このアルバムの3つのポイント
- ベルナルト・ハイティンクとコンセルトヘボウ管のマーラー交響曲全集
- 若かりしハイティンクの足跡を感じる
- 後年とは異なる強打や速めのテンポ
ハイティンク1回目の交響曲全集
指揮者ベルナルト・ハイティンクはマーラー交響曲全集録音を、首席指揮者を務めていたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と1962年から1971年にかけて行いました。
第1番「巨人」(1962年)
第1楽章はトランペットの音色が瑞々しいこと。そして軽やかなヴァイオリンの音色も良い。スケールの大きさは第4楽章を聴くとよく分かる。オケ全体が怒っているように、地面が轟くような迫力ある演奏を行っている。しかしハイティンクの指揮は個々の旋律を損なうことなく、一体感を伴って圧倒的な演奏をしつつも、各楽器のメロディラインはしっかりと出している。ハイティンクらしいバランス感覚だ。
コンセルトヘボウ管の良さが活きた巨大な「巨人」である。
第2番「復活」 (1968年)
ハイティンクとコンセルトヘボウ管は、こうしたスケールの大きな曲を演奏するには適任。1968年の録音では、重々しい第1楽章はスケールたっぷりに演奏するし、ヴァイオリンは悲鳴を上げるかのように差し迫った音色を出す。第2楽章では弦と木管が穏やかな曲想を演奏。心安らぐひと時である。第3楽章ではティンパニの強打から始まる。ハッとするような、目の覚めるような強打である。そこからヴァイオリンの優しい旋律が滑らかに始まる。この豊かな響きが良い。森に来たような、神秘的な気分である。第5楽章のアルトソロパートでは、ヘイニスの歌声が本当に不安を掻き立てる。その後に続く、男声合唱が歌う「復活」のモチーフが何とも対比的で印象的である。
スケールと繊細さの両面と追及した記憶に残る「復活」の録音である。
第3番 (1966年)
ハイティンクとコンセルトヘボウ管のマーラー交響曲全集の中のこの第3番は、コンセルトヘボウ管の、スケールの大きくて中身がぎっしりと詰まった演奏が特徴。第1楽章ではそれほど速くもないテンポだが、後年の再録音ではテンポが遅くなっていくので、これぐらいのテンポでハイティンクにしては速いとすら感じてしまう。時折軋むような弦や、はち切れんばかりの金管が、1961年に就任してまだ5年で、30代後半に差し掛かったまだ若々しいハイティンクの情熱を感じさせる。後年の首席指揮者のマリス・ヤンソンスが「まさにコンセルトヘボウ・サウンド」と評したように、透明感があってまろやかなサウンドで知られているコンセルトヘボウ管だが、この1966年の録音はまだオーケストラもフレッシュな感じがする。
第1楽章のフィナーレのティンパニーはまるで雷が鳴り響くように聴こえるし、第3楽章のフィナーレでも圧巻で締めくくる。第4楽章ではしっとりとした伴奏に、フォレスターの柔らかなアルトがそっと加わり、幻想的である。
ハイティンクは後年のマーラー交響曲第3番の再録では、よりゆったりとしたテンポで響きもまろやかになっていき、マーラーが自然への賛美を表したとするこの曲の雄大さに忠実になっていっている感じがするが、この1966年の録音では荒さと若々しさが同居していて独特の存在感を放っている。
第4番 (1967年)
コンセルトヘボウ管のマーラー演奏の特徴は、ツヤがありフル音量で奏でられる金管、美しい弦、迫力あるティンパニなどが挙げられる。オケの総合力が高いからこそのダイナミックな演奏が楽しめる。
今回紹介するハイティンクとの1970年の第5番もそれが当てはまる。冒頭のトランペットが示すように、この曲は特に金管が大きな役割を果たす。コンセルトヘボウ管のこの演奏では、金管が大音量でもトゲがなく、滑らかな音色になっているのが心地良い。テンポは標準的で、中身の密度の濃さで良い演奏を聴かせるのがいかにもハイティンクのアプローチらしい。第3楽章の嵐のようなフレーズは迫力満点だし、続く第4楽章は穏やかで美しく、中間音域の響きがしっかりと出ていてじんわりと深みがある。第5楽章もテンポこそ少し遅めだが、金管の響きが轟き、迫力ある演奏であるが、少し音質が悪いところもあり、音が若干割れる。
ホールに響き渡るスケールの大きなマーラーといった感じだろうか。金管の音量が出すぎて無骨な印象も受けるので、バランス感覚をより求めるなら後年の再録のほうが適している。
第5番 (1970年)
コンセルトヘボウ管のマーラー演奏の特徴は、ツヤがありフル音量で奏でられる金管、美しい弦、迫力あるティンパニなどが挙げられる。オケの総合力が高いからこそのダイナミックな演奏が楽しめる。
今回紹介するハイティンクとの1970年の第5番もそれが当てはまる。冒頭のトランペットが示すように、この曲は特に金管が大きな役割を果たす。コンセルトヘボウ管のこの演奏では、金管が大音量でもトゲがなく、滑らかな音色になっているのが心地良い。テンポは標準的で、中身の密度の濃さで良い演奏を聴かせるのがいかにもハイティンクのアプローチらしい。第3楽章の嵐のようなフレーズは迫力満点だし、続く第4楽章は穏やかで美しく、中間音域の響きがしっかりと出ていてじんわりと深みがある。第5楽章もテンポこそ少し遅めだが、金管の響きが轟き、迫力ある演奏であるが、少し音質が悪いところもあり、音が若干割れる。
ホールに響き渡るスケールの大きなマーラーといった感じだろうか。金管の音量が出すぎて無骨な印象も受けるので、バランス感覚をより求めるなら後年の再録のほうが適している。
第6番「悲劇的」 (1969年)
