耳で聴く『指環』の4部作録音の合間に

本日紹介するのは、ゲオルグ・ショルティ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のブルックナー交響曲第7番の録音。1965年10月に収録されたものです。ショルティのブルックナーはこちらの記事にまとめていますが改めての紹介です。

ブルックナー交響曲第7番 ゲオルグ・ショルティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1965年)

デッカ・レーベルがショルティとヴァーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』のスタジオ録音し始めたのが、1958年10月の第1作『ラインの黄金』から。敏腕プロデューサーのジョン・カルショーが耳で聴くオペラを目指して4部作を全曲レコーディングするという途方もない企画でしたが、第3作『ジークフリート』が1962年5月&10月、第4作『神々の黄昏』が1964年5〜11月、第2作『ヴァルキューレ』が1965年10、11月と、ショルティ&ウィーンフィルとデッカのチームはこの企画を見事に実現させました。

そしてこの『指環』の合間にショルティ&ウィーンフィルはベートーヴェンやブルックナーの交響曲も録音しています。今回紹介するブル7は1965年10月の録音なので、まさにヴァルキューレと同時期のもの。ベートーヴェンの第5番はまさに火花散るような熱演でした。

ウィーンフィルと契約していたデッカ・レーベルはブルックナーの交響曲全集に乗り出します。1965年から1974年にかけてクラウディオ・アバドホルスト・シュタインカール・ベームロリン・マゼール
ゲオルグ・ショルティズービン・メータと6人の指揮者で振り分けて9つの交響曲録音を完成させました。

ウィーンフィルと言えばブルックナー生前から作品を演奏したこともあるこの作曲家と縁の深いオーケストラですが、当時のデッカに一人でブルックナーを全曲振ることができる指揮者がいないとのことでオムニバスになったと言われています。一方、ドイツ・グラモフォン・レーベルではオイゲン・ヨッフムバイエルン放送交響楽団ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を振り分けて1958、1964〜67年に交響曲全集を完成させています。また、デッカでブルックナーの録音を遺していたハンス・クナッパーツブッシュは1964年後半から手術を受けその翌年に亡くなってしまいます。

当時まだ若手だったアバドやメータの起用とは思い切った決断ですが、中でも9番を指揮したメータはがまだ29歳でこれがデビュー録音でした。

ウィーンフィルが一人の指揮者とブルックナーの交響曲全集を完成させたのは、2019年から22年に完成したクリスティアン・ティーレマンとの全集 (紹介記事)を待つことになりますが、意外にもつい最近のことなんですよね。

第7番と8番を担当したショルティ。クナ追悼の演奏会でも

その録音の中で第7番と8番を担当したのがショルティ。第7番レコーディングの1965年10月当時は53歳で大ベテランですが、ブルックナーはどうなるのか。

プロデューサーはもちろんカルショー、レコーディングエンジニアはゴードン・パリー。そしてスコアはノーヴァク版で第2楽章のシンバル・打楽器は有りです。

指揮者の中にはスタジオ録音と演奏会で違うスタイルの方もいましたが、ショルティはその差があまりなく、セッションでの録音でも燃えるような演奏をしていました。実際、この時期の『ヴァルキューレ』は大地が轟くようで燃えるような情熱でした。ただ、このブル7については1965年10月23日(土)24日(日)の1st Subscription Concert としてウィーン楽友協会の大ホールで演奏しており、プログラム前半が『ジークフリート牧歌』、後半がブル7でした。ジークフリート牧歌は1965年11月にやはりレコーディングもされています (『英雄』のカップリングでCD にも収録されています)。

さらに翌日10月25日にクナッパーツブッシュが亡くなったことを受け、11月7日(日)もMemorial Service Hans Knappertsbusch というタイトルで演奏会をおこない、当時の楽団理事長オットー・シュトラッサーによる追悼の他に、『神々の黄昏』より葬送行進曲、そしてブルックナーの交響曲第7番を演奏しています。ヴァーグナーの訃報を聞いて作曲したと言われる第2楽章のコーダの葬送音楽が、この日はクナへの告別に。

こうして録音だけではなく演奏会も同時期におこなうことでより完成度が高い演奏に仕上がったのがこのブル7録音。

テンポをあまり動かさないのがショルティのこのブル7の根本にありますが、第1楽章の第1主題ではきらめくようなヴァイオリンのヴェールに包まれてホルンとチェロがしっかりと旋律を聴かせてくれます。後のシカゴ響との録音ではもっとゆったりとしていましし、同じウィーンフィルでも、ベーム指揮1976年の録音では冒頭のチェロからたっぷりと歌わせていて低音も厚めでしたが、このショルティ盤では流れの中にメロディが際立っています。それにしても黄金色に輝くような美しさで、ヴァーグナーの音楽との関連を感じさせてくれます。

トラック2:25から始まる第2主題ではホルンとトランペットが弱音ながらしっかりと拍を取っていて、リズムを重視したショルティらしさを伺えます。それにしてもオーボエとクラリネットの美しさときたら。リズムの特徴は第3主題に入る手前のコントラバスでも感じます。微かなのに確かな存在感がある低弦の四分音符。展開部が最高潮に達する練習番号M。トラック11:06。フォルテッシモのトゥッティですが、録音を担当したパリ―らしくトランペット、トロンボーンの金管が実にマッシブ。コーダ前に入る前はヴァイオリンが黄金に輝くようで、これこそウィーンフィルにしか出せない魅力です。

トラックではポーズを置かずに続く第2楽章は豊穣の響きで心の芯まで癒されます。そしてコーダの葬送音楽。この世への惜別のようにヴァーグナーチューバが穏やかに哀しさを温かく表現してくれます。

第3楽章はトランペットが元気すぎるスケルツォよりも中間部のトリオが秀逸。荘厳で美しいです。明朗な第4楽章ではショルティらしくキビキビとした動きでオーケストラを活性化しています。金管のファンファーレが非常にマッシブで力強いです。

ブルックナー好きには「やっぱりチェリビダッケとかヴァントでしょう。ショルティのブルックナーなんて」と思われるかもしれませんし、ショルティ好きには「ショルティと言ったらヴァーグナーかマーラーでしょう。ブルックナーなんて」と思われるでしょう。でも私みたいなブルックナー好きのショルティ好きには、聴けば聴くほど魅力に気付く、そんな大事なアルバムです。

指揮:ゲオルグ・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1965年10月, ゾフィエンザール

Apple Music で試聴可能。

特に無し。

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