このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲第2番&第8番 アンドリス・ネルソンス/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(2019年)
ブルックナー交響曲第2番&第8番 アンドリス・ネルソンス/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(2019年)
  • アンドリス・ネルソンスの最新リリース!ゲヴァントハウス管とのブルックナー
  • しっとりとした交響曲第2番
  • 攻めた交響曲第8番のフィナーレ

アンドリス・ネルソンスは交響曲全集プレイヤーになりつつありますが、音楽監督を務めるボストン交響楽団とショスタコーヴィチの交響曲全集を進行中、同じくボストン響とブラームスの交響曲全集を完成、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とベートーヴェンの交響曲全集を完成、そしてカペルマイスターを務めるライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とブルックナーの交響曲全集を進行中。

ブラームスの交響曲全集だけはボストン響の自主レーベルBSO Liveですが、それ以外は黄色いレーベルのドイツ・グラモフォンが担当。かなり期待が入っていることが伺えます。

ネルソンスとゲヴァントハウス管によるブルックナーの交響曲はこれまで4つのアルバム、交響曲第6番&第9番、交響曲第7番、交響曲第3番、交響曲第4番、がリリースされています。

そのブルックナー全集に向けた最新のリリース、第5弾は2021年2月5日に輸入盤・国内盤のダブルリリースとなった録音で、2019年9月3〜8日の第8番と12月4〜6日の第2番のライヴ録音です。数十年前まではクラシック音楽の録音はセッション録音で楽章ごとに録音して数ヶ月掛けることもざらにあったのですが、今どきはライヴ録音が多いので、レコーディングの数も多くこなせるのでしょう。こちらの記事に紹介しましたが、ネルソンスとゲヴァントハウス管は2019年12月19日と20日には、チャイコフスキーの交響曲第4番などのプログラムを映像作品として収録しています。恐るべきバイタリティですね。数が多いので、全部が全部すごいと思えるものばかりではなく、中には「えっ…」と思うものもありますが。

このアルバムはCD2枚組で、1枚目がヴァーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の序曲とブルックナーの交響曲第2番、そして2枚目がブルックナーの交響曲第8番が収録されています。

CD1枚目の最初はヴァーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から第1幕への前奏曲。雄大な曲ですが、ネルソンスとゲヴァントハウス管は意外にもしっとりとした演奏をおこなっています。ヴァイオリンの美しさは引き立っていますし、中間部では様々な旋律が浮き立つように奏でられ、鳥のさえずりが重なるように豊かな音楽です。

そしてCD1の続きは、交響曲第2番。この曲は1872年版が第1稿、1877年版が第2稿と呼ばれていて、ローベルト・ハースが戦前に校訂したもので第2稿をベースにして第1稿の一部を合わせた「ハース版」があり、戦後にはレオポルト・ノーヴァクが第2槁だけで校訂し直した第2槁ノーヴァク版が出版されます。ノーヴァク死去後にはウィリアム・キャラガンが校訂作業を引き継ぎ、第1槁に基づく校訂をおこなって2005年に発表した後、ノーヴァクが校訂した第2稿を再校訂して2007年に発表しています。校訂者というのは前任の校訂が気に食わないものなのでしょうか。

今回、ネルソンスとゲヴァントハウス管が使用しているのは、交響曲第2番の第2槁に基づくキャラガン版です。最近は若い指揮者の中ではキャラガンが校訂した第1稿や第2槁が人気だそうですね。

しっとりとした響き

この交響曲第2番の演奏も、「マイスタージンガー」前奏曲と同様に、しっとりとした良い響き。

そして交響曲第8番は1890年版第2稿のノーヴァク版を使っています。演奏時間は第1楽章が16:29、第2楽章が14:46、第3楽章が27:38、第4楽章が23:04。他の第2稿ノーヴァク版の演奏と比べると、第1楽章がゆっくり目で、他は標準的な演奏時間だと思います。

漂う第1楽章

冒頭から慎重に始まりますが、徐々に雄大な姿が浮かび上がります。ゆっくり目にした第1楽章でネルソンスが何を目指していたかというと、漂うような空間。中々前に進まずにその場で音楽が浮いているかのような不思議な感じになります。

