このアルバムの3つのポイント
- マウリツィオ・ポリーニ3度目のブラームスのピアノ協奏曲の録音
- ドイツの重鎮、クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデンと
- ライヴ録音ならではのスリリング
ティーレマンとシュターツカペレ・ベルリンの来日公演近付く
こちらの記事で紹介したシュターツカペレ・ベルリン (SKB)と指揮クリスティアン・ティーレマンの来日公演が近付いてきました。
元々来る予定だった指揮者ダニエル・バレンボイムとSKBによるブラームスの交響曲全集と、ティーレマンの指揮による別のオーケストラ、シュターツカペレ・ドレスデン (SKD)によるブラームスの交響曲全集の録音を聴き比べながら、ティーレマン×SKBだとどうなるんだろうと想像している日々です。
ポリーニ3回目のブラームスのピアノ協奏曲録音
さて、今回紹介するのもティーレマンが指揮したブラームス。ただし、ピアノ協奏曲で、ソリストはあのマウリツィオ・ポリーニ。
ポリーニと言えば、3回ブラームスのピアノ協奏曲を録音していて、1回目が1976年。カール・ベームとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との協演で第1番、そしてクラウディオ・アバド指揮ウィーンフィルと第2番をセッション録音しました。ウィーンらしい美音が活かしつつ、ベームは端正に、そしてアバドは情熱的な演奏をおこないました。どちらもポリーニのピアノは硬質で、オーケストラの柔らかい音と異質な組み合わせを感じました。
続く2回目は1995年と97年のアバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのライヴ録音。盟友アバドだけにポリーニとの音楽の方向性がピッタリ。重厚で情熱的なブラームスはこのコンビならではでしょう。
そして3度目が、ティーレマン指揮SKDとのドレスデンのゼンパー・オーパーでのライヴ録音。第1番が2011年6月、第2番が2013年1月です。
両翼配置のシュターツカペレ・ドレスデンと拍を意識したティーレマン
こちらの演奏をYouTube動画で見ましたが、ティーレマンは下から上にこみ上げるようないつもの指揮スタイル。ティンパニの連打とホルンの「ブー」という音から始まる第1番。ウィーンフィルのような洗練された響きや、ベルリンフィルの重厚な秩序だったハーモニーと違って、野武士のようなワイルドさがあるシュターツカペレ・ドレスデンのサウンド。冒頭から第1ヴァイオリンがきしんでいます。ティーレマンも流れるようなタクトではなく、しっかりと拍を打つ指揮振り。オーケストラは指揮者から見て左手が第1ヴァイオリン、その右がチェロ、さらにヴィオラ、そして一番右が第2ヴァイオリンの両翼配置(対向配置)。
第1番の第1楽章でピアノ独奏が入る前の変ロ短調の副主題では、アバドだったらテンポを上げてアドレナリンを放出とさせたでしょうが、ティーレマンはぐっと手綱を抑えたまま。きっちりとしたテンポでどっしりとそのまま進めます。そして消え入るオーケストラと交代で、ポリーニのピアノが奏でられます。
ほころびも見えるポリーニのピアノと増した深み
ポリーニのピアノと言えば完璧なテクニックが特徴。1942年1月生まれのこのピアニストも、今回の録音では第1番が69歳、第2番71歳の御年。さすがにかつてのような強靭なタッチ、圧倒的な音量、超絶技巧というわけには行かず、少しほころびも見えてきました。速いテンポでトリルの連打が押し通すことはなく、少しテンポに余裕を持たせています。ただ、深みは増しています。慈愛すら感じるこの優しさは今のポリーニだからできる世界のように思えます。
ピアノがオーケストラと対峙する第1番よりも、オーケストラと溶け合う第2番のほうがポリーニの真価が出ているかもしれません。以前の録音よりももたついているかな?と感じるフレーズもありますが、オーケストラの重厚感に負けないほどピアノが雄大に奏でられています。
音楽批評家の評価は
ポリーニについては、こちらの記事で紹介した2020年12月にリリースされたムック本があります。
そこで戸部 亮(とべ あきら)氏が書かれた「ポリーニとその共演者たち」という記事にこのティーレマンとの協奏曲の感想が書いてあり、以下のように書いています。
ティーレマンが指揮する音楽には、どこか「あざとさ」がある。
(中略)
ドレスデンは透明感よりも、深く、ふくよかさがある、唯一無二のサウンドを持つが、毒気が触媒になり、ドレスデンならではの、独特のビロードのような響きがこの世でも再現できている。その響きに今のポリーニのピアノが合うのである。ただ、アバドのときのようなその場、瞬間、瞬間の閃きや音楽的な対話、もしくは対決はない。いい演奏であるが、残念ながら後世に残るような演奏とまでには至っていない。
音楽之友社「マウリツィオ・ポリーニ―「知・情・意」を備えた現代最高峰ピアニストのすべて」の『ポリーニとその共演者たち』(戸部 亮)より
また、同じムック本の巻末にあるディスクグラフィでは、船木 篤也 氏がレビューを書いていますが、このブラームスの協奏曲については、第1番は「さすがに第1楽章に頻出する至難なトリルの箇所等は、一直線に突き抜けるのではなく、ソリストの老いを感じさせる」とか「アバドとの2回目の録音では、ソリストと指揮者の方向性が一致していたのに対して、ティーレマンは楽曲の起伏に配慮し、かなりあざとい表現を盛り込んでいる」と書いています。ここでも「あざとい」という言葉が出ていますね。
また第2番については、「かつての鋭角的なフレージングではなく、抑制を十分にきかせつつ、楽曲が備えている光と翳りを的確に描き上げている。ティーレマンと古豪楽団が、重みのあるサウンドで、音楽にドラマティックな起伏を与えている」と表現。第1番と同様に「起伏」という言葉を使っています。
まとめ
ポリーニ3度目のブラームスのピアノ協奏曲の録音にして、ドイツの重鎮ティーレマン&ドレスデンとの協演。完璧なテクニックを求めるのは難しくなってきてはいるものの、より深みを増したポリーニのピアノ。ティーレマンとドレスデンも重厚なサウンドで独自の色を付けています。
オススメ度
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
指揮:クリスティアン・ティーレマン
シュターツカペレ・ドレスデン
録音:2011年6月11日(第1番), 2013年1月25日(第2番), ゼンパー・オーパー(ライヴ)
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試聴
ピアノ協奏曲第1番と第2番をそれぞれApple Music で試聴可能。
また、YouTubeでもそれぞれの動画があります。
受賞
特に無し。
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