このアルバムの3つのポイント
- 久石譲、ドイツ・グラモフォン移籍第2弾
- ウィーン響とムジークフェラインでの交響曲第2番
- ミニマリズムと日本の音楽の融合
久石譲、DG 移籍第2弾は自作の交響曲とヴィオラ協奏曲
ジブリ映画の作曲家として有名な久石 譲 (ひさいし じょう)さん。指揮者やピアノ演奏の音楽家としての活動も精力的で、2023年4月にクラシック音楽の名門レーベルであるドイツ・グラモフォンに移籍し第1弾のアルバムを6月にリリース。イギリスのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団とレコーディングした自作のジブリ音楽の管弦楽編曲はアメリカ・ビルボードのクラシック部門とクラシッククロスオーバー部門で1位になる人気を博しました。私も「人生のメリーゴーランド」の演奏に衝撃を受けて、1日に何回も繰り返し聴いていました。
続く第2弾は自作の交響曲第2番とヴィオラ協奏曲「Viola Saga」の2作品。久石譲の指揮、ウィーン交響楽団の演奏、そして音楽の都ウィーンでのレコーディング。交響曲第2番は聖地とも言えるウィーン楽友協会・大ホール (ムジークフェライン・ザール)、そして「Viola Saga」はコンツェルトハウスでの録音です。
解説はApple Music のほうが充実
私は記事でレコーディングを紹介するとき、実際にCD やBlu-ray、DVD を買ったものしか紹介しないスタンスを取っています。今回のアルバムもApple Music で音源は聴き込んでいましたが、解説を読みたくて日本語盤のCD を購入。日本の音楽評論家の解説があるかなと思ったら、ベルリンのウィンダム・ウォレス氏 (Wyndham Wallace)による英語の解説を翻訳したものが載っていました。さすが世界のドイツ・グラモフォン。
一番知りたかった交響曲の楽曲解説については書いていませんでした。Apple Music の解説だと第2楽章では「沖縄の伝統音楽をほうふつさせる音階から成る旋律」、第3楽章では「日本の童謡を思わせるメロディ」があると書いてあり、そこを詳しく知りたいと思ってCD の解説に期待したのですが、書いてなかったですね。以前紹介したヤニック・ネゼ=セガンとヨーロッパ室内管弦楽団のベートーヴェンの交響曲全集でもApple Music のほうが指揮者のインタビューもあって解説の情報量が多かったです。もっと頑張れ、CD。
クラシカルなウィーン響とのミニマル・ミュージック
第1弾ではイギリスのオーケストラ、ロイヤル・フィルとの演奏でしたが、今回はウィーン響。一応念の為ですが、ニューイヤー・コンサートで有名なウィーン・フィルではなくウィーン響のほうです。1900年設立のウィーン響も歴史あるオーケストラで、しなやかな弦セクションや豊かな管楽器が特徴。モダンなカラフルな響きがするロイヤル・フィルとはまた違うオーケストラの魅力ですが、久石譲が自作を演奏するにあたり、こんなインタビュー記事がありました。
ウィーン交響楽団は王道すぎるくらいにクラシカルなオーケストラであり、僕みたいなミニマル・ミュージックの作曲家とは正反対の音楽性が特徴です。その証拠に、初日のリハーサルが終わった時には、あまりに合わないので『もう無理。日本に帰りたい』と思ったほどで(笑)。でも彼らは、自発的にうまくいかない理由を考え、理解し、学習してくるんです。本番3日前にはびっくりするほど上達していました。一般的なオーケストラは僕の音楽に合わせ過ぎるのか、ミニマル・ミュージックがどこか機械的になりがちなのですが、ウィーン交響楽団はクラシックらしい歌うような演奏をするので、抜群にスケール感が出る。新しく、面白い演奏になったと思います
【GQ Japan】久石 譲 メン・オブ・ザ・イヤー・レジェンダリー・ミュージシャン賞──世界を巡りながら、至高の音楽を追求する
ミニマルと日本の音楽からのインスパイア
さてアルバムの中身に入っていきましょう。交響曲第2番はコロナ禍で作曲され2021年に京都で初演されました。第1楽章が”What the World is Now?”、第2楽章が”Variation 14″、第3楽章が”Nursery Rhyme”のタイトルが付いています。
第1楽章は星が誕生するかのような神秘的な世界が広がるのですが、ミニマルな要素が繰り返され徐々に変容していくのが見事です。冒頭から漂うような旋律が0:55ぐらいから軽やかに上昇していくフレーズに変わっていきます。輝かしいクライマックスまで到達すると2:54から再び冒頭の主題が登場し、展開していきます。圧巻は10:17から始まるコーダらしき部分。金管の小さなファンファーレに誘導されティンパニがクレッシェンドしていき、ストラヴィンスキーの『春の祭典』を思わせる原始的な世界に変わり、11:07から冒頭の主題を金管で強烈に登場させフィニッシュ。
第2楽章は沖縄の伝統音楽を彷彿とさせるとApple Music の解説に書いてありましたが、それが変奏曲として形を登場して現してくるのが面白いです。この第2楽章は久石譲の公式YouTubeチャンネルでムジークフェライン・ザールでのコンサートの映像を視聴できます。
一方で第3楽章は童謡「かごめかごめ」を思わせる旋律がメインとして登場しますが、子どもたちが歌う高い声域での旋律ではなく、コントラバスの低く不気味さを感じる旋律から始まります。
ヴィオラと管弦楽のための作品と”Viola Saga”は「サガ」は性 (さが)をローマ字表記したもの。こちらもドイツ・グラモフォンの公式YouTubeでも映像で視聴することができますが、ウィーンのコンツェルトハウスでの無観客での録音です。
Apple Music の説明によるとこの作品は2022年の「久石譲プレゼンツ ミュージック・フューチャーvol.9」で初披露され、2023年にヴィオラとオーケストラのために再構成された作品で、その再構成版をフランス出身のヴィオラ奏者アントワン・タメスティをソロに迎えて東京で初演され、このレコーディングでも演奏しています。「人の声に最も近い」ヴィオラの音域だからこそ、宿命を感じるような旋律が心の琴線に触れます。
まとめ
現代音楽を楽しいと思わせてくれる、久石譲の指揮による自作音楽のアルバム。これは素晴らしい。
オススメ度
ヴィオラ:アントワン・タメスティ
指揮:久石 譲
ウィーン交響楽団
録音:2023年3月, ウィーン楽友協会・大ホール, 2023年9月, ウィーン・コンツェルトハウス
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試聴
Apple Music で試聴可能。またYouTubeでも久石譲オフィシャルチャンネルで交響曲第2番の第2楽章、ドイツ・グラモフォン公式でViola SagaのMovement 1の一部とMovement 2の一部を視聴可能。
受賞
新譜のため未定。
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