このアルバムの3つのポイント
- マリス・ヤンソンスとバイエルン放送響のライヴ録音によるブルックナー!
- ヤンソンスの熟成された音楽作りと理想的なアンサンブルで応えたバイエルン放送響
- 緻密で穏やかで美しい
ヤンソンス&バイエルン放送響のブルックナー交響曲選集がまとめてリリース
現代最高のオーケストラの一つ、バイエルン放送交響楽団は近年は自主レーベルBR Klassikからライヴ録音と次々とリリースしていて、ハイレベルの演奏と高音質の音声でクラシック音楽ファンの心を潤してくれます。首席指揮者を務めたマリス・ヤンソンスとバイエルン放送響とのブルックナーの録音は、同じ音源でも色々なアルバムがあるのでここで整理します。
単独でリリースされたヤンソンス指揮のブルックナー交響曲
BR Klassikレーベルが創設されて最初にリリースされたのが、マリス・ヤンソンス指揮のブルックナーの交響曲第7番とマーラーの交響曲第7番「夜の歌」でした。ブルックナーの交響曲第7番は2007年11月のウィーンでのライヴ録音で、このディスクは#403571900100でリリースされています。
そしてブルックナーの交響曲第8番(2017年11月ライヴ)は2018年5月に#900165(CD)、#900166(SACDハイブリッド)のダブルリリースでした。交響曲第9番(2014年1月ライヴ)は演奏こそ少し前でしたが#900173で2019年2月にリリースされています。
バイエルン放送交響楽団によるオムニバス指揮者のブルックナー交響曲全集
さらに、バイエルン放送交響楽団が演奏したオムニバスの指揮者によるブルックナー交響曲全集(第1番〜第9番)がBR Klassik #900716の品番で2019年4月にリリースされています。そこでマリス・ヤンソンス指揮によるものは第3番、第4番、第7番、第8番の4曲でした。ここで第3番と第4番は一般発売としては初リリースとなりました。
好評に付き第4番が分売
そして先ほどの全集に含まれていた交響曲第4番は好評だったので、BR Klassik #900187で単独で2020年4月にリリースされています。
ヤンソンス指揮のブルックナー交響曲選集
そして2020年10月にヤンソンス指揮バイエルン放送響によるブルックナーの交響曲選集が#900718でリリース。こちらは第3番、第4番、第6番、第7番、第8番、第9番の6曲です。第6番はこれまでバイエルン放送響の会員限定で配布されていたレコーディングで、一般では初出となりました。
好評に付き第6番が分売
そして、第6番も好評に付き#900190で2021年2月に分売されています。
私は第4番、第7番、第8番を単独で買っていて、他の3曲は交響曲選集で聴きました。
全集にしなかったヤンソンスとバイエルン放送響のブルックナー
マリス・ヤンソンスは決して「ブルックナー指揮者」と呼ばれることはありませんでした。音楽のレパートリーはかなり幅広かったですし、R.シュトラウス、マーラー、ショスタコーヴィチはヤンソンスにとって特別な作曲家だったと思いますが、ブルックナーと言われるとヤンソンスよりも他の指揮者のほうが思い付くでしょう。
ヤンソンスとバイエルン放送響が遺したブルックナーの交響曲選集は、初期の交響曲第0番、第1番、第2番と中期の名作第5番が含まれていません。第5番もレコーディングは企画されたようですが実現が叶わなかったようです。
コンセルトヘボウ管との録音もあるが
また、第8番を除く第3番、第4番、第6番、第7番、第9番については同じく首席指揮者を務めていたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とのライヴ録音もあります。こちらもオーケストラの自主レコーディングレーベルRCO Liveでリリースされていますが、同じ曲でもバイエルン放送響とコンセルトヘボウ管で違ったアプローチで聴き比べてみると面白いと思いますが、コンセルトヘボウ管のほうはパワフルさや圧巻はありますが、私自身はブルックナーに関しては緻密なアンサンブルのバイエルン放送響のほうが合っているかなと思います。
バイエルン放送響とブルックナー
バイエルン放送響は1949年設立で、オーケストラの中では歴史が浅いですが、初代の首席指揮者がオイゲン・ヨッフム。ブルックナーの大家として知られ、国際ブルックナー協会の会長も務めた指揮者です。ヨッフムによってブルックナーをみっちり叩き込まれたバイエルン放送響は、その後ラファエル・クーベリック、ロリン・マゼールへとブルックナーを引き継がれます。
