このアルバムの3つのポイント

リスト 超絶技巧練習曲集 ヴラディーミル・アシュケナージ(1970年)
リスト 超絶技巧練習曲集 ヴラディーミル・アシュケナージ(1970年)
  • アシュケナージ若かりし頃のリストの超絶技巧練習曲
  • カミソリのようなシャープなテクニック
  • レコード・アカデミー賞受賞キーシンも高評価

ヴラディーミル・アシュケナージは幅広いレパートリーとレコーディングをおこなっていますが、ピアニストとして取り組んだフランツ・リストの作品はキャリアの若い頃だけに限られます。1955年のショパン国際コンクールで第2位ということもあり、初期からショパンも重要なレパートリーでしたが、18〜20歳頃の録音ではショパンの他ベートーヴェン、リスト、ラフマニノフ、プロコフィエフがあり、リストは超絶技巧練習曲の「鬼火」とメフィスト・ワルツ第1番がありました。

ただ、アシュケナージは自伝「アシュケナージ 自由への旅」(音楽之友社)で、手元にないので私の記憶によるとリストの作品は表面的だと書いていて、ピアノ・ソナタロ短調を含め以後のレパートリー、レコーディングでも扱わなくなってしまいました。

今回紹介するCDは、アシュケナージがデッカにレコーディングした唯一のリストの曲で、1970年5月と12月のロンドン・オペラ・センターでのセッション録音。超絶技巧練習曲S.139より第1曲前奏曲、第2曲モルト・ヴィヴァーチェ、第3曲「風景」、第5曲「鬼火」、第8曲「狩り」、第10曲アレグロ・アジタート、第11曲「夕べの調べ」、ゴルチャコフ即興曲S.191、メフィスト・ワルツ第1番S.514が録音されています。

1970年ということは、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団とのラフマニノフのピアノ協奏曲全集(1970ー71)やサー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団とのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(1972年)、ショパンの練習曲全集(1971ー72年、FC2ブログ記事)と同じ頃の録音。カミソリのようなシャープなテクニックと重厚感を兼ね備えてきた時代の演奏です。

私は1998年にリリースされた国内盤CDを聴いていますが、このアルバムにはなぜか輸入盤が無く、アシュケナージの名録音集に「鬼火」とメフィスト・ワルツが含まれている程度。国内盤もその後も2013年、2019年と再リリースされていますが、現在は廃盤になっています。

現代を代表するピアニストの一人、エフゲニー・キーシンはアシュケナージとの親交が深く、自伝で以下のように書いています。

私はウラジーミル・アシュケナージのいくつかの録音を非常に高く評価している。たとえば、ショパンのソナタ第2番、ベートーヴェンのソナタ第17番、ブラームスの交響曲第1番、リストの練習曲の数々、ラフマニノフの協奏曲第3番と5つの前奏曲を収めたラフマニノフ生誕100周年記念CDなど……。

エフゲニー・キーシン自伝、第3章「想いはめぐり」

キーシンもヴィルトゥオーソ・ピアニストでリストの超絶技巧練習曲集も演奏・録音していますが、そのキーシンからも高評価されるアシュケナージの超絶技巧練習曲、いかにすごいかが分かります。

第1曲の前奏曲から圧倒されます。アシュケナージの若い頃の特徴であるキレのあるテクニックと、色彩豊かな演奏が、この何かを予言するかのような前奏曲でほとばしっています。続くモルト・ヴィヴァーチェではさらに動きが活き活きとしています。特にすごいのはトラック4、S139第5曲の「鬼火」でしょう。鬼火が漂うような軽やかさで、ここまで速く弾けるのはただただすごいです。続く「狩り」では野性味がある獰猛さを出し、演奏は激しさを増しています。さらにアレグロ・アジタート・モルトでは素早い動きで心を扇動します。「夕べの調べ」やゴルチャコフ即興曲でばこれまでの激しさを鎮めるかのような穏やかさで、アシュケナージの詩情が溢れています。

メフィスト・ワルツ第1番ではキレがあり、当時のアシュケナージとリストの相性の良さを感じます。

以後レパートリーから外してしまったアシュケナージのリスト作品集。シャープなテクニックで超絶技巧練習曲たちを理想的に引き立てています。

オススメ度

評価 :5/5。

ピアノ:ヴラディーミル・アシュケナージ
録音:1970年5月, 12月, ロンドン・オペラ・センター

廃盤のため無し。

iTunesで「鬼火 (Feux follets)」とメフィスト・ワルツを試聴可能。

1971年度の日本のレコード・アカデミー賞の器楽曲部門を受賞。

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