このアルバムの3つのポイント
- クリスティアン・ティーレマンとウィーンフィルのブルックナー第2弾!
- 交響曲第3番をウィーンフィルが初演で失敗した因縁の第2稿で
- 雄大で爆発する感情
ティーレマンとブルックナー
クリスティアン・ティーレマンはシュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者とザルツブルク復活祭音楽総監督を兼任し、今やドイツを代表する指揮者になっています。少し童顔なので若く見えますが、2021年で62歳を迎え、まさに巨匠の域に入りつつあります。こちらの記事にまとめましたが、2008年から2010年にかけてのティーレマンとウィーンフィルのベートーヴェン交響曲全集は往年の指揮者を思わせる古風な演奏をおこなって正直イマイチな感じで、私はしばらくティーレマンから遠ざかったしまったのですが、近年のバイロイト音楽祭のヴァーグナーの楽劇の映像作品を見るようになってまたティーレマンの演奏を聴くようになっています。
ティーレマンはブルックナーに対して特別な想いを寄せているようで、シュターツカペレ・ドレスデンと2012年から2019年にかけて、映像作品(Blu-ray/DVD)でブルックナーの交響曲のライヴ録音で9曲の全集を完成。C Majorレーベルから2021年4月にリリースされたばかりです。私もまだ聴いていないですが、発売元のキングインターナショナルの説明によると「じっくりと遅めのテンポを基調に途方もないスケールで、深みを湛えた弦楽セクションに特徴的なこのオケの味わいを存分に堪能することができます」とのこと。
ウィーンフィルのブルックナー第2弾
シュターツカペレ・ドレスデンと全集を完成させた2019年に、ティーレマンは今度はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してソニー・クラシカル・レーベルでブルックナーの交響曲全集を開始しています。2024年のブルックナー生誕200年のアニバーサリーに向けた企画で、第1弾が交響曲第8番(2019年10月ライヴ)、そして第2弾が2020年11月末の演奏会での交響曲第3番「ヴァーグナー」です。
ネルソンス vs ティーレマンのブルックナー
一方でソニー・クラシカルのライバルであるドイツ・グラモフォンは、アンドリス・ネルソンスを掲げてブルックナーの交響曲全集を進行させています。ネルソンスは2017年から2019年に録音したベートーヴェンの交響曲全集ではウィーンフィルを指揮していましたが、ブルックナーではドイツのライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団との録音。2024年のアニバーサリーに向けて、ブルックナーの交響曲全集がネルソンス vs ティーレマン、ドイツ・グラモフォン vs ソニー・クラシカルという構図でおこなわれている状態です。ティーレマンはドイツ・グラモフォンとの契約もあり、2020年7月のバイロイト祝祭管弦楽団によるヴァーグナーの録音はドイツ・グラモフォンからリリースされています。
数少ないソニーからのティーレマンのディスク
ソニー・ミュージックのディスコグラフィーを見ると、ティーレマンのものはベートーヴェンの交響曲全集、2019年のウィーンフィルとのニューイヤー・コンサート、2018年のサントリーホールでのシュターツカペレ・ドレスデンとのシューマンの交響曲全集、そしてこのブルックナーの2枚の交響曲のみ。意外に数は少ないのです。今回のブルックナーの交響曲録音も、ユニテルとウィーンフィルとの共同制作ということで、ソニーが勝ち取った企画なのでしょうか。
交響曲第3番「ヴァーグナー」を因縁のウィーンフィルと
ブルックナーの交響曲第3番は、ブルックナーが晩年にまで3回も改訂した作品です。最初は1873年に完成した第1槁ですが、ウィーンフィルに楽譜を送ったものの演奏会には取り上げられませんでした。ブルックナーは作品に問題があると考え、改訂をおこない第2槁が1877年に完成しますが、これも再びウィーンフィルに拒絶されてしまいます。しかしウィーン楽友協会の理事会で、指揮者のヨハン・ヘルベックがこの曲を演奏することを提案し、可決されます。演奏会は1877年12月16日におこなわれることになりましたが、肝心なヘルベックが10月末に急死してしまいます。
やむなくブルックナー自身が交響曲第3番第2槁の初演の指揮を務めることになりましたが、ブルックナーの伝記によると、ウィーンフィルの楽団員は指揮がろくにできないブルックナーに対して、リハーサルでも本番でも軽蔑的な態度をとっていたこともあり、さらに演奏会での曲目が多すぎて、最後に演奏されたブルックナーの交響曲を聴き終わるまで待てる聴衆が少なかったこともあり、初演は大失敗に終わります。こういう伝記を読むと、ブルックナーと言えば「ウィーンフィル」というのは私には違和感があります。
余談ですがその2週間後にハンス・リヒターが指揮ウィーンフィルの演奏会でブラームスの交響曲第2番が初演され、大成功に終わります。存命時からファンの多かったブラームスに対して、ブルックナーは色々と不運が重なったのもありますが、時代が追いついていなかった印象です。
第2稿か第3稿か
ブルックナーの交響曲第3番は最終稿である1889年の第3稿を使用する演奏が多いですが、初演に失敗した第2稿を使う指揮者もわずかながらいます。ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団(1992年)や、ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1963年)(FC2ブログ)、同じくハイティンクとウィーンフィル(1988年)などがあります。
初演に失敗した第2槁を因縁のウィーンフィルが演奏する。それだけでも事件です。ウィーンフィルとしてはベルナルト・ハイティンク指揮の1988年の録音以来で、このときはエーザー校訂のものを使っていたそうです。今回ティーレマンが選んだのは1877年第2稿のノーヴァク校訂版。同じ第2稿でもエーザー校訂番だと第3楽章のコーダが省略されているのですが、ノーヴァク版では付いています。
爆発するウィーンフィル
ティーレマンはゆったりとしたテンポでこの交響曲を進めて行きますが、第1楽章の後半では17分を過ぎた辺りでテンポを一気に加速し、爆発させます。オペラで磨いた手腕で、堂々としながらもドラマティックに演奏していきます。第2楽章の美しさはさすがウィーンフィルです。第3楽章のスケルツォも勢いがありますが、極めつけは第4楽章。テンポ自体はゆっくりとしているのですが、熱さみなぎる演奏で、雅なウィーンフィルがほとばしっています。
プレミアムシアターで演奏会の映像が放送
2021年5月16日深夜のNHK BSプレミアムの番組「プレミアムシアター」でこの演奏会の映像が放送されました。
音で聴く以上の情報を、演奏会を観ることで得ることができました。詳細については、こちらの記事をご覧ください。
まとめ
クリスティアン・ティーレマンがウィーンフィルと始めたブルックナーチクルスの第2弾。ウィーンフィルと因縁の第2稿を使った交響曲第3番の演奏で、それだけでも事件です。初演時にもしウィーンフィルがこの演奏をおこなっていたら、きっと第3稿の改訂はしなかったでしょう。胸が熱くなる演奏でした。
オススメ度
指揮:クリスティアン・ティーレマン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2020年11月28, 29日, ウィーン楽友協会・大ホール(ライヴ)
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試聴
ソニー・クラシカルの商品ページ及びiTunesで試聴可能。
受賞
新譜のため未定。
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