全集じゃないから逆に良い
この遺されたブルックナーの6つの交響曲はいずれも21世紀の現代最高峰の演奏と言って良いのではないでしょうか。バイエルン放送響と到達したオーケストラの響きの一つの頂点がここにあると思います。
このブルックナーの交響曲選集は「全集」を意図せず、あくまでも「ライヴ」にこだわり、その時その時のスナップショットのようにヤンソンスとバイエルン放送響の演奏を記録しています。全集ありきだと始めからレコーディングありきでタイトなスケジュールが組まれ、作品の解釈がおろそかになってしまうリスクがあります。色々なブルックナーの交響曲全集を聴いてみましたが、期間が4〜5年という短期間でブルックナーの交響曲全集を完成させたものでは、どうしても解釈がしっくり来ないまま演奏しているのではと思うものもあり、凡庸な演奏に陥りがちです。その点、このヤンソンスとバイエルン放送響はその時その時のブルックナーの交響曲1つ1つに向き合ったために、結果として実り多い演奏に仕上がったのだと思われます。
ライナーノーツによると、ヤンソンスはブルックナーの作品を演奏する際に、たっぷりと時間を掛けてブルックナーの生涯や楽譜の注釈やメモを研究したとのことです。
謙虚に、そしてこだわって
ライナーノーツに書いてありましたが、マリス・ヤンソンスは、自分のイメージ通りの演奏をオーケストラがしてくれなかったとき、”I would like to ask you to…” 「…のようにしてもらいたいのですが」と謙虚な姿勢でしかしこだわって言っていたと書いてあります。ヤンソンスの誠実な人柄は色々な関係者からの話で出ていますが、こういう姿勢でリハーサルに臨んだからこそ、迷いの無いヤンソンスらしい熟成された音楽が作り上げられたのですね。
CDなのに驚きの高音質
そしてこちらは全て普通のCDなのですが、音質がとてもクリアで、弱音までよく聴こえます。全曲ともレコーディング・プロデューサーはウィルヘルム・マイスター(Wilhelm Meister)が担当しています。※第7番だけウィーンでの録音なのでオーストリア放送協会(ORF)のヴォルフガング・スターム(Wolfgang Sturm)と共同プロデュースになってます。このマイスターの活躍あっての高音質だと思うので、とても感謝しています。まるで目の前で演奏されているような臨場感があります。
前置きが長くなりましたが、6曲の交響曲のレコーディングを順に紹介していきます。
交響曲第3番 ニ短調「ヴァーグナー」
第3稿 1889年版
交響曲第3番はブルックナーが敬愛する作曲家ヴァーグナーに献呈されたことから「ヴァーグナー」という呼び名が付いています。きらびやかな金管が多用される作品ですが、かといってキンキン鳴らしてはただのうるさい音楽になってしまう、コントロールが難しい曲です。
この交響曲選集の中で、第3番は最も古い2005年1月のライヴ録音。ヤンソンスがバイエルン放送響の首席指揮者に就いて3年目ですが、ここでも滑らかな響きで理想的な演奏を聴かせてくれます。楽譜は最もポピュラーな第3稿 1889年版を使用しています。
第1楽章は力強い清水のように透き通った響きでとことん美しいハーモニーを奏でています。第4楽章のフィナーレでも緻密で金管もそこまで重たくはありません。演奏後の観客からのブラボーの掛け声と温かい拍手も入っています。
交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」
ノヴァーク版第2稿 1878/1880年版(1886年版)
スコアは1878年に改訂された版に、1880年第4楽章を大幅に変更した第2稿をベースにしたもので、さらに、1886年にブルックナーが小校訂した版(本来なら1886年稿なのですが、ハース版の「1878/1880年稿」の呼び名を踏襲)した、ノーヴァク版第2稿を使っています。
交響曲第4番は2008年11月のライヴ録音。今までこの曲についてはカール・ベームの1973年のウィーンフィルとの録音を愛聴していましたが、このヤンソンス/バイエルン放送響盤を聴いてから、愛聴盤が2つに増えました。
本当に至福のひとときを過ごせます。
交響曲第6番 イ長調
1879-1881年版
元々は会員限定のレコーディング
この第6番は2015年1月のライヴ録音。発売元のナクソス・ジャパンの解説によると、バイエルン放送響の会員限定で配布されたレコーディングですが、2020年10月に発売されたブルックナー交響曲選集で初のリリースとなったものです。さらに交響曲第6番だけ2021年2月に単独でリリースされています。
