こちらの記事で紹介しましたが、ドイツ・ベルリンの歌劇場専属のオーケストラ、ベルリン国立歌劇場管弦楽団 (シュターツカペレ・ベルリン)が2016年以来6年ぶりに来日公演をおこなっています。

ただ、当初は音楽監督のダニエル・バレンボイムが指揮する予定でしたが、今年10月にバレンボイムがTwitter でこの数ヶ月の演奏活動、特に指揮活動から降板すると発表がありました。

バレンボイム降板によりティーレマンが指揮

それを受けてシュターツカペレ・ベルリンの日本を含むアジア・ツアーもバレンボイム降板となり、来日公演ではバレンボイムの指名でクリスティアン・ティーレマンが代役を果たすこととなりました。

【株式会社テンポプリモ】【指揮者・一部公演曲目変更のお知らせ】ベルリン国立歌劇場管弦楽団≪シュターツカペレ・ベルリン≫ (2022年10月26日)

プログラムも12月6日の東京オペラシティ公演では、シューベルトの交響曲第7番「未完成」とチャイコフスキーの交響曲第5番から、ヴァーグナーの『トリスタンとイゾルデ』から前奏曲と愛の死、そしてブルックナーの交響曲第7番へと変更され、12月7日のサントリーホール公演でのブラームスの交響曲第1番と第2番は、演奏順序が第2番が先になるよう変更。12月8日のサントリーホール公演ではブラームスの交響曲第3番と第4番が変更なく演奏されます。

ティーレマンはシュターツカペレ・ベルリンとライバル関係にあるドレスデン国立歌劇場管弦楽団 (シュターツカペレ・ドレスデン) の首席指揮者。意外にもティーレマンがシュターツカペレ・ベルリンの指揮台に立ったのは今年6月が初めて。ヘルベルト・ブロムシュテットの急遽の代役としてでした。そして10月にはバレンボイム降板を受けてヴァーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』のチクルスも代わりに指揮。そして12月のこの来日公演と、シュターツカペレ・ベルリンにとってティーレマンは今年欠かせない指揮者になったわけですね。

そして待ちに待った12月7日のサントリーホール公演を聴きに行きました。

すっかり冬のイルミネーションの季節になっていますね。東京港区赤坂のサントリーホールでもイルミネーションが心を温めてくれました。

サントリーホール前にある「芽 (めぶき)」のイルミネーション (2022年12月7日撮影)
サントリーホール前にある「芽 (めぶき)」のイルミネーション (2022年12月7日撮影)

開場が始まるサントリーホールの入り口。さぁ、いよいよ始まります。

開場されたサントリーホールの入り口 (2022年12月7日撮影)
開場されたサントリーホールの入り口 (2022年12月7日撮影)

こちらが本日の公演。ポスターの真ん中にある12月7日の日です。

サントリーホール、本日の公演 (2022年12月7日撮影)
サントリーホール、本日の公演 (2022年12月7日撮影)

対向(両翼)配置のオーケストラ

こちらは開場後、コンサートが始まる前のホールの様子。コントラバスが指揮台から左手にあります。

演奏会前のサントリーホール大ホール
演奏会前のサントリーホール大ホール

対向配置 (両翼配置)にするのかなと想像を膨らませていると、オーケストラのメンバーが登壇すると、やはりティーレマンが好む対向配置で、第1ヴァイオリンが左、その背後にコントラバス、右に向かってチェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという並び。

明るい音色とフレーズごとの起伏

プログラム前半はブラームスの交響曲第2番。第1楽章の冒頭から流れる音楽は、ティーレマンらしからぬ流暢さ。下から突き上げるようなティーレマンの指揮スタイルとは違い、上から腕を下ろして滑らかにタクトを進めていきます。

冒頭を聴いただけで涙が出るほど美しいシュターツカペレ・ベルリンの響き。

12月5日の日経新聞の「私の履歴書」で指揮者のリッカルド・ムーティがサントリーホールについて絶賛していて、「どこで聴いてもすばらしい」、「オーケストラの響きは実に自然で、こういう経験はどこででもできるものではない。」と語っていたサントリーホールの音響。このブラームスの第2番の冒頭だけでも、それぞれの楽器の音色がすっと混じって耳に入ってきます。もう早くも気分は最高でした。

