オイゲン・ヨッフム1回目のブルックナー交響曲全集 ベルリンフィル&バイエルン放送響(1958-1967年)

ブルックナー交響曲全集 オイゲン・ヨッフム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団&バイエルン放送交響楽団(1958-1966年)

このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲全集 オイゲン・ヨッフム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団&バイエルン放送交響楽団(1958-1966年)
ブルックナー交響曲全集 オイゲン・ヨッフム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団&バイエルン放送交響楽団(1958-1966年)
  • オイゲン・ヨッフムの1回目のブルックナー交響曲全集
  • ベルリンフィルとバイエルン放送響の豪華な振り分け
  • 重厚で荘厳で、武骨なブルックナー

ドイツの巨匠指揮者、オイゲン・ヨッフム(1902年-1987年)。同時代のカール・ベームやヘルベルト・フォン・カラヤンなどに比べると、爆発的に人気になるほどではなかったですが、バイエルン放送交響楽団の設立当初の首席指揮者や、若いベルナルト・ハイティンクとの二頭体制でのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者など、ヨーロッパで重責を担った指揮者でした。

ブルックナー協会の会長も歴任

そして何よりも、ブルックナーの大家として知られ、1950年から国際ブルックナー協会の会長も務めていました。1951年から始まったブルックナー協会によるブルックナーの楽曲の校訂もレオポルト・ノーヴァクがメインにおこなわれて第2次全集版(ノーヴァク版)が完成するのですが、ヨッフムはノーヴァク版を使用しています。

ブルックナーの正統派がどれか分からなくなったときにヨッフム

一つ前のマリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送響のブルックナー交響曲選集の紹介記事を書いてから6日が経っているのですが、その間何をしていたかというと、自分の中で混乱していました。ブルックナーを最近多く聴いていて世界各地のオーケストラがグローバルな指揮者で様々な版のスコアのブルックナーを演奏するのを耳にすると、パワフルな演奏もあればしっとりと演奏もあり、テンポもゆっくりなものもせっかちなものもあり、聴きすぎたことで逆に正直どれがブルックナー「らしい」演奏なのか、分からなくなってきました。

そう言うときに、「そう言えばヨッフムってブルックナーの権威として認識されていたよな」ということを思い出して、ヨッフムの演奏に耳を傾けて立ち返っていたのがこの1週間自分がしたことでした。

ヨッフムのブルックナー交響曲全集は2種類

ヨッフムはブルックナーの交響曲全集を2回完成させています。1回目がドイツ・グラモフォン・レーベルでベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とバイエルン放送交響楽団を振り分けて1958年から1967年におこなわれました。2回目はこちらの記事で紹介しましたが、EMIレーベル(現ワーナー)でシュターツカペレ・ドレスデンを指揮して1975年から1980年におこなっています。どちらかというとステレオ2回目のほうが人気が高いようですが、よりエッジの効いた演奏になっており、私は1回目の古き良きベルリンフィルのサウンドと、設立間もないバイエルン放送響のフレッシュな演奏のほうが好みです。

第0番や第00番は無し

ただ、いくらヨッフムがブルックナーの大家と言っても、ブルックナーの習作とも考えられていた交響曲第0番と第00番は2回とも全集には含みませんでした。また、交響曲第9番の幻の第4楽章も演奏していません。交響曲第9番の補筆版はサー・サイモン・ラトルが2012年にベルリンフィルを指揮して記念碑的な演奏をしていましたが、こうしたスケッチだけの第4楽章をオーケストレーションしようという活動は1980年代以降のもので、まだヨッフムの時代には補筆版とは無縁でした。

ヨッフムの1回目のブルックナー交響曲全集

1回目の全集では、ベルリンフィルが交響曲第1番、第4番「ロマンティック」、第7番、第8番、第9番、そしてバイエルン放送響が交響曲第2番、第3番「ヴァーグナー」、第5番、第6番と、どちらも初期の作品と人気の高い第3番〜9番とをバランス良く振り分けた感じです。

同時期にベートーヴェンの交響曲全集にも取り組んでおり、こちらの記事に紹介しましたが、偶数番号の交響曲でも甘い演奏にせずシンフォニックに骨太の演奏だったのが印象的でした。

私はCD42枚組の「オイゲン・ヨッフム ドイツ・グラモフォン・レコーディング全集」でこのブルックナー全集を聴いていますが、2020年にタワーレコードが独自企画盤としてオリジナルテープからリマスターしてSACD化したものがリリースされていますので、より高音質で聴きたいならこちらが良いと思います。

1865/1866年(リンツ稿) ノーヴァク版

交響曲第1番はベルリンフィルとの全集の最後となった1965年10月の録音。ブルックナーの初期の交響曲は軽んじられる傾向もあるのですが、このヨッフムとベルリンフィルの演奏を聴くと迫力があります。ピリッとした山椒のような辛さがあります。

