ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番 リヒテル/ザンデルリング/ウィーン響(1962年)

スヴャトスラフ・リヒテル デッカ、フィリップス、ドイツ・グラモフォン録音全集
スヴャトスラフ・リヒテル デッカ、フィリップス、ドイツ・グラモフォン録音全集
スヴャトスラフ・リヒテル デッカ、フィリップス、ドイツ・グラモフォン録音全集
  • リヒテル×ザンデルリングのベートーヴェン
  • 大胆で繊細なリヒテルのピアノ
  • 稲妻のようなザンデルリング指揮ウィーン響の伴奏

スヴャトスラフ・リヒテルは旧ソ連のウクライナ出身のピアニストで、1915年生まれですがキャリアの初期は専らソ連国内での活動だけに留まり、西側の国々(欧米)には知られざる存在でした。そのリヒテルが西側から認知されるようになったのは、1958年2月25日にブルガリのソフィアでおこなわれたライヴ(通称「ソフィア・ライヴ」)です。ここではムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」をメインとし、シューベルト、ショパン、リスト、ラフマニノフの作品も演奏し、そのライヴレコーディングが西側でもリリースされました。すると西側でも「ソ連にすごいピアニストのリヒテルがいる」と認知され、以後は西欧でのコンサート、リサイタルなどもおこなうようになりました。

今回紹介するのは、1962年9月にリヒテルがクルト・ザンデルリング指揮のウィーン交響楽団と録音したベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番です。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団はあまりにも有名ですが、ウィーン交響楽団は知らないぞ、って方もいるかもしれません。

だいぶ前にこんなエピソードがありました。私の大学の研究室の先輩でジャズに傾倒していた方が、卒業旅行で一人でウィーンに行くことになったとき、せっかくだから本場のクラシック音楽を生で聴きたいと言って、ウィーン交響楽団の演奏会のチケットを買ったと言っていました。「有名なあのオーケストラだろ?」と、ウィーンフィルと勘違いして買ってしまったようです。旅行後にコンサートの感想を聞いてみたら「すごい良かった」と言っていました。ウィーン響もレベルが高いですからね。

ただ、録音としてはリヒテルだとカラヤンとリヒテルのチャイコフスキーのピアノ協奏曲(FC2ブログの紹介記事はこちら)とか、ベートーヴェンの三重協奏曲(FC2ブログで紹介した記事はこちら)とか、他にもカルロ・マリア・ジュリーニが首席指揮者を務めたのでブルックナーなどの録音が有名ですね。

ウィーン交響楽団のWikiに書いてあったのですが、リヒテルはソ連のピアニストだったということでこの1960年代初頭ではベルリンフィルやウィーンフィル(この時にデッカレーベル専属)など、共演者側のNGもあったようです。なぜリヒテルがソロを務めるピアノ協奏曲ではオーケストラがウィーン響だったのかずっと疑問だったのですが、ようやく理由が分かりました。

スヴャトスラフ・リヒテルは、あまり全集に取り組まずに、幅広い作曲家を気に入った作品だけ演奏するというスタイルのピアニストでした。ベートーヴェンについては、ピアノソナタが多めに演奏し、ディアベリ変奏曲も演奏しました。室内楽曲ではチェロソナタは全集(チェロはロストロポーヴィチ)、ピアノ協奏曲も第1番、第3番を演奏しています。

特にベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番はリヒテルが何度も演奏した愛奏曲で、録音が正規とリヒテル没後に出てきたライヴ音源を合わせて8種類あります。クルト・ザンデルリング指揮モスクワ放送交響楽団の1952年4月22日(別のCDだと1952年3月22日と書かれているものも)のモスクワでのライヴ録音(Profileレーベルの#PH17018)や、カレル・アンチェル指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団との1962年6月21日のライヴ録音(Supraphonレーベルの#SU4020)など。

特にリッカルド・ムーティ指揮フィルハーモニア管弦楽団との1977年のスタジオ録音(FC2ブログでの紹介記事はこちら)では、ムーティが引き出すオーケストラの音色がしっとりとしていて、それにリヒテルのピアノが緩急やテンポ・ルバートを大胆におこない、魔術を使っているかのような演奏でした。

この録音では、ザンデルリング指揮ウィーン響がとても力強く、それに対してリヒテルが時には繊細で、時にはダイナミックに演奏していきます。第1楽章のカデンツァでは一気にテンポを落とし、リヒテルらしい大胆な演奏です。1962年という時代もあるのでしょうが、リヒテルの演奏には自由さがあります。「そう来るか」という驚きがあって、現代の均一化された演奏には無い良さがあると思います。

第2楽章では一転して繊細なタッチでリヒテルはピアノを演奏し、決してパワフルさ一辺倒ではないリヒテルの詩情を感じます。

第3楽章は冒頭からすごいですね。ピアノとオーケストラとの掛け合いがあるのですが、最初はピアノが力強くハキハキして、続くフレーズではオーケストラの音量が大きくなってピアノの音色は静かに曇ったように聴こえます。そしてオーケストラのトゥッティではザンデルリング指揮のウィーン響がものすごい音量で演奏します。フィナーレでも稲妻のような鋭さと力強さがあって、強烈です。

ただ、いくらウィーンのムジークフェラインザールでの録音でも1962年のものなので、音質は若干落ちます。リヒテルのピアノ協奏曲第3番を初めて聴くなら音質が良いムーティ指揮フィルハーモニア管との1977年の録音のほうをオススメします。

西側でのセンセーションを巻き起こした時代のリヒテルのピアノ協奏曲。ザンデルリングのすごさも素晴らしいと思います。

オススメ度

評価 :3/5。

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル
指揮:クルト・ザンデルリング
ウィーン交響楽団
録音:1962年9月, ウィーン楽友協会・大ホール

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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