ゲオルグ・ショルティのブルックナー録音 (ウィーン/シカゴ)

ゲオルグ・ショルティのブルックナーの交響曲録音

20世紀を代表する指揮者の一人、ゲオルグ・ショルティは膨大な数の録音をおこないましたが、ブルックナーの録音はそれほど多くありません。同じ作品を何度も録音するタイプではなかったので、1965年・1966年にウィーンフィルを指揮した第7番と第8番、そして1979年から1995年にかけてシカゴ響を指揮した第0番から第9番までの10個の交響曲全集ぐらいです。

ゲオルグ・ショルティのブルックナーの交響曲録音
ゲオルグ・ショルティのブルックナーの交響曲録音

武骨か優雅か素朴か情熱的か

ブルックナーの作品の演奏には、本当に様々なスタイルがあると思います。例えば、オイゲン・ヨッフムがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とバイエルン放送交響楽団を指揮した1回目の交響曲全集では武骨の代表格と言えるようなタイプでしたし、リッカルド・シャイーがロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とベルリン放送交響楽団を指揮した交響曲全集マリス・ヤンソンスがバイエルン放送響を指揮した交響曲選集は優雅な演奏でした。また、ベルナルト・ハイティンクがコンセルトヘボウ管とおこなった交響曲全集やウィーンフィルを指揮した交響曲選集は素朴な感じでしたし、クラウディオ・アバドがウィーンフィルを指揮した交響曲選集は情熱的でした。

ブルックナーの伝記を読むとこの作曲家のイメージは武骨や素朴のほうが近いのでしょうが、作品は懐が深いので、様々なアプローチでもしっくり来てしまうのです。私自身のブルックナーの演奏の好みの幅が広い自覚があるので色んな演奏を聴いて「これも良いな」と思ってしまいます。一方で、苦手なのはケバケバしいほどにうるさい演奏ぐらいです。なので、アバドとウィーンフィルの録音は苦手ですが、深みが増したアバドとルツェルン祝祭管との再録は好みです。

そういう意味だと、ショルティのブルックナーの演奏は武骨に近いかもしれません。ただ、オペラを得意としていたショルティらしく、躍動感があり、スケールが大きいです。また、緩徐楽章でははち切れんばかりの美しさがあり、優雅な面も持っています。

コスパの悪い国内盤の分売を1枚1枚購入して聴いた結果

それではショルティのブルックナーの交響曲録音を録音順に紹介していきましょう。ウィーンフィルとの2枚のアルバムと、シカゴ響との10枚のアルバムがありますが、私は2007年の「20世紀の巨匠シリーズのショルティ編」や2012年の「ショルティ生誕100年記念の名盤50」で、1枚1枚全て国内盤の分売でCDを購入しました。これだけで1,200円×12枚で14,400円も掛かってしまいました。全集で買ったら半額以下でしたでしょうし、ショルティやシカゴ響のアニバーサリーイヤーに発売されたCD BOXで買っていたらもっと単価は下がったと思います。

ただ、こうして今になって聴き直すと、1枚1枚のほうがジャケットの写真を見たり、中の解説を読み直しながら聴くので、より演奏についての理解が深まります。CD BOXだと買ったは良いけど聴かないままのCDも多くなってしまうので、コツコツ買って1枚ずつじっくり聴いてきたほうがかえって良かったのだと思っています。

ショルティとシカゴ響のブルックナーの交響曲全集は1997年にリリースされてだいぶ経過していますし、国内盤での分売もリリースされてから年月が経ってしまったので、現在では入手が難しくなっている録音もありますが、いずれ再発売されるときが来るでしょう。

専門家の評価だと交響曲第6番と第9番が好評ですが

ショルティのブルックナーの交響曲録音では、シカゴ響との交響曲第6番が米国グラミー賞を受賞していますし、同じくシカゴ響との第9番は日本のレコード雑誌で諸井誠 氏から「究極のブルックナー」と評されています。ただ、私個人的には、ウィーンフィルとのオペラ並に劇的な交響曲第8番、シカゴ響との美しくて崇高な交響曲第5番、そしてブルックナー自身が初演をおこなって大失敗した版を復刻させた第3番「ヴァーグナー」が特に気に入っています。

