スタニスラフ・ネイガウス、モスクワ音楽院での一期一会のショパン・リサイタル(1971年)

スタニスラフ・ネイガウス ショパン・リサイタル1971

このアルバムの3つのポイント

スタニスラフ・ネイガウス ショパン・リサイタル1971
スタニスラフ・ネイガウス ショパン・リサイタル1971
  • ロシアンピアニズムのサラブレッド、スタニスラフ・ネイガウスの演奏
  • 1971年モスクワ音楽院での一期一会のリサイタル
  • ロマンチック? いや、破滅へと突き進むショパン

ネイガウスと言われてピンと来る方は、かなりの音楽通ですね。クラシック音楽界ではゲンリヒ・ネイガウススタニスラフ・ネイガウスの2人がいて、ゲンリヒのほうが父。そしてスタニスラフはその実子なのですが、スタニスラフが幼いときに離婚してしまったため、スタニスラフの母が再婚したパステルナーク家で育てられることになります。

ゲンリヒ・ネイガウスと言えば、ロシアのピアニストの権威でもあり、あのスヴャトスラフ・リヒテルエミール・ギレリスの師としても有名です。また、著書「ピアノ奏法論」も音楽を志す方は読んだことがあるという方も多いでしょう。

私も一時期、音大に入ろうと志したときがあったので、ピアノ奏法論は図書館で借りて熟読していました。

そしてスタニスラフ・ネイガウスは、日本でもブームになったスタニスラフ・ブーニンの実父です。こちらも離婚してしまっているので、ブーニンは母のピアニストでもありモスクワ音楽院の教師でもあったリュドミラ・ペトローヴナ・ブーニナに育てられます。ロシアンピアニズムのサラブレッドの家庭も複雑ですね。

エフゲニー・キーシンの自伝にネイガウス親子のことが言及されています。

私がいつも、自分により近いものを感じてきたのは、ディヌ・リパッティ、ゲンリヒ・ネイガウスとスタニスラフ・ネイガウス、そして若い頃のクライバーンのようなピアニストだ

エフゲニー・キーシン自伝の第3章より

そんなスタニスラフ・ネイガウスの演奏が、日本でも10年に1回くらい再発売されています。私が持っているのは2006年にコロムビア・ミュージックエンタテインメント社から再発売されたロシア・ピアニズム名盤選54「スタニスラフ・ネイガウス」(COCQ-84252)です。ただ、現在では廃盤になってしまっています。

この1971年10月9日のモスクワ音楽院・大ホールでのリサイタルで演奏されたのは、オール・ショパン・プログラムで、

  • 幻想ポロネーズ Op.61
  • ノクターン Op.27-2
  • ノクターン Op.15-2
  • ピアノソナタ第2番 Op.35
  • バラード第2番 Op.38
  • バラード第3番 Op.47
  • バラード第4番 Op.52

ただ、2008年にVista Veraレーベル(VVCD00171)で再発売されたCDでは同じ音源なのですが、バラード第4番が含まれていないので気を付けてください。 ←タワーレコードの商品ページにはバラード第4番が載っていなかったのですが、CDには含まれているとのことです。コメントをくれたぶーにんさん、ありがとうございました。

このCDの演奏を一言で表現すると「一期一会」。同じ演奏を再び行うことはできないような、気迫がこもっていて、ひたすら破滅へと突き進む感じの演奏です。

幻想ポロネーズ

最初の幻想ポロネーズは、こちらが心の準備ができていないときにいきなりタタン、ターンと切り込んできます。詩情豊かな演奏と思いきや、「こんなペースで持つのか?」と心配になるぐらいにペースを上げて乱れ弾きのように鍵盤を叩きつけます。ここで観客の乾いた咳が何回か入ります。このCDの全曲を通じてなんですが、観客の咳エチケットが全然できていない演奏会だったようで、とにかくノイズが多いです。

ノクターンOp.27-2

続いてノクターンOp.27-2。これもノクターンの中では気持ちがこみ上げる作品ですが、スタニスラフ・ネイガウスはまるで水を得た魚のように、ロマンチックな演奏を聴かせてくれます。ロシアンピアニズムだなと思うのは、メロディラインがはっきりと美しく出ているところ。

ノクターンOp.15-2

次のノクターンOp.15-2は少し休憩という感じで、穏やかな作品を挟んでいます。息を止めるように熱い演奏を聴いていた観客もここでは深い深呼吸をしたのではないでしょうか。ただ、ここでもクライマックスではめちゃくちゃテンポを上げて、これでもかってぐらいに情熱的な演奏になっています。そして最後は再び静寂の世界へと戻っていてフィナーレ。

ピアノソナタ第2番「葬送」

ピアノソナタ第2番「葬送」は、冒頭から何か不穏な空気。前のトラックと違って、ここで突然音質が悪くなります。なぜ?