近年の2007年のシカゴ響との録音でも精緻な演奏を聴かせたハイティンクだが、彼のマーラーはペルシャ絨毯のようにきめ細かい。その約40年前のこのコンセルトヘボウ管との録音でもそれは言える。
圧倒的なパワーで押し切るというタイプではなく、まるで室内楽のように、個々の楽器の音色がはっきりとよく出ている。この演奏を聴くと、この曲が実に多様な旋律から構成されているかがよく分かる。
テンポは標準的で、あまりルバートもかけずに極めてオーソドックス。マーラーの交響曲第6番としてはスタンダードとして聴ける1枚。個々の奏者のレベルが高く、第3楽章のはかない旋律の木管の歌わせ方が実にうまい。
しかし最も印象的なのは第4楽章。ハイティンクにしては少し熱っぽい演奏となっており、ずんずんと前へ進む勢いと、エネルギーを溜め、解き放つ間が絶妙。繰り返し聴きたい1枚である。
第7番「夜の歌」(1969年)
ハイティンクは1982年にもコンセルトヘボウ管とこの曲を録音しているが、これは交響曲全集からの1枚で、1969年の録音。ハイティンクのアプローチは地道だ。決して奇をてらうことなく、マーラーのスコアから忠実に音を引き出している。金管や弦をはじめ、音がよく伸びる演奏で、コンセルトヘボウ管らしい豊饒なサウンドと言える。
陰に隠れた作品の、陰ながらの名演である。
第8番「千人の交響曲」(1971年)
1960年代から70年代はじめにかけて録音されたハイティンクとコンセルトヘボウ管のマーラーの交響曲全集の最後を飾ったのが第8番「千人の交響曲」と第10番の「アダージョ」。
早速聴いてみると、歌手陣の歌声がすっきりと整理されている印象を受ける。ハイティンクが指揮した声楽付きの音楽では1980年のベートーヴェンの第9番が記憶に残っていが、そのときもソプラノやアルトのソロがしっかり引き立っており、合唱と旋律が混ざらずにすっきりと聴こえていた。このマーラーの第8番の録音でも、金管がボリュームのある大きな音でこの曲の荘厳さを出し、オケがスケールたっぷりに奏でるところと、一方でオケを控え目にして声楽を際立たせるところと、メリハリのついた演奏となっている。
第9番 (1969年)
今回紹介するコンセルトヘボウ管との1969年の録音は、マーラーの交響曲全集の初期の録音となるが、近年の演奏スタイルとは異なり、それぞれの楽器が芯の太い旋律を鳴らし、まるで巨大な室内楽を聴いているかのような感じである。第1楽章は美しさと柔らかさを持ちつつも、フォルテのところでは熱気にこもった演奏。ハイティンクが40歳のときの録音なので、現在の演奏と異なって白熱するところもある。開始5分55秒あたりなど、金管の強音で音質がイマイチになることもあるが、全体的にスケールは抑え気味で、金管とティンパニーだけは強くなるように加減されている。
第2楽章は落ち着いた響きで、それぞれの楽器が温かい音色。艶のある金管の響きがコンセルトヘボウ管らしい。
第3楽章は艶のある金管の響きで始まる。それぞれの楽器がキビキビとして賑やかな曲である。尖らない金管の音色には好感が持てるし、木管の響きも美しい。
第4楽章はこの録音で最大の聴き処。ややゆったりとしたテンポで、弦のメロディラインが太く表され、透き通った響きで美しい。ハイティンクの指揮はバランス感覚に長けたことで定評があるが、この楽章でもデリケートに響きをコントロールしていることがうかがえる。個々のソリストの粒揃いの演奏を束ねながらも、響きは柔らかい。この楽章は特に素晴らしい出来である。
第10番から「アダージョ」(1971年)
ハイティンクは第1楽章のみ録音している。官能的な曲であるが、美に溺れることがなく、あくまでもハーモニーを重視しているのがハイティンクらしい。ヴァイオリンのメロディが耽美的になりがちなところを、中間部や低音のハーモニーともバランスを取っている。ただ、時期が少し古いということもあり、音質はイマイチな気がする。最高音部でのヴァイオリンの響きで、音が突き抜けず詰まったように聴こえるのだ。アナログ録音なので仕方がないところではあるが、この最高音域が目玉の一つであるだけに、残念。
ハイティンクとコンセルトヘボウ管のこの演奏で、特に素晴らしいのは開始18分20秒あたりの不協和音の強音。まるでパイプオルガンの音が重なるかのように、立体的な響きを聴かせる。とてもシンフォニックな演奏である。
まとめ
まだ進化途中の若かりしベルナルト・ハイティンクの足跡を感じさせる交響曲全集。
オススメ度
ソプラノ:エリー・アメリング(第2番)
アルト:アーフェ・ヘイニス(第2番)
オランダ放送合唱団(第2番)
アルト:モーリン・フォレスター(第3番)
オランダ放送女声合唱団(第3番)
聖ウィリブロード児童合唱団(第3番)
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1962年9月(第1番), 1966年5月(第3番), 1967年2月(第4番), 1968年5月(第2番), 1969年1月(第6番), 1969年12月(第7番, 第9番), 1970年12月(第5番), 1971年9月(第8番, 第10番)
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【タワレコ】マーラー: 交響曲全集、歌曲集 [12CD+Blu-ray Audio]試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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