それではショルティのブルックナーの交響曲録音を録音した順に紹介していきます。

ヴァーグナーの「ニーベルングの指環」の全曲録音の合間に

ゲオルグ・ショルティはデッカ・レーベルによる企画で1958年からウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してヴァーグナーの4部作の楽劇「ニーベルングの指環」を全曲、スタジオで録音するという壮大なプロジェクトを始めました。これはデッカの敏腕プロデューサーだったジョン・カルショーによる企画で、「耳で聴いて脳内でオペラをイメージする」ものです。「指環」の録音は1965年まで続く長期のプロジェクトだったので、その合間にショルティとウィーンフィルは管弦楽作品、例えばベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」、第5番「運命」、第7番やシューマンの交響曲全集、ヴァーグナーの管弦楽作品、そしてブルックナーの交響曲第7番と第8番なども録音されました。

「ラインの黄金」のレビュー記事で紹介しましたが、ショルティ生誕100周年でリリースされたドキュメンタリー「人生の旅 (Journey of a Lifetime)」ではこの時代の録音セッションの映像がありますが、ウィーンフィル相手に火花を散らすような演奏をおこない、オーケストラに寄り添うのではなく力ずくでコントロールしたような感じがします。だからこそ、緊張感がすごいんですよね。また、日本でも非常に人気のあったヴァイオリニスト兼指揮者のヴィリー・ボスコフスキーがウィーンフィルのコンサートマスターを務めていたので、良い時代の響きがします。

交響曲第7番 ホ長調 1881/1883年 ノーヴァク版

この交響曲第7番は、他の演奏家だったらもっとのびのびとしていたと思いますが、オペラ指揮者のショルティはこの交響曲にドラマ性をもたせています。演奏時間は第1楽章が20:45、第2楽章が22:49、第3楽章が9:37、第4楽章が12:13。

ウィーンフィルなので第1楽章は弦が美しいですが、ショルティはさらに旋律を引き立たせています。そしてウィーンフィルと言ったらまろやかな金管のはずなのに、ここではかなりガンガン力強く鳴らしていますし、緩急のメリハリがすごいです。第2楽章は美しさに磨きがかかっていますね。ショルティなのでせっかちなのかと思いきや、テンポもちょうど良いです。第3楽章のスケルツォも、ショルティならではの躍動感で、初めてこの楽章が「面白い」と思えるようになりました。第4楽章は引き締まって贅肉が無い演奏です。交響曲第7番は1986年にシカゴ響と再録するのですが、ウィーンフィルの古き良き響きのこの録音と甲乙付けがたいですね。少しハラハラするので星は一つ下げておきます。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:ゲオルグ・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏:1965年10月, ゾフィエンザール

交響曲第8番 ハ短調 1890年版(第2稿) ノーヴァク版

交響曲第8番は第7番の翌年に同じくウィーンのゾフィエンザールで録音されたものです。演奏時間は第1楽章が15:10、第2楽章が14:35、第3楽章が24:55、第4楽章が20:49。第1楽章でもスケールが大きく、第2楽章でも躍動感があります。第3楽章はウィーンフィルの美しさが全開ですし、第4楽章ではこれまた大迫力の演奏。ヴァーグナーの楽劇の世界をブルックナーに持ってきたという感じがします。

交響曲第8番は1990年にシカゴ響とライヴ録音で再録するのですが、そのときは第3楽章が少し速かったので、私はこのウィーンフィル盤のほうが好みです。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:ゲオルグ・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏:1966年11月-12月, ゾフィエンザール

ショルティは当時、首席指揮者を務めていたシカゴ交響楽団と1979年からブルックナーの交響曲全集を開始しました。1969年から首席指揮者に着任し、最初のレコーディングとなった1970年のマーラーの交響曲第5番で鮮烈な演奏をおこない、黄金時代が到来した時代で、マーラーの交響曲全集、ベートーヴェンの交響曲全集なども精力的におこなっていました。

いつもは全集だと交響曲の番号順に紹介するのですが、ショルティとシカゴ響のブルックナーの交響曲全集では、最初に中盤から始まって後期に行った後、初期の交響曲に取り組むという珍しい進め方をしました。せっかくなので、録音順に紹介していきましょう。

