このアルバムの3つのポイント

ブラームス交響曲全集 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ブラームス交響曲全集 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
  • カラヤン3度目のブラームス交響曲全集から第1番
  • 晩年の深み
  • 厚みのあるハーモニーとまろやかさ

20世紀を代表する指揮者の一人、ヘルベルト・フォン・カラヤンは膨大なレコーディングをおこないましたが、ベートーヴェンやブルックナー、ブラームス、チャイコフスキーなどでは同じ曲を6回も7回も録音したこともあります。指揮者として長く活躍しただけではなく、作品を追究するためにその時々の解釈を記録していったように思えます。

ブラームスの交響曲第1番もそうしたカラヤンの十八番(おはこ)の曲で、セッション録音だけで6度もあり、他にもライヴ録音や映像での録音もあります。

カラヤンはブラームスの交響曲全集もCDでは3回録音していて、ともにベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と、1963年から64年の1回目の全集、1977年から78年にかけての2度目の全集、そして1986年〜88年の晩年の3度目の全集があります。さらに、1973年に収録された映像作品の交響曲全集もあります。

私はだいぶ前に聴き比べをした際に2回目の全集が一番気に入りました。まるでギリシャ彫刻のように引き締まっていて、アンサンブルも見事です。ただ、ネットの意見を見ていると70年代派と80年代派に分かれている感じです。

最近になって晩年のカラヤンの演奏を聴き直してみると、3度目の全集も2回目とは違った良さがあると思うように。

70年代のカラヤンは、チャイコフスキーの交響曲全集ベートーヴェンの交響曲全集のように、贅肉のない研ぎ澄まされたハーモニーとカラヤン美学と評された美しさで魅了しましたが、80年代の晩年になるとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのチャイコフスキーの交響曲第4番(1984年)ブルックナーの交響曲第8番(1988年)最後の録音となったブルックナーの交響曲第7番(1989年)など、よりゆったりとしたテンポでふくよかな響きに変化していきます。

ブラームスの交響曲第1番も70年代の全集のときの77年から78年にかけておこなわれたベルリンフィルとの録音では縦に揃った線で引き締まった演奏でした。

例えばこちらのスコアにある第1楽章の冒頭。

ブラームス交響曲第1番、第1楽章冒頭のスコア
ブラームス交響曲第1番、第1楽章冒頭のスコア (IMSLPより)

77-78年の演奏だと溜めを効かせずにいきなり急発進して壮大な序奏を始めますが、87年の録音だと、最初はわずかに弱音で入り、短時間でクレッシェンドさせています。それによってぶわーっと広がるような、厚みのあるふくよかなハーモニーになっています。

こちらが2つの音源を可視化したものです。上が77-78年のもの、下が87年の録音のプロットです。ステレオ録音なのでチャネルが2つありますが、青色がチャネル1、赤色がチャネル2です。振幅が大きいほど音が大きいということを意味しているのですが、77-78年の録音(上)では最初から波が立っているのに対して、87年の録音では、最初の一音の振幅が半分くらい、そしてじわーっと波が大きくなっているのが分かります。

カラヤン/ベルリンフィルのブラームス交響曲第1番の冒頭比較(1977-78 vs 1987年)
カラヤン/ベルリンフィルのブラームス交響曲第1番の冒頭比較(1977-78 vs 1987年)

また、77-78年のグラフ(上)では青いプロット(チャネル1)が赤色(チャネル2)よりも大きくなっています。実際に聴いてみると、チャネル1の左耳の音が大きくてヴァイオリンのメロディも左からばかり聴こえ、チャネル2はややおとなしいです。それに比べて87年の録音は青と赤が同じくらいの大きさ。この録音では左右ともバランス良く聴こえ、結果的に「重厚なハーモニー」として捉えられます。

録音時のマイクの位置や編集の違いかもしれませんが、晩年のカラヤンのまろやかなハーモニーが感じられます。この時期は、楽団員の入団についてベルリンフィルと揉めてカラヤンとの不仲説も出ていましたが、さすがプロ集団で、演奏に入るとそんな背景を感じさせません。

確かに70年代の覇気のある演奏に比べると「迫力が無い」という意見もありますが、私はカラヤンの目指す音楽が晩年になって変わっていったためだと考えています。第4楽章のフィナーレは、70年代では輝かしいファンファーレとして金管もきらびやかでしたが、この87年の録音ではより溶け合うようなファンファーレになっています。

演奏時間は77-78年が第1楽章13:15、第2楽章8:57、第3楽章4:43、第4楽章17:36でしたが、87年では第1楽章から13:26、8:26、4:48、17:46と変わっています。概ね同じですが意外にも第2楽章のアンダンテ・ソステヌートは若干短くなっています。意外だったのは、第4楽章の最後の音。フェルマータが置かれたハ長調の全音符ですが、こちらは77-78年盤も87年盤も同じ7秒でした。

カラヤン晩年の3度目のブラームスの交響曲全集から第1番を紹介しました。より厚みを増したまろやかなハーモニーでの演奏で、カラヤンの変化を感じる1枚です。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1987年1月, ベルリン・フィルハーモニー

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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コメント数:1

  1. 全体的に重厚で、特に弦の厚みを感じました。第4楽章の序奏からのピチカートなども、ぐいぐいと迫ってきます。そのあとの有名なホルンの旋律の、伸ばしをサポートする2番ホルンが、もう少し1番に合わせてほしい気がしました。この曲ですごく好きな部分なので。(個人的な好みです。)

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