このアルバムの3つのポイント

モーツァルト 歌劇『フィガロの結婚』 サー・ゲオルグ・ショルティ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団/キリ・テ・カナワ(1981年)
モーツァルト 歌劇『フィガロの結婚』 サー・ゲオルグ・ショルティ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団/キリ・テ・カナワ(1981年)
  • ロンドンフィルと首席指揮者ショルティの組み合わせ
  • キビキビとした躍動感
  • 米国グラミー賞「Best Opera Recording」を受賞

ハンガリー出身のサー・ゲオルグ・ショルティはオペラ指揮者として頭角を現し、1969年からはオーケストラへと転身。シカゴ交響楽団の音楽監督を務めてフリッツ・ライナー以来の第二の黄金時代を築く一方で、1961年から続けていたイギリスのロイヤル・オペラ・ハウス(コヴェント・ガーデン)の音楽監督を1971年まで、そしてフランス・パリ管弦楽団の首席指揮者を1972〜75年まで、そして1979年から83年にかけてイギリスのロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めています。

ロンドンフィルとは首席指揮者に就く前からエルガーの交響曲第1番(1972年)ヴラディーミル・アシュケナージのピアノ独奏でバルトークのピアノ協奏曲全集(1978〜81年)も録音しています。シカゴ響がマッシブでパワフルなオーケストラでそれでいてうっとりするような弦の美しさが特徴だったのに対し、ロンドンフィルは個々の楽器が目立つということはないかもしれませんがバランスが取れてウィットに富んでいるように感じます。

キングズウェイ・ホールでの『フィガロ』

今回紹介するのは、そのショルティとロンドンフィルの首席指揮者時代の録音。モーツァルトの歌劇『フィガロの結婚』K492の全曲録音で、イギリスのレーベルのデッカやEMIがよく使ったロンドンのキングズウェイ・ホールでのセッション録音。1981年5月から6月におこなわれたデジタル録音です。

ニュージーランド出身のキリ・テ・カナワは現代を代表するソプラノ歌手の一人。イギリスで学び1968年に『魔笛』でデビューしていますが、彼女を有名にしたのは1971年のロイヤル・オペラ・ハウスでのフィガロの結婚。ショルティの後任として首席指揮者を務めていたコリン・ディヴィスが指揮を取り、12月1日から開始された『フィガロ』の新上演では、伯爵夫人役を務めた当時27歳のテ・カナワが喝采を浴び、以後主要な歌劇場にも出演するようになりました。

ショルティとテ・カナワの共演のきっかけは1971年のヴァーグナーの『パルジファル』の録音。このとき花の乙女第3という端役を務めたテ・カナワでしたが、それ以降ショルティとテ・カナワの共演は増え、録音だけでもビゼーの歌劇『カルメン』(1975年)、ブラームスのドイツ・レクイエム(1978年)、マーラーの交響曲第4番(1983年)、ヘンデルのオラトリオ『メサイア』(1984年)、R.シュトラウスの『ばらの騎士』(1985年)、R.シュトラウスの4つの最後の歌(1990年)、ヴェルディの『オテロ』(1991年)などがあります。

まさに当たり役というキリ・テ・カナワの伯爵夫人。伯爵から愛されなくなってしまった夫人の切なさが憂いのこもった歌声で見事です。

スザンナ役にルチア・ポップ

そして1971年のパルジファルで同じく花の乙女第1を務めたのがソプラノのルチア・ポップ。ショルティとはヴァーグナーの『神々の黄昏』(1965年)、マーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」(1971年)、ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」(1978年)、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』(1978年)、フンパーディンクの『ヘンデルとグレーテル』(1978年)などでも共演しています。様々な指揮者に支持されたポップは、レナード・バーンスタインと『フィデリオ』(1978年)カルロス・クライバーと『ばらの騎士』(1979年)ベルナルト・ハイティンクと第九(1987年)なども録音していますね。

今回はポップがフィガロと結婚予定のスザンナ役を務めています。同じソプラノでも、伯爵夫人の憂いに比べてスザンナは愛くるしいチャーミングな歌声。ルチア・ポップのキャラクターが出ています。

錚々たる歌手の顔ぶれ

キリ・テ・カナワ、ルチア・ポップという2人の名ソプラノ歌手だけでなく、小姓のケルビーノ役にはフレデリカ・フォン・シュターデ。アリア「恋とはどんなものかしら」で優しくも純粋な歌声を披露しています。他にもフィガロのサミュエル・レイミー、伯爵にはトーマス・アレン、そしてバルトロにはクルト・モルと当時の第一線の歌手陣を揃えた錚々たる顔ぶれ。

ショルティの躍動感と引き締まった指揮

最後にショルティとロンドンフィルにも。序曲からショルティらしいです。残響の少なめの引き締まったハーモニーで機動力の高いアンサンブル。テンポに厳格で響きにメリハリが効いています。ヴァーグナーのニーベルングの指環のときもそうでしたが、この緊張感がショルティのオペラ・レコーディングでのドラマ性を生んでいます。ロンドンフィルのモダンな響きも良いです。

グラミー賞を受賞したのも納得のショルティとロンドンフィルの『フィガロ』。デジタルのデッカ・サウンドで耳で楽しめるオペラです。

オススメ度

評価 :5/5。

アルマヴィーヴァ伯爵(バリトン):トーマス・アレン
アルマヴィーヴァ伯爵夫人ロジーナ(ソプラノ):キリ・テ・カナワ
スザンナ(ソプラノ):ルチア・ポップ
フィガロ(バリトン):サミュエル・レイミー
ケルビーノ(メゾ・ソプラノ):フレデリカ・フォン・シュターデ
ドン・バルトロ(バス):クルト・モル
ロンドン・オペラ・コーラス
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1981年5月-6月, キングズウェイ・ホール

Apple Music で試聴可能。

1984年の米国グラミー賞「Best Opera Recording」を受賞。この年はジェームズ・レヴァイン指揮メトロポリタン歌劇場による『椿姫』とのダブル受賞。

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