1877年(第3稿) ノーヴァク版

交響曲第2番は1966年の年末にバイエルン放送響と録音されたもの。バイエルン放送響の明るい透明感のあるハーモニーで鮮明な音色で描いていきます。この曲も初期の交響曲で演奏頻度は少ないですが、改めて聴くと良い曲ですよね。

1888/1889年(第3稿) ノーヴァク版

交響曲第3番はこの全集の最後となった録音で、1966年の年末から1967年の年初にかけてのセッションです。こちらはバイエルン放送響との演奏なのですが、すごい力強さを感じます。第2楽章のアダージョではふっと空気が変わり、美しさが漂います。このギャップが良いですね。

リハーサルの音声データも

ボーナストラックとして、第2楽章のリハーサルの音声データも含まれています。ドイツ語で何を言っているのかはよく分からないのですが、ヨッフムとバイエルン放送響のコミュニケーションを垣間見ることができます。

1878/1880年稿(第2稿) ノーヴァク版

スコアは人気のある1878/1880年稿で第2稿と呼ばれるものですが、私が持っているオイゲン・ヨッフム DG録音全集では、「ハース版」と書かれています。ただ、2020年にリリースされたタワーレコードのCDの情報では「ノーヴァク版1878/80年第2稿」になっています。また、ブルックナー交響曲全集のCDの情報では「1886年稿ノーヴァク版)」となっています。わけが分からなくなりますね。確かに交響曲第4番は1886年にニューヨークで演奏するために少し改訂がおこなわれているのですが、「1886年稿」とは言わずに慣習的に「1878/1880年 第2稿」と呼ばれています。ということは、このヨッフムの演奏は「1878/1880年稿(第2稿) ノーヴァク版」で良いと思うのですが、CDのブックレットの情報が間違っていると何を信じて良いのやら、という感じですね。この曲は第2稿に基づくノーヴァク版がこちらがブルックナー協会の公式の版なので、ヨッフムがノーヴァク版を使うのは自然でしょう。

暴風雨のような激しさ

交響曲第4番「ロマンティック」は1965年にベルリンフィルと録音したものですが、少しもロマンティックではありません。1973年のカール・ベーム指揮ウィーンフィルの演奏とは対極にある演奏で、テンポも速いですし、暴風雨のような激しさがあります。牧歌的な音楽を求める方には不向きの演奏でしょう。

第3楽章のスケルツォでは速いテンポでオーケストラが駆け足のように弾きこなしていき、金管も大音量で炸裂します。ヨッフムのブルックナーは厳しい表情です。第4楽章は重厚でまるで新しい命が生まれるかのような崇高な響きがします。

1877/1878年(第2稿) ノーヴァク版

交響曲第5番は1958年にバイエルン放送響を指揮して録音されたもので、この交響曲全集のトップバッターを飾りました。冒頭を少し聴くだけで感じるのですが、設立当初からバイエルン放送響の特徴が出ていますね。室内楽のような緻密なアンサンブルで、トレモロでは透明感のある響きがします。

演奏時間は第1楽章が20:54、第2楽章が19:23、第3楽章が12:35、第4楽章が24:00でトータル約77分です。

「定盤」に疑問を持っていた第2楽章アダージョの速さ

音質が若干こもっていますが、第2楽章ではたっぷりとしたテンポで本当に美しいです。ただ、中間部では引き締まってきて熱を帯びてくるのでメリハリがあります。

この曲はユニバーサル・ミュージックの「定盤」シリーズでベルナルト・ハイティンク指揮ウィーンフィルの1988年の録音があるのですが、第2楽章アダージョがやや速めのテンポで16分50秒で演奏されていて、「これが定盤なのかなぁ」と疑問に思っていたのですが、このヨッフムとバイエルン放送響の録音を聴いて考え直しました。やっぱりアダージョはゆったりで良いんです。レコード・レーベルの謳い文句に騙されないようにするためには色々と自分で追究していくしかないのですが、初めてブルックナーの交響曲第5番を聴こうとする方にはどれが良いのかいきなりは分からないですよね。

1879/1881年 ノーヴァク版

交響曲第6番は1966年7月にバイエルン放送響と録音されたもの。第1楽章は不気味な付点リズムに乗って低弦が主題を奏でるのですが、トゥッティになったときは弾けるほど力強さがあります。私の中でこの曲の楽しみは第2楽章にありますが、ヨッフムとバイエルン放送響は期待を裏切らない美しさで奏でます。第3楽章のスケルツォでは少し不器用で武骨な感じでブルックナーらしさが出ています。第4楽章はつんざくような金管の響きでパワー全開です。

1881/1883年 ノーヴァク版

交響曲第7番は1964年10月のベルリンフィルとの演奏。第4番「ロマンティック」と並んで牧歌的なこの作品はとても人気がありますが、ヨッフムとベルリンフィルは他の交響曲とは違い、この第7番だけはしっとりと、優雅に演奏するのです。第8番と同じオーケストラと思えないぐらいの違いがあります。

演奏時間は第1楽章が20:37、第2楽章が25:00、第3楽章が9:44、第4楽章が12:36。他の演奏家に比べれば第1楽章、第3楽章、第4楽章が速く、逆に第2楽章がゆっくりです。