第1楽章は破滅へと向かうギャロップ。まるで自暴自棄になったかのように、鍵盤を無情に打ち付けます。第2楽章のスケルツォは、大波のようなものすごい力で弾ききった後、少し光がさしてきたかのように穏やかになります。また大波が来ると徐々に静かに、そしてゆっくりと、最後には消えていきます。第3楽章の「葬送行進曲」は本当に死者を送る行進のように、淡々と進んでいくのですが、死を受けいられないように激しい感情を表します。そして死者を回想するかのような、柔らかくて儚い調べ。ここでスタニスラフ・ネイガウスは弱音に抑えつつも、メロディラインははっきりと出していきます。そしてひたすら浮かび続ける第4楽章。ここでは風が全てを吹き飛ばすかのように、素速く、無情に、弾き進めていきます。演奏後は観客から「ブラボー」の声。

バラード第2番

穏やかさと激しさの曲想が交互に織りなすこのバラード第2番。スタニスラフ・ネイガウスは穏やかな調べでゆったりと前半を進め、そして、やはり、荒れ狂うかのような激しさ満点の演奏へと移ります。ライヴならではのタッチが怪しいところもあるのですが、それ以上に、何だ、この速すぎるテンポは。木枯らしというよりも嵐が襲いかかってくる感じです。穏やかなフレーズに戻って、曲が終わると思わずホッとしてしまいます。

バラード第3番

次はショパンの4つのバラードで最も優雅な第3番。ここでスタニスラフ・ネイガウスはハキハキとした演奏で進むのですが、ここでも、やはり、クライマックスではテンポがぐっと上がり、激しいです。あまりにテンポが速くてミスタッチも起こしてしまっているのですが、とにかく感情むき出しの演奏です。ただ、欲を言うともう少し内声を引き出して欲しかったな。この作品はバラードの中でも内声が豊かな作品なので。

バラード第4番

最後はバラードの第4番。1971年の録音なのですが、まるでモノラル録音並の音質の悪さにちょっとがっかりしながらも聴いていると、ここでもやはり、スタニスラフ・ネイガウスは激しいです。またか、と苦笑いしてしまいましたが、これまで聴いていると、このバラード第4番でどこで激しくするか、予測できてしまいます。一番のクライマックスでは、ジャズの即興のようにアドリブっぽい演奏。

コーダでもすさまじい乱れ弾きです。思わず、最後の音を弾く前に観客から拍手されてしまうほど。

ロシアンピアニズムのサラブレッド、スタニスラフ・ネイガウスの一期一会の演奏。破滅へと突き進むショパンが深く心に刺さります。

オススメ度

評価 :2/5。

ピアノ:スタニスラフ・ネイガウス
録音:1971年10月9日, モスクワ音楽院・大ホール(ライヴ)

【タワレコ】Stanislav Neigauz Vol.3 -Chopin: Polonaise-Fantasia Op.61, Nocturnes Op.27-2, Op.15-2, etc (10/9/1971)

特に無し。

特に無し。

「スタニスラフ・ネイガウス、モスクワ音楽院での一期一会のショパン・リサイタル(1971年)」への2件のフィードバック

  1. ぶーにん

    コメント失礼します。
    こちらで紹介されているVista Veraのcd(VVCD00171)ですが、バラードの4番はちゃんと入ってますね。レーベル側の記載ミスだと思います。
    細かい所をすみません。

    1. ムジカじろう

      ぶーにんさん
      コメントありがとうございます!CDの商品ページに書いていなかったのでバラード第4番がカットされてしまったのかと思ったのですが、CDには含まれているんですね。
      記事のほうは修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。

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