このアルバムの3つのポイント

R.シュトラウス アルプス交響曲 サー・ゲオルグ・ショルティ/バイエルン放送交響楽団(1979年)
R.シュトラウス アルプス交響曲 サー・ゲオルグ・ショルティ/バイエルン放送交響楽団(1979年)
  • ショルティとバイエルン放送響の珍しい録音
  • ショルティ得意のR.シュトラウス
  • オーケストラを鳴らし切って生み出した躍動感

数多くのレパートリーを誇った名指揮者サー・ゲオルグ・ショルティですが、その中でもR.シュトラウスの作品は得意としていました。オペラはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との録音が多かったですが、管弦楽曲はオーケストラを振り分けていて、シカゴ交響楽団とはこちらの記事で紹介した1975年の「ツァラトゥストラはこう語った」や「ドン・ファン」、「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」などがあり、ツァラトゥストラにはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との1996年のライヴ録音もあります。一方で交響詩「英雄の生涯」は当時ヴァイオリン・ソロを務めたライナー・キュッヒルがいたウィーンフィルとの録音でしたし、今回紹介する交響詩「アルプス交響曲」はショルティにしては珍しく、バイエルン放送交響楽団との共演となりました。アルプスの山岳地方に山荘を構えたシュトラウス。山を愛した作曲家によるアルプスの物語です。

ショルティとの録音が多かったのは音楽監督を務めたシカゴ響や、ヴァーグナーの「ニーベルングの指環」の全曲録音もおこなったウィーンフィルとのものが大部分で、デッカレーベルのものでは1960年代はロンドン交響楽団ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、そして70年代後半は首席指揮者を務めたロンドン・フィルハーモニー管弦楽団などがありますが、バイエルン放送響とのものは本当に珍しいです。調べたら他にヴァーグナーの「ヴァルキューレ」の第1幕の録音や1993年に客演したときのブルックナー交響曲第3番とストラヴィンスキーの3楽章の交響曲の映像作品があるぐらいでした。

ただ、ショルティは戦後間もない1946年から52年までバイエルン国立歌劇場(州立歌劇場、バイエルン・シュターツオーパー)の音楽監督を務めていましたし、ミュンヘンにも馴染みが深かったとも言えます。

バイエルン放送響の持ち味と言ったら、今も昔も精緻なアンサンブルと美しい弦セクションでしょう。最近だと2016年にマリス・ヤンソンスが指揮したアルプス交響曲のライヴ録音があって、熟成されたハーモニーで極上の官能美とまろやかさを堪能させてくれました。古い録音でもラファエル・クーベリックがマーラーの第9番(1967年)で引き出した美しい弦は見事でした。

ただ、このショルティ盤は異色のコラボレーションと言えるでしょう。私はショルティも好きですし、バイエルン放送響も好きですが、この組み合わせの相性にはやや疑問を感じます。特に第2曲「日の出」ではショルティらしくオーケストラを鳴らし切って躍動感もたっぷりですが、バイエルン放送響の柔らかい持ち味はあまり感じませんでした。

第1曲の「夜」はショルティがオペラで魅せたように雰囲気を音だけで作り出しています。静まりかえる闇の中でうごめく気配。オペラで頭角を現したショルティはこういう表現が実にうまい。徐々にヒートアップして明るく照らされると第2曲「日の出」で最高潮に。輝かしいトランペットが高らかに奏でます。第3曲「登り道」では速めのテンポで押し切り、ガシガシ進んでいくのがショルティっぽいです。第4曲「森への立ち入り」での冒頭での金管のけたたましさはバイエルン放送響らしくないので意外でした。第17曲「雷雨と嵐、下山」では躍動感があります。最後の第20曲「夜」では第1曲と同じように音だけで闇の世界を描いていきます。

CDにはマスターテープに由来するノイズがあると断りが書いてありますが、確かに音が揺れているところもあります。音響で定評のあるヘラクレス・ザール(ヘルクレス・ザールとも)での録音でしたが、音質が良いデッカにしては珍しくキズがあります。

ショルティが珍しくバイエルン放送響と録音したR.シュトラウスの「アルプス交響曲」。オーケストラを鳴らし切った躍動感ある演奏になっています。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
バイエルン放送交響楽団
録音:1979年9月9ー10日, ヘラクレス・ザール

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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コメント数:1

  1. この曲を初めて聴きました。第一印象はやっぱり、月並みですみません、「セブン」でした。。。世代かもしれません。道に迷っても、嵐に遭遇しても、基本的にポジティブな曲で楽しめました。嵐の部分だけ他の演奏をいくつか試聴をしてみましたが、この演奏&録音は「風」と「雷」の特殊楽器の活躍が良くわかるので好きです。

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