第2楽章も少し軽めの響きでタター、タターと奏でられます。第3楽章は格別美しいですね。

第4楽章で堂々と無視した「速くならずに」の指示

しかし、この第4楽章でネルソンスは一気に攻めに出ます。第4楽章の冒頭はスコアに「Feierlich, nicht schnell (荘厳にに、 速くならずに」という指示があるのですが、ネルソンスは堂々と破っています。めちゃくちゃ速いテンポでファンファーレを奏でるのです。まるで、「スピード出しすぎ注意」という看板が立っている横を猛スピードで突っ込んでいく感じ。ネルソンスはスコアに忠実なタイプだと思ったのですが、これを聴いて意外に思いました。スコアを気にしないリスナーの方だったら「速くてすげぇ」と感動するかもしれませんが、ここは意見が割れるでしょう。

かと言ってこのフィナーレが全体的に速いわけではなく、第1主題が終わると途端に漂うようにゆっくりになります。また、最後のクライマックスではまたテンポがぐっと遅くなってゆったりと締めくくられます。また、ここではティンパニの打音が執拗で、スピーカーで聴いていると頭痛がしてきます。あの、気圧が低い曇りの日に頭がズキズキする、あの感じです。私もネルソンスのファンですが、この演奏はちょっと合いませんでした。

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とのブルックナーの交響曲全集の半ばに差し掛かった第5弾の録音。レコード芸術では特選盤として推奨されていましたが、攻めたネルソンスの解釈が私には合いませんでした。

オススメ度

評価 :3/5。

指揮:アンドリス・ネルソンス
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
録音:2019年9月4-6日(交響曲第8番), 2019年12月3-8日(交響曲第2番, 「マイスタージンガー」前奏曲), ゲヴァントハウス(ライヴ)

iTunesで試聴可能。

新譜のため未定。

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コメント数:3

  1. ムジカじろう様
    私も貴殿と同様、ネルソンスによるブルックナー8番には共感出来ませんでした。
    このシリーズは全て聴きましたが、他の指揮者に対する優位性が感じられません。
    ゲヴァントハウス管との相性もイマイチなのでは? 録音のせいかも知れませんが、チェロとコントラバスが膨らみ過ぎに聴こえます。

    • クライバーフェチ様
      コメントありがとうございます。
      ネルソンスのブルックナーのチクルスを全て聴かれているのですね。私はこの2番&8番だけ聴いたのですが、他のも聴くか迷いが生じています。
      オランダのエジソン賞を取った3番だけでも聴いてみたいとは思うのですが、関心がティーレマン&ウィーンフィルのコンビのほうに移ってしまっています。
      シャイー時代からゲヴァントハウス管にどっぷり魅了されて、ネルソンスもボストンで生で聴いてから個人的に贔屓にしている指揮者なので、
      このコンビの演奏はなるべく聴くようにしていますが、おっしゃるとおり他の指揮者に対する優位性のご指摘は共感します。
      売れっ子指揮者なので録音も多いのですが、ホームランばかりではなくオーケストラや作曲家との相性や向き不向きがだいぶあるなぁと感じています。

  2. お忙しいところ早速ご返事くださいましてありがとうございます。
    「関心がティーレマン/ウィーンに移ってしまった」。これはことブルックナーに関して言えばクラシックマニアの本能として正しい選択だと思います。ブルックナーはネルソンスにはまだ荷が重すぎる気がします。ソニーのティーレマン対抗馬としてグラモフォンがブルックナーというレパートリーをオーソドックス路線で任せられるのはネルソンスしかいません。発売枚数はネルソンスが先行していますが、この試合、既にティーレマンの勝利が見えています。
    ティーレマンは過去にシュターツカペレ・ドレスデンを指揮して第7と第8をライブ録音しており、既に一定の評価を得ています。私も彼のオーソドックス路線のなかに垣間見せる即興性や独特のテンポ感、そして音色感にやられた一人です。
    ウィーン・フィルを指揮した第3においても、奇を衒わず、御託を並べず、ひたひたとオーケストラをクライマックスに導く力量には舌を巻きました。
    ネルソンス/ボストン響のショスタコーヴィチは第10番と第11,14番を聴きましたが、ブルックナーにおいて感じた迷いや吹っ切れなさやもどかしさを感じません。作品に対してもオーケストラに対しても自信をもって臨んでいるのでしょう。ネイティブの作曲家・作品であることが大きいのではないでしょうか。
    いずれにせよこの二人、今後とも注視していきたいです。

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