ゲオルグ・ショルティとシカゴ響のブルックナーの交響曲全集は、第0番から第9番までの10曲を録音していますが、注目すべきは、中期の交響曲から録音を始めたところです。意外にも以前ウィーンフィルと録音した第7番と第8番は後回しでした。

交響曲第6番 イ長調

ショルティとシカゴ響のブルックナー交響曲全集は、第6番イ長調から始まりました。1979年1月と6月のシカゴ、メディナ・テンプルでのセッション録音です。こちらはショルティのブルックナーで唯一米国グラミー賞を受賞したもので、1980年の「BEST CLASSICAL ORCHESTRAL RECORDING」を受賞しています。第1楽章から緊迫した空気で演奏され、実にドラマティック。第2楽章の美しさはシカゴ響ならでは。第3楽章のスケルツォもダイナミックな演奏ですし、第4楽章はシカゴ響の迫力満点の演奏。グラミー賞を受賞したのも頷けます。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1979年1月, 6月, シカゴ・メディナ・テンプル

交響曲第5番 変ロ長調 (原典版)

ショルティとシカゴ響の交響曲全集で、私が一番愛聴しているのがこの交響曲第5番。交響曲全集では2番目の録音で、1980年1月のシカゴのメディナ・テンプルでの録音ですが、とにかく第2楽章の美しさがすごくて、こればかり繰り返し聴いています。第4楽章は弾むような弾力のある演奏。シカゴ響のメンバーがイキイキと演奏している姿が目に浮かびます。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1980年1月, シカゴ・メディナ・テンプル

交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」 1878/1880年版(第2稿) ノーヴァク版

こちらは第5番の翌年1981年に録音されたのが交響曲第4番「ロマンティック」。前2つはメディナ・テンプルでの録音でしたが、ここではレコーディング場所がシカゴ響の本拠地であるオーケストラ・ホールに代わっています。ブルックナーの交響曲では第4番と第7番が牧歌的で穏やかな作品ですが、ショルティのキャラクターには合っていないと言えるでしょう。ただ、以前の私だったら眉をひそめたかもしれませんが、ヨッフムとベルリンフィルによる暴風雨のような激しい「ロマンティック」を聴いてからロマンティックじゃない硬派な演奏もありだなと思うように。

ここでのショルティとシカゴ響の演奏はとにかく弦が美しく、金管もだいぶ冒頭は抑えていますが、トゥッティに入ると実にパワフル。第4楽章はとにかく鳴り響いて、すごいの一言。ただショルティらしいなと思うのは穏やかなフレーズでの慈愛や美しさ。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1981年1月, シカゴ・オーケストラ・ホール

そして交響曲第7番、第8番、第9番の交響曲を1980年代後半に録音しています。

交響曲第9番 ニ短調

交響曲第9番の録音だけ、以前の記事で紹介しました。1985年10月の録音で、毅然としていて厳しさが表れている辛口の演奏です。リリース当時、批評記事を担当した諸井誠 氏から「究極のブルックナー」と評された演奏です。引き締まったハーモニーで、贅肉が無いと表現すれば良いでしょうか。私個人的にはもう少しやすらぎが欲しいので、オススメ度は星2つ下げますが。

オススメ度

評価 :3/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1985年10月, シカゴ・オーケストラ・ホール

交響曲第7番 ホ長調 1881/1883年 ノーヴァク版

交響曲第7番は第9番の翌年の1986年10月に録音されたもので、場所は再びメディナ・テンプルに戻っています。1965年のウィーンフィル盤と同じノーヴァク版を使用していますが、演奏時間は第1楽章が21:23、第2楽章が25:09、第3楽章が10:07、第4楽章が11:33と、全体的にゆっくりになり、第4楽章だけ逆に少し速くなっています。そのおかげで、ウィーンフィルのときではどこかハラハラした演奏が、ここではどっしりと安心して聴くことができます。盛り上げるところはシカゴ響らしいパワフルな演奏ですが、ショルティ自身も丸みを帯びたんだなぁと感じます。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1986年10月, シカゴ・メディナ・テンプル

