このアルバムの3つのポイント
- 「サー」の称号を得た年のショルティが指揮したエルガーの交響曲第1番
- 馴染み深いロンドンフィルと
- エルガーの自作自演を研究してたどり着いた壮大さと美しさ
「威風堂々」と「エニグマ」だけじゃないエルガー
イギリスの作曲家エドワード・エルガーと言えば、ブラスバンドでもよく演奏される「威風堂々」と、謎を散りばめた「エニグマ変奏曲」があまりにも有名ですが、逆にそれ以外の作品にあまりスポットが当たらないのも事実。ここでは敢えてエルガーの「じゃない」作品の交響曲第1番変イ長調Op.55を紹介します。
前回の記事でサー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団の「新世界より」の録音を紹介しましたが、今回もショルティが指揮したものですが、イギリスのロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏です。
イギリスにゆかりの深いショルティ
ショルティはイギリスにゆかりの深い指揮者で、コヴェント・ガーデン王立歌劇場(ロイヤル・オペラ・ハウス)の音楽監督を1961年から71年まで務めていましたし、1972年にはイギリスの国籍を得ています。エルガーやグスターヴ・ホルストなどのイギリスの作曲家の作品も多く演奏、録音しています。
その中では、晩年1996年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との「エニグマ変奏曲」は素晴らしかったですね。
ショルティは1970年代にエルガーの2つの交響曲をロンドンフィルと録音して全集を完成させていますが、第1番は
1972年のもの。コヴェント・ガーデンでの目覚ましい活躍が評価され、イギリスに帰化したショルティはこの年に「サー」の称号を授与されています。また音楽監督を務めていたシカゴ響とはベートーヴェンのピアノ協奏曲全集や交響曲全集を始めていました。第9番「合唱付き」での稲妻が落ちるようなシビれる演奏はこのコンビならではでしょう。また、シカゴ響の音楽監督を兼任しつつパリ管弦楽団の首席指揮者に就任したのも1972年(〜75年まで)。この年はショルティにとって充実の1年でした。
テーマが有機的につながる交響曲第1番
交響曲第1番は変イ長調の作品で、最初に登場する旋律が全楽章に登場する「循環主題」が特徴。初演時に反響を呼び、最初の1年で100回も演奏された人気作だったそうです。
エルガーの作品を録音する前に、ショルティはエルガーの自作自演の録音を何度も聴いたそうです。落ち着いて美しく始まる主題の旋律が、次にトゥッティで奏でられるとまるで「威風堂々」を聴いているかのように雄大で温かさを感じるように変化していきます。そしてニ短調の第1主題に入るとショルティとロンドンフィルは引き締まってガラッと雰囲気を変えます。続く第2主題では儚くて美しいです。コデッタに入るとショルティらしくリズムが活き活きとしていて、第1楽章だけで様々な表情を見せてくれます。
第2楽章では壮大なスケールで激しく、第3楽章はうっとりするような美しさが見事。そして第4楽章ではクライマックスを作るように高らかに演奏されていきます。コーダでは第1楽章の旋律がシンコペーションのように拍を変化させて登場。全楽章が循環してきたのを感じます。最後まで圧倒的です。
カップリングの「南国にて」は首席指揮者就任直後の1979年録音
カップリングされている序曲「南国にて(アラッシオ)」Op.50は1979年12月の録音。ショルティは1979年のシーズンからベルナルト・ハイティンクの後任としてロンドンフィルの首席指揮者となり、1983年まで務めましたので、この録音が首席指揮者としての始まりを告げる演奏と言って良いでしょう。1972年の交響曲第1番に比べると演奏が滑らかで、より息のあった感じがします。客演と常任の違いもあるのでしょう。
この曲では金管がよりパワフルになっていて、テンポもキビキビとして速い演奏でもアンサンブルは乱れません。ハイティンクとともにロンドンフィルのオーケストラのレベルが上がっていたのもあるでしょうが、ショルティ時代の変化により、オーケストラが確実に強化されているのを感じます。
まとめ
イギリスの国籍を得て「サー」の称号を得たショルティが馴染みのロンドンフィルと演奏したエルガーの交響曲第1番と序曲「南国にて」。「威風堂々」と「エニグマ変奏曲」だけではない、エルガーに魅力を引き出しています。
オススメ度
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1972年2月(交響曲第1番), 1979年12月(序曲「南国にて」), キングズウェイ・ホール
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:1
エルガーの交響曲を初めて聴きました。エニグマや威風堂々でもそうですが、息の長い旋律がテーマとして何度も出てくるので、聴き終わった後、鼻歌が出てきそうな感じです。ショルティ&ロンドンも良いですね。昔話で恐縮ですが、自分で初めて買った CD はサティのジムノペディでしたが、二枚目に買ったのがショルティ&ロンドンの惑星でした。