第1楽章は序奏からトレモロを効かせて「霧」を立ち込めさせ、まるで翼が生えるように第1主題が奏でられます。ここではベルリンフィルの弦がしっとりとしていて美しいです。第2楽章はぐっと遅くテンポを落として、丁寧に旋律を引き出しています。第3楽章は冒頭からクライマックスへの静から動への持って行き方がスムーズですね。第4楽章もテンポを落とすことなく、崇高で近づき難さすら感じます。

1887/1890年稿(第2稿) ノーヴァク版

第8番は全集最初の録音で、1964年1月の録音。これだけベルリン・フィルハーモニでの録音で、それ以外のベルリンフィルの録音では場所がイエス・キリスト教会に変わっています。

演奏時間は第1楽章が13:41、第2楽章が14:02、第3楽章が26:42、そして第4楽章が19:50。全曲を通じても75分なので、今のCD1枚に余裕で入る長さです。ただ、テンポは速くも遅くもなく、中庸という感じ。オーソドックスな解釈です。

妥協しない響きというか、聴きやすさにはこだわらず、ブルックナーの楽曲の持つ素の部分をさらけ出したかのような演奏。第1楽章は甘く漂うことはなく、無情にも突き進みます。金管の響きが尖っています。敢えて尖らせたのだと思いますが、それによって悲壮感が増していますね。第2楽章はきれいに縦に整ったライン。第3楽章は崇高です。とにかく深いです。ただ美しいだけではなく、どこか大きな命が生まれるような緊張感もあります。第4楽章は足早に進みます。この楽曲は演奏家によっては第3楽章がゆっくり第4楽章もどっしりと進む演奏もありますが、ヨッフムとベルリンフィルの演奏を聴いている気持ちの良いぐらいに速いテンポです。最後のソ、ミレ♭ドの音はリテヌートが付いているのでこれでもかというぐらいにもったいつけて遅くする演奏もある中、ヨッフムはパーパパパンと一気に駆け足で締めくくっています。

1887/1896年 ノーヴァク版

交響曲第9番は1964年12月にベルリンのイエス・キリスト教会でベルリンフィルを指揮して録音したもの。演奏時間は第1楽章が23:19、第2楽章が9:49、そして第3楽章が27:41です。

冒頭の通奏低音から武骨です。ゾクゾクとするようにテンポを上げていき,クライマックスではベルリンフィルの機能が炸裂します。しっかりとした間合いを取って決して流麗には流れません。

ブルックナーの演奏については、カール・ベーム、ベルナルト・ハイティンク、カルロ・マリア・ジュリーニ、マリス・ヤンソンスなど、まろやかな演奏で評価も高いのですが、このヨッフムとベルリンフィルの演奏を聴くとブルックナーの原典に立ち返ったような気持ちになります。武骨な響きはこの時代らしさを感じさせるのですが、決して聴衆にこびない響きで、実に堂々としていますし、吠えるような力強い音楽を生み出しています。

第1楽章は余韻も無く唐突に幕切れしますし、続く第2楽章もテンポがかなり速いです。演奏時間はわずか9分49秒です。まるで聴衆が置いてけぼりになりそうになっても、ヨッフムとベルリンフィルはひた走っています。

第3楽章はこれまでと一転して、たっぷりとしたテンポで宙に漂うかのように流れます。ベルリンフィルの響きが、まるでウィーンフィルが弾いているのかと思うぐらいに美しくなるんです。ヨッフムはここで極上の響きを出すために敢えて第1楽章であんなにゴツゴツさせた演奏にして、第2楽章で近寄れないぐらいに速く厳しい表情を引き出したのでしょうか。第3楽章を聴いて何となく合点がいきました。

音楽は次第に美しさから荘厳さへと移り変わっていき、イエス・キリスト教会での演奏なのですが、神に捧げる祈りが叫びのように強烈に演奏されます。この緊迫感は、すごいです。

色々なブルックナーを聴いた上で改めて聴いてみると新しい発見がある、ザ・ドイツという感じの厳粛で武骨な響きのするブルックナーです。ブルックナーを聴きすぎて逆にどれが真のブルックナーか分からなくなったとき、このヨッフムの全集を聴くことでキャリブレーションすることができます。また迷ったら原点に立ち返りたいという意味で星5つ付けておきます。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:オイゲン・ヨッフム
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(第1番、第4番、第7番、第8番、第9番)
バイエルン放送交響楽団(第2番、第3番、第5番、第6番)
録音:1964年1月13−24日(第8番), ベルリン・フィルハーモニー
1964年10月6-10日(第7番), 1964年12月1-5日(第9番), 1965年6月22日-7月5日(第4番), 1965年10月16-19日(第1番), ベルリン・イエス・キリスト教会
1958年2月8-15日(第5番), 1966年7月1-3日(第6番), 1966年12月27−29日(第2番), 1966年12月30-1967年1月8日(第3番), ヘラクレス・ザール

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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