交響曲第8番 ハ短調 1890年版(第2稿) ノーヴァク版

ブルックナーは交響曲第8番を1887年に完成させますが、芸術上の師と仰いだ指揮者ヘルマン・レヴィに第1稿を送ると酷評されてしまいます。そして交響曲第9番のスケッチを書いていたときにブルックナーには改訂の波が来て、第8番も第1楽章のコーダを削除、第2楽章のトリルが書き直され、各楽章も短縮することにより第4楽章での壮大なフィナーレに相応しいドラマ性が高められた作品になりました。これが第2稿です。ショルティ/シカゴ響が使用しているのはノーヴァク1955年版のスコアで、これは第2稿に基づきます。

この交響曲第8番は1990年にシカゴ交響楽団がヨーロッパ演奏会をおこなったときに、11月20日、21日にロシアのサンクトペテルブルクのフィルハーモニック・ホールでライヴ録音されたものです。

演奏時間は第1楽章が15:04、第2楽章が14:27、第3楽章が24:04、第4楽章が20:21で、上記で紹介した1966年のウィーンフィルとの旧録と演奏時間がほとんど変わっていません。大きく違うとしたら第3楽章で、24:55→24:04と短くなっており、アダージョ楽章が少し急ぎ気味になってしまいました。シカゴ響の明朗な響きで十二分に美しいのすが、少しせっかちなのかショルティは足早に行ってしまいます。シカゴ響らしく、トランペットがとにかく力強く、第4楽章のフィナーレは圧倒的です。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
録音:1990年11月20, 21日, サンクトペテルブルク・フィルハーモニー・大ホール(ライヴ)

ショルティの全集では、ブルックナーの初期の交響曲ほど最後のほうに録音されました。ショルティは1991年の春をもってシカゴ響の音楽監督を引退し、後任のダニエル・バレンボイムにシカゴ響を託していますが、引き続き良好な関係を保ち、数多く客演しています。

ブルックナーの交響曲第0番(1995年10月ライヴ)、第1番(1995年2月ライヴ)、第2番(1991年10月)、第3番「ヴァーグナー」(1992年11月)はいずれも音楽監督の重圧から解放されて改めてシカゴ響に客演したときの録音。少し肩の力がおりてハツラツとした指揮になっている気がします。

交響曲第2番 ハ短調 ノーヴァク版

交響曲第2番はシカゴ響の音楽監督を勇退して約半年後に録音したものですが、これまでの演奏よりも伸び伸びとしている気がします。オーケストラの管理業務が無くなって、音楽により専念できるようになったのもあるでしょう。ツヤのある弦の響きが良いですね。ショルティらしくオペラのようにピリッと引き締まった演奏です。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1991年10月, シカゴ・オーケストラ・ホール

交響曲第3番「ヴァーグナー」1877年版(第2稿) ノーヴァク版

不遇の交響曲

この交響第3番は、不遇の交響曲で、第1稿は完成してウィーンフィルの新規演奏会のために送っても採用されず、曲が悪いんだと思ったブルックナーが改訂をおこなって1877年に完成させた第2稿では、ヴァーグナーの作品からの引用部分を削除したり、作品のバランスを考えてカットをおこなって、ようやくウィーンフィルで演奏できるところまでたどり着けたのですが、ブルックナー自身が指揮をおこない、団員があまり練習しきれないまま本番を迎え、大失敗に終わります。聴衆が楽章ごとに帰ってしまったというエピソードもあり、当時ヴァーグナー対ブラームスの構造がブルックナー対ブラームスへと伝播し、ブラームス派の批評家ハンスリックに酷評されました。そしてブルックナーは交響曲第8番を作曲していた時代にこの第3番も改訂をおこない、それが1889年第3稿として完成し、無事に演奏会で演奏されました。

この交響曲第3番「ヴァーグナー」は、最終改訂版の1889年の第3稿ノーヴァク版の演奏が多いです。ブルックナーの「最終意思」というためだと思うのですが、私が聴いてきたレコーディングでも、オイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送交響楽団(1966-1967年)ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1980年)リッカルド・シャイー指揮ベルリン放送交響楽団(1985年)マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団(2005年)など、1889年の第3稿を使った演奏が多いです。

第2稿を復刻

ただ、この第2稿の初演が失敗したと言って、作品だけのせいでは無いでしょう。例えば、セルゲイ・ラフマニノフは交響曲第1番の初演で失敗して批評家に酷評されて鬱になってしまうほどでしたが、この交響曲をお蔵入りにして決して改訂することはしませんでした。しかし、今ではラフマニノフの交響曲第1番は初演時と同じように演奏されて受け入れられています。このブルックナーの交響曲第3番だって、ブルックナーが後年に改訂しているからといって、作曲した当時のブルックナーの意思としては第1稿あるいは第2稿だったと私は思います。

