このアルバムの3つのポイント

マリス・ヤンソンス ラジオ・レコーディングズ
マリス・ヤンソンス ラジオ・レコーディングズ
  • 2014年のクリスマス・マチネのコンサート
  • 滑らかなコンセルトヘボウ・サウンドで聴くマーラーの交響曲
  • ソプラノはあのアンナ・プロハスカ

マリス・ヤンソンスはオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者を2004年9月から2015年3月まで10年半にわたってつとめており、この名門オーケストラと数々の名演を残した。勇退記念として、2015年5月にリリースされたのが「Mariss Jansons Live – The Radio Recordings 1990-2014」に放送音源から未発表の演奏をCD13枚とDVD1枚のBOXセットとしてリリース。ヤンソンスとコンセルトヘボウ管は演奏頻度の割に録音が少ない印象だったのだが、ここで一気に貴重な演奏を聴くことができるのが嬉しい。特にラフマニノフの交響曲第2番とプロコフィエフの交響曲第5番は好評だったので、2016年、2017年に2回も分売されている。

この中のDVD1枚というのが、2014年12月25日の本拠地コンセルトヘボウでの公演で、マーラーの交響曲第4番が収録されている。ヤンソンスがコンセルトヘボウ管の首席指揮者を勇退する3ヶ月前の演奏で、コンセルトヘボウ管の公式サイトでもこのときの演奏会の情報が載っているが、クリスマス・マチネ(Christmas matinee)と書いてある。マチネとは夜ではなく昼に行われる演奏会(matinee)のことで、時間も短めの公演であることが多い。この日もプログラムはこのマーラーの交響曲第4番だけなので1時間少々の演奏会であったのだろう。

私はDVDでこのコンサートを観たが、何と、コンセルトヘボウ管の公式サイトでこの演奏が全曲無料で見ることができるのだ。DVDよりは若干画質と音質が落ちてしまっているのは否めないが、1曲まるまる無料とはだいぶ気前が良い。

映像はヤンソンスが階段から下りてくるところから始まる。オランダ、アムステルダムにあるコンセルトヘボウの大ホールは、ホールを正面に見て右側の階段から下りてくる形式なので、拍手も指揮者が登場してから階段を下りきり、指揮台に立つまで続くので、他のコンサート会場に比べると長くなる。これはこれでコンセルトヘボウの文化なのだろう。それを分かっているからか、ヤンソンスはこの演奏の終演後では階段を上まで上り切れないで階段の途中で待って、また下りてきて拍手を浴びていた。

コンセルトヘボウの会場では赤い花が飾られていた。クリスマスだからポインセチアだろうか、ちょっと遠目では分からない。

プロハスカ/ヤンソンス/コンセルトヘボウ管 2014クリスマス・マチネ
2014年クリスマス・マチネのコンセルトヘボウの様子 (c)Albersen Music Publishers, Den Haag

第1楽章は軽やかに始まる。ヤンソンスらしい円熟した演奏で、細部まで精緻に音楽が作られている。金管のツヤのある響きや豊かな木管、美しい弦など、コンセルトヘボウ管の魅力が随所に現れている。東洋的な香りがする音楽であるが、コンセルトヘボウ管のサウンドは土着性があまりなくインターナショナルで洗練された演奏だ。DVDで見るとトライアングルや鈴などの楽器がどこで登場するのか一目瞭然なので嬉しい。テンポは平均的で、洗練された演奏で完成度は非常に高い。

コンセルトヘボウにはゆかりのある作曲家たちの名前が飾られているが、指揮するヤンソンスの背後には「MAHLER」の文字が光り輝く。

プロハスカ/ヤンソンス/コンセルトヘボウ管 2014クリスマス・マチネ
コンセルトヘボウ管を指揮するマリス・ヤンソンス。後ろには「MAHLER」の文字が光る。(c)Albersen Music Publishers, Den Haag

第2楽章はコンサートマスターのリヴィウ・プルナール(Liviu Prunaru)氏のヴァイオリンで始まる。妖艶な美しさと切れの両面が楽しめる演奏だ。丁寧で弱音まで美しい。

楽器の音を強調させるために、マーラーは曲のスコアに楽器を持ち上げて演奏するように指示を書いているところがある。交響曲第1番「巨人」や第5番でこの指示が出てくるが、それを「ベル・アップ奏法」という。ちなみに「巨人」では第4楽章でホルン奏者が起立して演奏するような指示もある。この第4番のヤンソンスとコンセルトヘボウ管の演奏でもベル・アップがされているところがところどころあるのだが、映像で見るとそのベル・アップ奏法がどこでされているのかがよく分かった。第1楽章や第2楽章で見付けた。

第2楽章でのクラリネットのベル・アップ (c)Albersen Music Publishers, Den Haag

この映像を見ていて思ったのは、コンセルトヘボウ管のメンバーの1/3ぐらいが女性であること。特にヴァイオリン、ヴィオラが多いのだが、アルト・オーボエの女性奏者はルツェルン祝祭管弦楽団で見覚えがあるなと思ったらこちらMiriam Pastor Burgosさんはルツェルン祝祭管も兼務している方だった。世界トップのオーケストラを当たり前のように観て、聴けるっていうのは実に幸せなことだとつくづく思う。

第3楽章が始まる前に、ソプラノのアンナ・プロハスカが登場し、観客から静かな拍手で包まれる。モスグリーンのドレスに気品を感じる。そのプロハスカが椅子に座り、ヤンソンスが集中力を高めるために静まってからしばらくして第3楽章の演奏がコントラバスのピチカートで静かに始まる。この楽章は特に美しく、ヤンソンスの円熟した音楽作りが光る。

第3楽章が静かに終わってから間髪入れずに第4楽章が颯爽と始まり、ソプラノのプロハスカが起立する。プロハスカといえば今一番忙しい歌手の一人だろうが、ここでも美しく、時には力強い歌声を聴かせてくれた。

惜しいのは、映像だと正面からのカメラだけ画質が悪いこと。指揮者やオーケストラのメンバーを映すカメラはクリアに見えるのだが、正面カメラだけ粗くなってしまう。正面カメラだけ遠いロケーションから撮影しているからなのだろうが、アンナ・プロハスカの歌う映像が若干見づらい。

プロハスカ/ヤンソンス/コンセルトヘボウ管 2014クリスマス・マチネ
第4楽章を歌うアンナ・プロハスカ (c)Albersen Music Publishers, Den Haag

そして演奏後は聴衆から温かい拍手を贈られ、満足そうな表情を浮かべるマリス・ヤンソンスとコンセルトヘボウ管のメンバー、そしてアンナ・プロハスカ。

プロハスカ/ヤンソンス/コンセルトヘボウ管 2014クリスマス・マチネ
演奏を終えて笑顔で応えるアンナ・プロハスカとマリス・ヤンソンス、コンセルトヘボウ管のメンバーたち。(c)Albersen Music Publishers, Den Haag

2014年のクリスマスを彩った至福の「天上の音楽」であった。

オススメ度

評価 :4/5。

ソプラノ:アンナ・プロハスカ
指揮:マリス・ヤンソンス
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:2014年12月25日, コンセルトヘボウ(ライヴ)

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コンセルトヘボウ管の公式YouTubeで一部試聴可能。また、コンセルトヘボウ管の公式サイトで全曲を試聴可能。

特に無し。

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