポリーニとアバドのペア
マウリツィオ・ポリーニはこれまでに3回、ブラームスのピアノ協奏曲全集を完成させている。1回目は第1番が1979年にカール・ベームと、第2番が1976年にクラウディオ・アバドとの指揮でオーケストラはともにウィーン・フィルハーモニー管弦楽団だった。2回目は第1番が1997年で、第2番は1995年でどちらもアバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と。3回目は第1番が2011年、第2番が2013年に、ともにクリスティアン・ティーレマン指揮のシュターツカペレ・ドレスデンと。およそ20年に1回、その時のポリーニの演奏が凝縮されている。
今回紹介するのは、1回目のピアノ協奏曲第2番。1976年5月にウィーン楽友協会の黄金ホールで聴衆無しで録音されたもので、CDもあるがDVDとしてもリリースされている。
このとき、クラウディオ・アバドはミラノ・スカラ座の音楽監督を務めており、この後の1979年にロンドン交響楽団の首席指揮者、1982年にシカゴ交響楽団の首席客演指揮者、さらには1986年にウィーン国立歌劇場、1990年にベルリン・フィルの芸術監督のポストを歴任することになり、着実にスターダムへと上っている時代だった。
そしてポリーニも、1960年にショパンコンクールに優勝してから、10年ほど表舞台から姿を消し、大々的にデビューしてからは1971年に録音したストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3楽章」とプロコフィエフのピアノソナタ第7番でクラシック音楽界の度肝を抜いた。そして1972年のショパンのエチュード全集の録音でこれまでのピアニストとは桁違いの存在として注目されるようになり、勢いがある時代。
アバドのほうが9歳年上だが、ポリーニは子供のときからアバドと交流があったインタビューで述べている。
私たちは子供の頃に知り合いました。彼の方が少し年長ですけれど。それからずっと後になって協演するようになりましたが、私たちは音楽的にいってもとてもよく理解し合って来ました。
マウリツィオ・ポリーニ、1992年ミラノでのインタビュー(取材・文:ウンベルト・マジーニ)
…(中略)…
個人的な友人としては、昔からずっとです。知り合った時は14、15歳で、よくピンポンしたり、映画に行ったり、ブレヒトを見にピッコロ・スカラ座へ行ったりしました。
そのコンビでのピアノ協奏曲となれば俄然、期待が高まる。
アバドの燃え上がる指揮
前回の記事ではマウリツィオ・ポリーニとカール・ベーム指揮ウィーンフィルのモーツァルトのピアノ協奏曲を紹介したが、そのときにはベームの小さな動きの指揮振りに驚いたが、このアバドはその真逆だ。とにかくアクションが大きい。流れるような指揮で、ものすごく情熱的だ。同時期(1ヶ月違い)のウィーンフィルなのに、ベームのときのような素朴な音楽とは違い、アバドの指揮では情熱みなぎる演奏をおこなっている。
ほとばしるような情熱がくどいぐらいにすごい。ただ、少し表面的というか、低音部の重厚感は薄い印象だ。重厚感を求めるなら1995年のベルリンフィルとの再録のほうが良いだろう。
ポリーニの完璧なピアノ
ここでのマウリツィオ・ポリーニのピアノは完璧だ。1ヶ月前のカール・ベームとのモーツァルトのピアノ協奏曲では、ベームとウィーンフィルの柔らかい音色に寄り添うかのように少し角が取れたタッチで演奏していたが、このブラームスのピアノ協奏曲第2番では、アバドの情熱に合わせるかのように、あるいはオーケストラと対峙するかのように、情熱的で、激しいピアノ演奏になっている。さすがポリーニというべき打鍵で、アバドの速いテンポにピアノも堂々と立ち向かっている。第1楽章は激しい連打も多いので、ポリーニは汗まみれになりながら演奏している。
素早いトリルやトレモロも力強く、ノーミス。完璧な演奏だ。
3人のポリーニ!?
これはCDだと分からなかったが、DVDで見ていると、第2楽章でポリーニが3種類いることが分かる。例えば上の第1楽章の写真で左前髪がぺたっとなっていたポリーニをポリーニ1とすると、第2楽章の冒頭では下の写真になっている。あんなに汗まみれになって演奏していた第1楽章が終わって、突然、涼し気な表情になっているし、ベチャッとなっていた髪の毛も整っている。完全に別テイクで撮られた映像だと分かる。これをポリーニ2とする。
冒頭の主題を力強い打鍵で弾き終わると、静かなフレーズに入り、再びポリーニが映像に映る。すると、あれ、ちょっとしか弾いていないのにもう汗まみれになっている。今度はぺたっとなっているのが右前髪なので、ポリーニ1とも違う。これをポリーニ3と呼ぼう。
そして再び主題が力強く演奏される。また静かなフレーズに戻ると、今度は左前髪ぺったりのポリーニ1になっている。
すると、次のフレーズでは汗をかいていないポリーニ2になっている。
私が気付いた限り、別々に撮影された3セクションからフレーズごとに合成しているようだ。CDだと絶対気付かなかった。確かに音だけ聴いていたら全く気付かないと思う。映像だからこそ分かった気付きだった。ポリーニほどの技量でも、一発撮りは難しかったのだろうか。個人的には汗まみれになりながらも必死に演奏するポリーニ3の姿が最も印象的だ。
まとめ
まだスターダムに上りつめる前のクラウディオ・アバドの情熱的な指揮と、完璧で力強い演奏のマウリツィオ・ポリーニのピアノとの対峙。
オススメ度
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
指揮:クラウディオ・アバド
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1976年5月24-26日, ウィーン楽友協会・大ホール
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【タワレコ】Pollini Portrait – Beethoven; etc/ Maurizio Pollini (DVD)【タワレコ】ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(SHM-CD)
試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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