このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲第8番 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1988年)
ブルックナー交響曲第8番 ヘルベルト・フォン・カラヤン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1988年)
  • ヘルベルト・フォン・カラヤン最晩年のブルックナー
  • 何度も何度も録音した交響曲第8番ハース版の境地
  • ウィーンフィルの芳醇な響きとたっぷりとしたテンポで描く雄大さ

20世紀を代表する指揮者の一人、ヘルベルト・フォン・カラヤン。ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキーなど何度も録音した作曲家も多いですが、ブルックナーについてもこだわり続けた作曲家の一人です。

ブルックナーの交響曲全集をベルリンフィルと1975年から1981年に完成させている他、ウィーンフィル、ベルリンフィルと何度も録音をおこなっています。

カラヤンは1980年代後半に、女性団員の入団に対してオーケストラ側と意見が合わず、ギクシャクした仲に。

救いを求めるかのようにウィーンフィルとの演奏が多くなりました。ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ブルックナーなどこの時期のウィーンフィルとの録音は名盤と言われるものも多いです。

今回紹介するブルックナーの交響曲第8番アルバムは1988年11月のウィーン・ムジークフェラインザールでの録音。

なお、カラヤン最後のレコーディングとなったのは同じくウィーンフィルの1989年4月のブルックナーの交響曲第7番でした。

交響曲第8番はどの版のスコアを使うかで演奏家の意思が伺えますが、多くの指揮者が第2稿(1890年)ノーヴァク版を採用する中、カラヤンは第2稿(1890年)のハース版にこだわりました。

ハース版は他にはベルナルト・ハイティンクが愛用していますし、最近でも2019年10月にライヴ録音したクリスティアン・ティーレマン指揮ウィーンフィルが使っています。

ノーヴァク版と大きく違うのは第3楽章。1887年に完成された第1槁では225小節から234小節にあった弱音の漂うようなフレーズが、1890年に完成された第2槁ではカットされました。

ただ、ハース版を校訂したローベルト・ハースは「芸術上の理由」で第2稿でもこの部分を残しています。つまり、ブルックナーが書いた第2槁に、本当は消されたはずの部分を第1槁から10小節分持ってきたのです。

IMSLPパブリックドメインのスコアを見られますが、第2槁ハース版の第3楽章の209〜218小節目はこうなっています。

ブルックナー交響曲第8番 第2槁のハース版 第3楽章209〜218小節
ブルックナー交響曲第8番 第2槁のハース版 第3楽章209〜218小節

他にも第4楽章で第1稿からカットしないで移植したものがあるので、ハース版の演奏時間としては長くなり、カラヤン/ウィーンフィル盤でも第1楽章が17:03、第2楽章が16:34、第3楽章が25:18、第4楽章が24:01でトータル83分あります。

ただ、私が持っている2012年にリリースされたThe OriginalsシリーズのCD(#00289 479 0528)では、1枚に収めています。ありがたいです。

第1楽章はゆっくりとしたテンポでそっと始まりますが、徐々にヴェールを脱いでいく姿が何とも雄大。

ただ、第2楽章のスケルツォでは、ゆっくりすぎて音楽が弛緩してしまっています。商品ページでは「奇跡の名演」とか、「音楽之友社2017年版「名曲名盤500」の中で、交響曲第8番の録音の第1位に選ばれている録音」とか書かれていましたが、本当にそうでしょうか?

1985年にウィーンフィルと録音したドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」のときも、音楽評論家が選ぶ第1位と書いてあったので楽しみに聴いてみたのですが、どうも音楽評論家とは考えが合わないようで。自分の耳で聴いて自分が良いと思ったものが一番良い、それで良いと思います。

第3楽章は本当にうまいです。この美しさ、ウィーンフィルならではですし、カラヤンがたどり着いた境地です。

そして第4楽章はゆっくりとしたテンポながら迫力は満点。ウィーンフィルを鳴らしきっています。

ただ、クライマックスでもテンポは遅いので、聞き手も集中力を切らしてしまうかもしれません。私は第4楽章の675小節のRuhig (静かに、穏やかに)のところでは、「まだか」と思ってしまうぐらいでした。

第2槁ハース版を使った2019年のティーレマン/ウィーンフィル盤でも「聴く者に集中力を要求する」と書きましたが、私はハース版だと最後まで聴くのがしんどいなと思ってしまいます。ノーヴァク版のほうが合っているんだと思います。

ヘルベルト・フォン・カラヤンが晩年にウィーンフィルと遺したブルックナーの名作。ゆったりとしたテンポで雄大に紡がれる音楽ですが、第2楽章では弛緩している面もあり、万人受けはしない演奏でしょう。ただ、第3楽章の美しさから第4楽章の迫力は素晴らしいと思います。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1988年11月, ウィーン楽友協会・大ホール

ドイツ・グラモフォンの商品ページで試聴可能。

特に無し。1989年の米国グラミー賞の「BEST CLASSICAL ALBUM」と「BEST ORCHESTRAL PERFORMANCE」にノミネートされるも受賞ならず。

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