このアルバムの3つのポイント
- ブルックナーの大家、オイゲン・ヨッフムの「テ・デウム」
- 崇高で厳しさを感じるベルリンフィルの底力
- 大地の底から聞こえるような力強さ
ブルックナーの大家、オイゲン・ヨッフム
ドイツ出身の指揮者オイゲン・ヨッフムは、ブルックナーとオルフの大家として知られる指揮者。特にブルックナーについては1950年からブルックナー協会の総裁も務め、ノーヴァク版による交響曲の新校訂にも貢献し、交響曲全集も2回録音しています。
1回目はこちらの記事で紹介した1958年から67年のブルックナーの交響曲全集でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とヨッフムが創設に関わったバイエルン放送交響楽団を振り分けてレコーディングしました。
2回目はこちらの記事に書きましたが、1975年から80年にシュターツカペレ・ドレスデン(SKD)と録音しています。
どちらもヨッフムの解釈は大きくは変わっていませんが、私はSKDのムラのあるオーケストラの力量よりは、ベルリンフィルとバイエルン放送響の安定した技術で演奏される旧録のほうが好みです。
そして旧録の交響曲全集の合間に、ヨッフムはブルックナーの宗教音楽にも精力的にレコーディングしています。
ベルリンフィルとの「テ・デウム」
今回紹介するのはヨッフムがベルリンフィルと1965年6月、7月にベルリンのイエス・キリスト教会(ダーレム)で録音した「テ・デウム」。ベルリンフィルが本拠地としているベルリン・フィルハーモニーは1963年に竣工していますが、音響の素晴らしさから60年代のベルリンフィルはイエス・キリスト教会での録音が多かったです。
この「テ・デウム」も、ヴィンヤード(ぶどう畑)型のフィルハーモニーよりも、音が拡散しない教会での録音なので荘厳な音響が生み出されていると感じます。
ヨッフムの解釈はブルックナーの交響曲全集の旧録と同様に、耳あたりの良い美しい響きではなく武骨でゴツゴツした響きがしますが、ベルリンフィルのパワーを見せつけられるというか、崇高で厳しさすらも感じるような「テ・デウム」です。
聴くなら最近のリマスタリングがオススメ?
私はこの録音を2009年にリリースされたユニバーサル・ミュージック(ドイツ・グラモフォン)の国内盤の「The Originals Special」で聴いています。ルビジウム・カッティングによるCDで音色のしなやかさと響きの豊かさがより引き出されるようになったはずなのですが、この「テ・デウム」を聴くと音のレンジが強いほうに引っ張られてしまっていて、強い音ほど突っ張るような響きがします。また、音割れもときどきありますね。
レコード芸術2021年10月号で「いぶし銀の指揮者」特集があり、オイゲン・ヨッフムも取り上げられていますが、タワーレコード商品開発部兼バイヤーの方の記事でこのヨッフムの「テ・デウム」を含む復刻版ディスクが紹介され、そこでは、
(前略)DGのこの時期の録音は腰が高めで、新規の復刻、特にハイレゾ音源ではエネルギー感の偏りを感じていました。(中略)その後、こちらからの意見も参考に、クーベリックのドヴォルザーク/交響曲全集の復刻あたりから、本国のエンジニアによるマスタリング精度が一段と高まりました。このヨッフム盤では、更に最適化された音質になったと思います。
レコード芸術2021年10月号、北村 晋氏による記事
とあります。
どうせ聴くなら最近のリマスタリングのほうが良さそうです。
まとめ
オイゲン・ヨッフムがベルリンフィルを指揮して録音したブルックナーの「テ・デウム」。大地の底から響くような魂のこもった熱演です。
オススメ度
ソプラノ:マリア・シュターダー
アルト:ジークリンデ・ヴァーグナー
テノール:エルンスト・ヘフリガー
バス:ペーター・ラッガー
オルガン:ヴォルフガング・マイヤー
指揮:オイゲン・ヨッフム
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
録音:1965年6月, 7月, ベルリン・イエス・キリスト教会
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
コメント数:2
この記事をきっかけに、テ・デウムを初めて聴きました。ブルックナーの曲が通しで30分足らずというのは敷居が低いですね。個人的に、第二曲の独唱(特にテナー)と独奏バイオリンの絡むところが心に沁みました。終曲で交響曲7番の第2楽章の世界に入ったなぁ、と思っていたら、すぐにあっけらかんとドミソの和音で曲が締めくくられて、少し戸惑いました。テ・デウムを交響曲9番の4楽章として演奏したら、やはり違和感はあるだろうなと思いました。この曲をもう少し聴きたかったので、検索したら、ハイティンクとウィーンフィルの演奏があったので、通しで聴いてしまいました。こちらも素晴らしかったです。
XIZEさま
テ・デウムはブルックナー自身が交響曲第9番の第4楽章として使うようにと、語っていたそうですが、違和感はありますよね。第9番は第3楽章の静寂な終わりの後に静けさに浸っていたい気持ちになります。
ハイティンクとウィーンフィルの演奏も透き通っていてバランスが取れていると思います。なるべく多くの演奏家を紹介したいと思い、今回はヨッフムの演奏を取り上げました。