※2020/11/28 初稿、2026/01/15 更新

カラヤン最後のレコーディング
20世紀を代表する指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤン。壮年期は芸術監督を務めたベルリンフィルとの録音が多かったですが、晩年の1983年からオーケストラの楽団員の加入をめぐり、ベルリンフィルと関係が悪化。その鬱憤を晴らすかのようにウィーンフィルとの演奏が目立つようになります。そして、軋轢が積み重なり、健康上の理由からついに1989年4月24日にベルリンフィルの芸術監督を辞任したカラヤンは、これと前後するように4月23日にウィーンフィルとブルックナーの交響曲第7番の演奏会をおこなっています。
【ウィーンフィル】コンサート・アーカイブ(1989/04/23)
そして新しいザルツブルク音楽祭で演奏する予定だったヴェルディの「仮面舞踏会」のリハーサルを行った翌日の7月16日に急逝してしまいます。新しい出発を迎えた矢先のことでしたが、結果としてカラヤン最後の演奏会かつ録音となったのが、今回紹介するアルバム。
交響曲第7番は、敬愛するヴァーグナーの死を予感して第2楽章を書き始めたと言われ、彼の死を知ってから悲しみに暮れて「葬送音楽」と言われるコーダを付け加えたと言われている。死を連想させるこの交響曲を演奏することで、カラヤン自身も何か予感していたことがあるのでしょうか。
惜別の歌
ブルックナーの交響曲第7番はカラヤンが何度も演奏、録音を行ってきたオハコの曲ですし、ブルックナーに関しては右に出るものがいないウィーンフィルとの演奏とあって否が応でも期待してしまいますが、ここでのブルックナーは一味違います。カラヤンはベルリンフィルとの交響曲全集のときでも交響曲第7番の楽譜はハース版を使用していたのですが、このウィーンフィルとの再録でもハース版。ベルリンフィルとはシンフォニックで巨大な一つの塊として表現していたこの作品ですが、ここでのカラヤンは音色は明るくなり、低音よりも高音域のボリュームを引き出してきらびやかな世界を生み出しています。
第1楽章。美しいトレモロを効かせて、チェロとホルンのメロディラインがくっきりとこれまた美しい線を描きます。チェロはlang gezogen (長く引き伸ばして)という指示が付いていますが、軽快な足取りで一筆書きのように進んでいきます。そして続く提示部は磨き抜かれた美しさで、カラヤン美学の境地に行きついた感があります。徐々にクレッシェンドしていきフォルテッシモで続く提示部第3主題への推移部は(トラック1の5:06あたり)、スコア通りに演奏すると強音が連続してゴツゴツとしたような肌触りになってしまうところで、ベルリンフィルとの旧録音ではビロードのように滑らかになるように演奏させていましたが、このウィーンフィルとは音色こそ柔らかいですが剥き出しの岩のようにゴツゴツしています。その分、第3主題の滑らかな木管との対比がはっきりと現れます。
第2楽章でカラヤンはこの作品でのクライマックスを持ってきています。逆に第1楽章、2楽章の圧倒的な演奏に比べると第3楽章、第4楽章では少し熱気が下がる感じがします。まじりっ気のない美しさでカラヤンが求めた音色をウィーンフィルが見事に具現化させています。そしてコーダでの葬送行進曲では透き通った空気の中でレクイエムのように死者を弔うようで、本当に美しいです。
第3楽章はキビキビとしたスケルツォで、こちらも高音域が強め。ベルリンフィルとのときはどっしりとささえる低弦の響きやティンパニーが炸裂していたのですが、ウィーンフィルとはおとなしめ。その代わりにトランペットが単独に強烈に鳴っています。トリオ後のスケルツォの最後では金管が自由奔放で、ブルックナーが初期の交響曲の特徴のような「小生意気な娘」のよう。従来のカラヤンのような磨き上げられたアンサンブルと同じ指揮者と思えないほどの変化です。
第4楽章は第2ヴァイオリンとヴィオラの明るいトレモロがヴェールのようで、その上に第1ヴァイオリンが軽快に第1主題を歌います。第2主題では少しテンポを落としウィーンフィルらしい美音で描かれていきます。ヴァーグナーチューバのコラールがこの世のものとは思えないほど感慨深いです。終幕に向かいこれまでの集大成のようにトゥッティで力強く奏でられます。ただ、高音が強調されていて低音部を薄くしていますし、ライヴ録音も含まれているのでアンサンブルが少し怪しいところがあるので、ベルリンフィルとの完璧・無欠の演奏とは好みが分かれそうですね。
オススメ度
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1989年4月18-23日, ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ)
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試聴
Apple Musicで試聴可能。
受賞
特に無し。






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