このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲第9番 パーヴォ・ヤルヴィ/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団 (2023年)
ブルックナー交響曲第9番 パーヴォ・ヤルヴィ/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団 (2023年)
  • パーヴォ・ヤルヴィとトーンハレ管のブルックナー三部作の録音のトリ
  • 穏やかさとドラマティック
  • 透明感あるトーンハレの響き

生誕200年のアニバーサリーで賑わうブルックナーの演奏・録音

今年2024年は作曲家アントン・ブルックナーの生誕200年ということで、例年以上に演奏会、録音が充実しています。私も最近はずっとブルックナーばかり書いている気がしています。交響曲全集だとドイツ・グラモフォンからアンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 (2016-2021年)や、C Major から映像作品、ソニー・クラシカルからCD・配信でクリスティアン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (2019-2022年)がリリースされ、他にもこちらの記事で紹介したフランソワ・グザヴィエ=ロト指揮ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団こちらのトーマス・ダウスゴー指揮ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団こちらサー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団の録音なども出ています。

こうした近年のブルックナー音楽の饗宴の中にパーヴォ・ヤルヴィとスイスのチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団も紹介したいところ。2024年8月30日にApple Music で交響曲第9番の録音が配信開始となり、私も聴いてこれはすごいと思い、CD でも買うことに。

せっかくなので第7番と第8番も含めて三部作とも買いました。しかも国内盤で。輸入盤も国内盤もSACD でもSHM-CD でもないただのCD なので、音質は配信よりも向上しないですが、解説を目当てに。

パーヴォ・ヤルヴィとチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団のブルックナー三部作
パーヴォ・ヤルヴィとチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団のブルックナー三部作

既にヤルヴィはフランクフルト放送交響楽団と2008年から2017年にかけてブルックナーの交響曲の全集録音をライヴ演奏で完成していて、第0番から第9番まで収録されています (RCA レーベル)。ただし、今回のトーンハレ管とは第7番、8番、9番の後期交響曲のみの録音で、アルファ・クラシックスからリリースしています。ヤルヴィとトーンハレ管は演奏会でも並行してブルックナーを取り上げ、第7番 (2022年1月)、第8番 (2022年9月)、第6番 (2022年10月)、第3番 (2022年11月)、第9番 (2023年9月)、第1番 (2024年9月25日と27日を予定)を演奏している他、トーンハレ管は客演のリオネル・ブランギエと第4番 (2022年1月)、ケント・ナガノと第9番 (2023年3月)、パトリック・ハーンと第4番 (2023年4月)も演奏しています。

トーンハレ管の本拠地であるコンサートホール「トーンハレ」は2017年から2021年にかけて改修工事がおこなわれ、2021年9月にこけら落とし公演。ヤルヴィとトーンハレ管のブルックナー録音も改修後のトーンハレでのもの。ブルックナーの録音にはトーンハレの響きが不可欠だったと、録音を耳にすると感じます。

今回紹介する交響曲第9番は2023年9月の録音で、演奏会と並行しておこなわれたセッション録音です。ライヴ録音のほうが臨場感がありますが、セッション録音だからこそホールの音響を熟慮して生み出された響きをより感じられる気がします。

第1楽章は温かみがあり、提示部ではブルックナー霧の中にホルンが柔らかに旋律を紡いでいきます。トーンハレの透明感ある響きが実に美しく、やはりこの録音を語る上でホールの存在は欠かせないです。トラック1の2分36秒で練習番号Cの第1主題の第7動機でフォルテフォルテッシモ (fff) になりますが、その直前のクレッシェンドでもヤルヴィとトーンハレ管は力みすぎることはなく自然体。煽ることをしません。そしてfff の前に少し間を置く演奏もある中、ヤルヴィは間髪入れずにクレッシェンドからの主題の中核動機のつながりを示します。78小節からのフレーズでは弦のピチカートに木管がタタンと入るのですが、これがまるで夜空で星々の光が呼応するかのよう。

3分54秒からの第2主題 (練習番号D) は再び穏やかになり。gezogen (引きずるように)と指示があるヴィオラやコントラバスの低音も強調しすぎず、あくまで主旋律はヴァイオリンを始めとした他パートにあることを明確にしています。8分6秒からの練習番号F、第3主題でも温かみがあってのびのびとした旋律に心を奪われます。

ある意味、第1楽章の提示部ではおとなしめだったのが、展開部移行ではがらっと変わるのがヤルヴィの巧いところ。練習番号N の中核動機の展開では提示部のときよりもさらに加速してfff も強烈。ただ、金管がキンキンすることは全くなく、トーンハレ管の柔らかい響きのまま厚みを持って迫ってきます。

第1楽章だけで書きすぎてしまったのですが、第2楽章と第3楽章も書かないとですね。第2楽章はトリオに入ってからの練習番号D 、トラック2の5分6秒あたりでフルートが何ともミステリアスで印象的でした。第3楽章はクライマックスでのヴァーグナーチューバのコラールが本当に美しいです。

ヤルヴィとトーンハレ管のブルックナー三部作の最後を飾った第9番。トーンハレのホールの響きと合わさった秀演です。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
録音:2023年9月, トーンハレ・チューリッヒ

Apple Music で試聴可能。

新譜のため未定。

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