このアルバムの3つのポイント
- ポリーニによる、ピアノソナタを始めとするリストの作品集
- 完璧なテクニック、圧倒的な音量と緩徐フレーズで魅せる歌心
- オランダのエジソン賞を受賞
ピアニストの登竜門、リストのピアノソナタ
フランツ・リストのピアノソナタS.178は、ピアニストにとっては登竜門だ。リストらしい超絶技巧が詰まっているし、30分ほどの演奏時間が掛かる大作である上に、ピアノソナタなのに1楽章しかない。つまり、切れ目なく演奏を続けていかないといけない。しかも技巧的に難しくてピアノを壊すかのような大音量で弾かないといけないだけなく、ゆっくりとした緩徐部分では歌曲のような歌うような旋律も聴かせどころ。技術一辺倒ではなく、レチタティーヴォを表現豊かに演奏しないといけない。両方できるピアニストは数少ない。
偉そうに書いているが、私自身はリストの作品をピアノで弾くとしたら「愛の夢」第3番で十分で、このピアノソナタはもっぱら聴く専門だ。
理想的なマウリツィオ・ポリーニの演奏
リストのピアノソナタの録音を数多く聴いてみたが、マルタ・アルゲリッチ(1971年)の演奏も奔放で良かったが、今回紹介するマウリツィオ・ポリーニの演奏が一番理想的なものだと思う。1989年6月、ミュンヘンのヘラクレス・ザールでのセッション録音で、その直前の1989年4月の来日リサイタルでも、プログラムAでこの曲を演奏している。
また、リストの後期作品も収録されていて、CDに収録されている作品は以下のとおり。
- ピアノソナタ ロ短調 S.178
- 灰色の雲 S.199
- 凶星!S.208
- 悲しみのゴンドラ1 S.200-1
- リヒャルト・ワーグナー – ヴェネツィアS.201
ピアノソナタと凶星!は1989年6月のセッション録音だが、他の作品は1988年5月のウィーンの楽友協会・ムジークフェラインザール(大ホール)でのライヴ録音だ。ライヴ録音の曲は、観客の咳払いが入ってしまっているし、音質も落ちるので気になる。
暗黒のピアノソナタ
このピアノソナタは、色で例えると黒だ。ポリーニは冷たいタッチで暗黒な世界を見事に描いている。クライマックスではテンポが速すぎるほどだがそれでも技巧的にも完璧だし、演奏によってピアノを壊してしまったこともあったリスト自身が求める音量も、ポリーニが生み出す大音量は申し分ない。緩徐フレーズでの歌うようなメロディが現れるところでは、ポリーニが同時期に録音したシューベルトの後期ソナタで魅せたあの歌心に溢れた演奏。
ポリーニ自身の変化
1980年代の後半から90年代にかけては、ポリーニの演奏スタイルが変わりつつある時期だが、この時期にリストのピアノソナタが録音されたのは好機も熟したのだろう。演奏に丸みが帯びたし、ペダルを多用してレガートな演奏になっていることで、歌心に温かみが増している。
また、音量を大きくして聞いていると分かるのだが、ポリーニの深く息遣いや喘ぐような声も聞こえてくる。無機質、機械的と言われたこともあった1970年代とは違って、演奏に魂が宿っている、そんな印象を受ける。
捉えどころのないリストの後期作品
他のリストの後期作品については、捉えどころがない印象。無調で、宙に浮いたような作品を並べていて、1枚のCDとしては最初のピアノソナタが作品としても圧巻すぎて他は「ふーん」で終わってしまう。ただ、ポリーニが得意とするブーレーズやノーノなどの現代音楽へつながる作品で、重要なのは間違いない。
まとめ
技術的だけではなく、音楽的にこの曲の持つ素晴らしさを表現しようと試みたポリーニの名演である。
オススメ度
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
録音:1988年5月, ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ, 灰色の雲・悲しみのゴンドラ・R.W. – ヴェネツィア)
1989年6月, ヘラクレス・ザール(ピアノソナタ・凶星!)
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【タワレコ】リスト: ピアノ・ソナタ ロ短調、灰色の雲、他試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
1991年のオランダのエジソン・クラシック賞の「INSTRUMENTALE SOLORECITALS」を受賞。
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