このアルバムの3つのポイント

スヴャトスラフ・リヒテル EMIレコーディングズ
スヴャトスラフ・リヒテル EMIレコーディングズ
  • ヴェールを脱いだスヴャトスラフ・リヒテルのテンペスト
  • 強靭なタッチと、大胆にテンポを落として詩情豊かに
  • 相まみえるまろやかさと激しさ

台風第14号が日本の南側を広く覆っていて、連日の雨が続く。風も強く、庭の草花もなぎ倒されて曲がってしまった。週末ずっと雨ということなので、何か雨に関する音楽でも聴こうと思っていたら、ベートーヴェンの「テンペスト」の第1楽章が脳内再生されたきた。そうか、テンペストを聴こう。じゃあ誰の演奏にしようかと思ったとき、真っ先に思い付いたのがスビャトスラフ・リヒテル。今回紹介する1961年の録音である。

スヴャトスラフ・リヒテルは20世紀中盤のソ連の国内では最も優れたピアニストとして見なされていた。早くから欧米でも名前が知られていたソ連出身のピアニストで同窓生でもあるエミール・ギレリスが、「ソ連にはもっとすごいやつがいる」と言っていたのだが、それがリヒテルだったのだ。同じくソ連出身で、世代が一回り下のヴラディーミル・アシュケナージは後にインタビューで語っているが、リヒテルがバルトークのピアノ協奏曲第2番を初めて演奏会で弾くことになったとき、練習相手として初見演奏のスキルが高いと評判の当時モスクワ音楽院の学生だったアシュケナージが選ばれ、演奏伴奏を務めることができて光栄だったと、述べている。

それぐらいソ連内では有名な存在だったリヒテルだが、ただ、当時の情勢もあってその存在が欧米諸国の音楽ファンに知られるようになるのは1958年になってからだった。リヒテルのヨーロッパデビューともなったブルガリア・ソフィアで行われた伝説的なリサイタルで、「展覧会の絵」やリストの超絶技巧練習曲などを演奏史たこのリサイタルで、すさまじい技巧と詩情を披露し、またたく間にファンから話題になった。このリサイタルはレコーディングもされていて、ユニバーサル・ミュージックから聴くことができる。紹介記事はこちらのFC2ブログをお読みいただければと思う。

こうしてそれ以降、EMIやドイツグラモフォンなどのレコードレーベルと契約し、録音もリリースされるようになった。1962年にはクルト・ザンデルリング指揮ウィーン交響楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番も録音している。

今回紹介する「テンペスト」は1961年8月1~5日にイギリス、ロンドンのアビー・ロード・スタジオで録音され、EMIレーベル(現在はワーナー)からリリースされている。

この録音では、リヒテルの強靭さと詩情がどちらも楽しめる。冒頭のラルゴ〜アレグロでは、嵐の前の静けさ。フォルテになると頭上から雷が落ちるかのような力強いタッチ。そして熱が最高潮まで行くと、美しい高音の響き。展開部は大胆にテンポを落として弱音をそっと奏でる。リヒテルのピアノは弱音も良い。レチタティーヴォも単音でもこれほど優しい響きがすることに驚き。

第2楽章も穏やかで、ゆっくりと、しんみりとリヒテルのピアノが奏でられる。そして第3楽章でも、pの弱音から入る冒頭ではまろやかで詩情があり、そしてfの強音では強靭で激しさを感じる。楽譜に忠実な演奏で、デフォルメすることなく、作品が持つロマンと激しさを伝えてくれる。時には小さく、時には大きく、そしてうねって。寄せては返す波のように音楽が表現されている。

この作品は、「嵐」を表現しているわけではなく、内面的な感情の波を表現している。そんな思いにさせてくれる演奏だ。

1961年なので録音の質はあまり良くないが、それでも伝わってくるリヒテルの強靭さと詩情。台風が迫ってくるときにこそ繰り返し聴きたい「テンペスト」である。

オススメ度

評価 :3/5。

ピアノ:スヴャトスラフ・リヒテル
録音:1961年8月1-5日, アビー・ロード・スタジオ


iTunesで試聴可能。

特に無し。

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