第2楽章は官能的な美しさでカラヤン美学を彷彿とさせる究極の美しさでしょう。
交響曲第7番 ホ長調
1881-1883年版 (1885年ノーヴァク版)
ウィーンゆかりの1曲をムジークフェライン・ザールで
このブルックナーの交響曲選集で、他の演奏はミュンヘンのフィルハーモニー・ガスタイクでの演奏なのですが、第7番だけはウィーンの楽友協会・大ホール(ムジークフェライン・ザール)での演奏。 2007年11月4日のバイエルン放送響のウィーン公演でのライヴ一発録りになります。
この第7番についてはウィーンフィルによる名盤が多いですが、ウィーンゆかりの曲をウィーンで演奏されたバイエルン放送響をどのように捉えられたのでしょうか。この録音を聴くと本当に幸せな気分になります。音楽のごちそうと言う表現が似合う名演でしょう。
交響曲第8番 ハ短調
1887/1890年稿(第2稿) ノーヴァク版
人気の交響曲
この交響曲第8番は壮大なスケールの作品なので、ブルックナーの交響曲の中でも取り分け人気の作品。ただ、特に英雄的な第4楽章にピークを持ってくるだけではブルックナーの魅力は出てこないと思います。やはり第1楽章のどこか不安な感じや、第2楽章の優雅なスケルツォ、そして第3楽章の美しさ。ここにはブルックナーの全てが詰まっていると思います。
熟成された音楽と理想的なハーモニー
このヤンソンスとバイエルン放送響の録音は2017年11月で、この交響曲選集で最も後の録音。ヤンソンスの音楽はさらに熟成され、そしてバイエルン放送響のハーモニーはさらに理想的なものへとなっており、ヤンソンスが意図した演奏が完璧に音として表れていると思います。第3楽章の美しさは言葉に表せないです。
第4楽章演奏後には観客からブラボーと温かい拍手。
交響曲第9番 ニ短調
原典版
2ヶ月後にコンセルトヘボウ管とも録音したヤンソンス
マリス・ヤンソンスは同じ作品でもオーケストラによって違った演奏になることがあり、例えばベートーヴェンの交響曲第5番「運命」は、2008年5月のコンセルトヘボウ管でのライヴでは爆発するような力強さとほとばしる情熱がありましたが、2012年5月のバイエルン放送響とのライヴでは、緻密なハーモニーですっきりとした響きで演奏されて、全く違う演奏になっていました。
バイエルン放送響とのブルックナーの交響曲第9番は2014年1月のライヴ録音。この2ヶ月後の3月に当時同じく首席指揮者を務めていたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮してライヴで録音している作品。こちらの記事に紹介しましたが、ヤンソンスの師でもあったエフゲニー・ムラヴィンスキーを思わせる急激な下降音や怒涛の渦を作り上げ、厳しい表情のブルックナーでした。
優しい響きとすっきりとした透明感
ただ、このバイエルン放送響とのライヴ録音を聴くと、第1楽章から全然違います。音色が優しいし、コンセルトヘボウ管と作り上げた圧巻だった怒涛の渦が、ここではすっきりとした響きで緻密に演奏されています。
第2楽章はゆっくりとしたテンポで、厚みのはるハーモニー。これもコンセルトヘボウ管との演奏とは違います。
第3楽章も非常に雄大で、湧き水のように透き通った響きで聴く者の心を癒やします。私個人の考えでは、ブルックナーについてはバイエルン放送響との演奏のほうが理想的だと思います。
フィナーレの長い音が静かに消えると、観客からの温かい拍手。
まとめ
マリス・ヤンソンスがバイエルン放送交響楽団と遺したブルックナーの6つの交響曲のレコーディングはいずれも現代最高峰の演奏と言って良いのではないでしょうか。バイエルン放送響と到達したオーケストラの響きの一つの頂点がここにあると思います。
オススメ度
指揮:マリス・ヤンソンス
バイエルン放送交響楽団
録音:
2005年1月20,21日(第3番), 2008年11月26-28日(第4番), 2014年1月13-17日(第9番), 2015年1月22,23日(第6番), 2017年11月13-18日(第8番), フィルハーモニー・ガスタイク(ライヴ)
2007年11月4日(第7番), ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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