ふわっとどこまでも柔らかい第1楽章が終わると、束の間の休息だけで第2楽章へ。今回のティーレマンは、全楽章ごとの休みが非常に短く、1つの巨大な音楽として捉えているように感じました。

第2番の第2楽章からティーレマンらしい「あざとさ」が出てきます。弱音を出すところでは指揮台で身を遠ざけるように退いだり、そして情熱なところは下から突き上げるようないつもの指揮スタイルに変わっていました。

ブラームスにとって大成功した第1番の後で、全く新しい交響曲を作ろうとした第2番。その意図を汲んで第1楽章では流暢に流した音楽を、第2楽章以降からはブラームスらしさが出ていると捉えたティーレマンの考えのように思えます。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェン・チクルスで、ヨアヒム・カイザーとの対談がありますが、そこで交響曲第8番について同じことを語っていたのを思い出しました。

さて第3楽章では華やかさとゾクゾク感、そして第4楽章ではかなり速いテンポで押し切りました。ゆったりするテンポが好みのティーレマンがここまで速くするのには驚きました。情熱的なフレーズでは上品に演奏させるのではなく、渾身のアジタートで音を引き出すシュターツカペレ・ベルリンのメンバーたち。

第2番を先に変更したプログラム

バレンボイムのプログラムでは第1番→第2番と作曲順に演奏する予定でしたが、ティーレマンになって第2番→第1番の順番に変更しています。休憩後に演奏された交響曲第1番はよりティーレマンらしさが出ています。

ティーレマンの特徴に「あざとい」と言われることがありますが、この第1番でもアウフタクトの前の溜めや、最弱音になったときにテンポを落としたり、トレモロを同じ強さで弾いたり、とティーレマンらしさがよく感じられました。主題ごとにテンポを少し変えてフレーズごとの性格を描き分けているのはオペラを得意とするティーレマンならでは。

第1楽章のリピートは無し。第2楽章はコンサートマスターのヴァイオリンソロに聴き惚れました。第4楽章はティンパニを強烈にとどろかせて、ヴァーグナーの世界のような雰囲気を生み出しドラマティックに。細部でもピチカートの美しさにハッとさせられるなど、聴き慣れた曲でも発見が多い演奏会でした。

コンサートでは大抵の場合カメラ撮影はNGですが、今回のサントリーホールでは、開場後〜演奏前、休憩中、そしてカーテンコールでの撮影がOKとなっていました。

交響曲第1番の演奏後では、私もですが客席の皆さんがスマホを向けて撮影できました。

カーテンコールに応えるクリスティアン・ティーレマンとシュターツカペレ・ベルリン (2022年12月7日@サントリーホール)
カーテンコールに応えるクリスティアン・ティーレマンとシュターツカペレ・ベルリン (2022年12月7日@サントリーホール)

SNS等に上げる際は客席のプライバシーに配慮するように指示がありましたので、ここでは客席にモザイクを入れています。

ティーレマンの気配り

サントリーホールはヴィンヤード (ブドウ畑)型のホールなので、ホール後方にも客席があります。ティーレマンとシュターツカペレ・ベルリンのメンバーたちは、ホール正面の客席に挨拶した後、くるっと振り返って後方の客席にも拍手に応じます。背後の客席にも気配りするティーレマンとシュターツカペレ・ベルリンの心意気に感動しました。

カーテンコールでホール後方の客席に挨拶するティーレマンとシュターツカペレ・ベルリンのメンバー
カーテンコールでホール後方の客席に挨拶するティーレマンとシュターツカペレ・ベルリンのメンバー

定期公演ではなくゲスト公演なのでアンコールもあるのかなと少し期待していましたが、プログラム通り第2番と第1番を演奏した後、何度にもわたるカーテンコールがあり、オーケストラは解散。アンコール無しでも大満足の演奏会でした。

オーケストラが解散しても鳴り止まぬ拍手に応じる指揮者ティーレマン。素晴らしい演奏会でした。

シュターツカペレ・ベルリンのメンバーが解散した後、鳴り止まぬ拍手に応じる指揮者のクリスティアン・ティーレマン
シュターツカペレ・ベルリンのメンバーが解散した後、鳴り止まぬ拍手に応じる指揮者のクリスティアン・ティーレマン

指揮:クリスティアン・ティーレマン
シュターツカペレ・ベルリン
演奏:2022年12月7日, サントリーホール

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