交響曲第3番の第2稿を使っているのは、このショルティ/シカゴ響と、ベルナルト・ハイティンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1963年)、同じくハイティンク指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1988年)ぐらいです。同じ1877年第2稿でもエーザー版だとスコアに含められなかった第3楽章のコーダが、ノーヴァク版だと含められています。

ショルティはそういう過程を把握し、第3稿も見た上で、それでも第2稿が演奏する価値があると信じて選んだのだと思います。私は今回、ブルックナーの伝記を読みながら改めてこの第2稿の演奏を聴いたのですが、本当に涙が出るほど感動しました。ブルックナーがウィーンフィルを指揮して初演したときにこんな演奏だったら、きっと第3稿は作られないまま歴史は変わっていたのかもしれません。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1992年11月, シカゴ・オーケストラ・ホール

交響曲第1番 ハ短調 1865/1866年版(リンツ版)

この交響曲第1番は1995年2月にシカゴ・オーケストラ・ホールでのライヴ録音されたものです。ショルティはこれまでセッション録音が圧倒的に多かったですが、晩年になると1994年の「椿姫」など、ライヴ録音も多くなってきます。こちらもブルックナーの初期の交響曲を円熟したショルティの指揮で聴ける贅沢。

指揮者の藤岡幸夫 氏が語るショルティとの思い出

日経新聞の2021年2月17日の夕刊で、「こころの玉手箱」というコーナーで指揮者の藤岡 幸夫 氏がショルティとの思い出を語っていました。当時BBCフィルハーモニックの副指揮者だった藤岡氏は、ブルックナーの交響曲第1番を指揮してラジオ向けに録音することになっていました。BBCフィルはこの曲に馴染みがないので、次の演奏会でこの曲を指揮するショルティに会ってレッスンを受けてこいとの命令で、1995年初夏にロンドンのショルティの自宅を訪れた藤岡氏は、90分ほどのレッスンでピアノの連弾でこの曲をショルティに学び、ラジオ向けの演奏はうまくいったそうです。そして、ショルティが指揮した演奏会の本番は「格段にすさまじかった」と書いていました。ショルティが藤岡氏を「もっとブルックナーを振らせろ」と推薦したおかげで翌年のブルックナー・フェスティバルで交響曲第3番を指揮する機会に恵まれたと語っています。確かに90年代のショルティは、「椿姫」のアンジェラ・ゲオルギューのときもそうでしたが、後進を指導したり、若手に大きなチャンスを与えたりしていましたね。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1995年2月, シカゴ・オーケストラ・ホール(ライヴ)

交響曲第0番 ニ短調 1869年版ノーヴァク版

そして交響曲第0番は全集の最後となったもので、1995年10月のシカゴ・オーケストラ・ホールでのライヴ録音です。習作とも言われるこのブルックナーの初期の交響曲は交響曲全集でも録音する演奏家が少ない中、ショルティはちゃんと取り組み、そして円熟した最晩年のショルティのタクトで聴けるのはとても贅沢なことです。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
シカゴ交響楽団
演奏:1995年10月, シカゴ・オーケストラ・ホール(ライヴ)

ゲオルグ・ショルティがデッカにレコーディングしたブルックナーの交響曲録音を、1960年代のウィーンフィルとの第7番、第8番、そして1970年代から90年代のシカゴ響との交響曲全集について紹介しました。オペラ指揮者のショルティらしく、緊張感やダイナミックさに富んだ演奏です。ウィーンフィルの古き良き時代のオーケストラの響きや、シカゴ響の明朗で美しい弦・パワフルな金管も見事です。

シカゴ響との交響曲全集をiTunesで、ウィーンフィルとの交響曲第8番もiTunesで試聴可能。

交響曲第6番は1980年の米国グラミー賞「BEST CLASSICAL ORCHESTRAL RECORDING」を受賞。
シカゴ響との交響曲第7番は1988年の米国グラミー賞「BEST ORCHESTRAL RECORDING」にノミネートされるも受賞ならず。

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