このアルバムの3つのポイント

- ショルティの珍しいモーツァルトの交響曲録音
- 初共演となったヨーロッパ室内管と
- 楽譜に忠実ながらも引き締まった表情
理想のモーツァルトは意外に難しい
オペラ、交響曲、レクイエム、ピアノ協奏曲、ピアノ・ソナタ、室内楽曲など、短い一生だったにも関わらずヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの作品は多いですが、交響曲や管弦楽曲に絞ると理想的な演奏は少ないのかなという印象が私にはあります。ベートーヴェンやブラームス、マーラーなどはあれも良い、これも良いと目移りするほどオススメしたい演奏があるのですが、モーツァルトだと何故かストライクゾーンが狭くなってしまうのです。
確かに名指揮者のモーツァルトの演奏も多く聴いてきましたが、ヘルベルト・フォン・カラヤンはカッコよくスマートだけどモーツァルトっぽくないなとか、クラウディオ・アバドは激しすぎても合わない気がしますし、カルロ・マリア・ジュリーニのように歌いすぎるのもちょっと違うのかなと。マリス・ヤンソンスのように音が芳醇すぎてもモーツァルトの作品にそぐわない印象がありますし、レナード・バーンスタインのようにギトギトしているのも何か違うなぁと。結局素朴ながらもモーツァルトの音楽を足しも引きもしないカール・ベームが一番合うような気がしますし、ニコラウス・アーノンクールとかネヴィル・マリナーあたりも良かったなぁ、と。
そんな中、今回紹介するのはサー・ゲオルグ・ショルティがヨーロッパ室内管弦楽団を指揮したアルバムです。
意外にも少ないショルティのモーツァルトの交響曲
モーツァルトのオペラをほとんど演奏、録音してきてレパートリーも幅広く膨大なレコーディングを誇るショルティですが、意外にもモーツァルトの交響曲はほとんど録音していません。デッカでの正規録音では、キャリア初期の1954年にロンドン交響楽団を指揮して第25番、第38番『プラハ』、1958年にイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団と『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』を録音した他、シカゴ交響楽団と1982年に第38番『プラハ』、39番を録音しているのがあるぐらいです。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との「魔笛」(1969年)なんかはショルティの名盤の中でもかなりの名盤だと思いますが、あのドラマティックな演奏は「夜の女王」を務めたソプラノのクリスティーナ・ドイテコムのすごさもありますが、本当に身震いするほどの名演でした。
オペラを得意としたショルティにとって、比較的規模の小さいモーツァルトの交響曲では良さが活きるのかと改めて聴いてみたのが今回のアルバム。1984年6月にヨーロッパ室内管との交響曲第40番ト短調K550と第41番ハ長調K551『ジュピター』を録音したものです。フランクフルトのアルテ・オーパーでのセッション録音で、私は2012年にリリースされた国内盤CDで聴いていますが、廃盤になってしまい、CDで入手できるのはUltimate MozartやThe Art of Georg Soltiに入っているぐらいです。Apple Music で「Solti Mozart」で検索してもヒットしないこのアルバム。おそらくショルティ好きの方でも聴けていない方が多いのでは、と思慮します。
設立間もないヨーロッパ室内管
EC ユース管弦楽団 (現在のEU ユース管弦楽団)の出身者らによって1981年に設立されたヨーロッパ室内管。1984年の録音だとまだ3年しか経っていないですが、元々EC ユース管も若手オーケストラの枠を超えて世界水準のプロのオーケストラですから、ヨーロッパ室内管も技量的には申し分ないです。
ショルティとヨーロッパ室内管といえば、1994年5月の歌劇『コジ・ファン・トゥッテ』の録音が名盤として有名で、私も感銘を受けたものでした。ただこの1984年時点では両者の初共演だったそうです。ショルティは1984年5月にシカゴ交響楽団とチャイコフスキーの交響曲第4番を録音していますので、その1ヶ月後ということですね。
また翌年1985年3月にはショルティ&ヨーロッパ室内管はアリシア・デ・ラローチャがピアノ独奏を務めたモーツァルトのピアノ協奏曲第24番と26番も録音しています。
楽譜に忠実ながらキビキビと
この2曲の交響曲を繰り返し繰り返し聴いてみましたが、ショルティは至って真面目というか、スコアと見比べても全くおかしなことをしていません。ドラマティックな表現をしますが楽譜に忠実なのがショルティの特徴。古典派の音楽らしく音のレンジは狭くて弱く(p)から強く(f)までしかなく、ロマン派以降にあるようなfffとかの指示は無いのですのが、ショルティとヨーロッパ室内管はこのレンジの中で忠実に描いています。
交響曲第40番はスコアが2種類ありますが、初版ではなくクラリネットが追加された第2版を使っていて、第1楽章はリピート記号も守っていて、トラック1の2分4秒からまた冒頭に戻っています。第1主題は悲哀さというよりも、しっとりと歌わせています。ショルティらしさが出ているといえば、このキビキビした感じ。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリンのメロディを際立たせていますが、テンポが活き活きとしています。そしてトラック1の0分41秒あたりで始まる音階が少しずつ上がる両ヴァイオリンのフレーズではまるでバロックの音楽のような厳格さで演奏されていきます。
第41番のほうはよりショルティらしいダイナミックさが出ています。第40番では良い意味で手加減した感じがしたショルティですが、この曲ではよりストレートに活き活きとした表情を見せています。楽譜には忠実で、ピアノとフォルテの範囲の中でできる限りのレンジを付けています。シカゴ響では硬さが感じられましたが、ヨーロッパ室内管は小規模な編成ながらしなやかな柔らかさがあります。まだ18〜24歳の若手が多かったメンバーを相手に、当時71歳の大巨匠ショルティが「タタタ タータン」と指示しながらニコッと笑って楽しんでいる姿が思い浮かびます。
まとめ
ショルティにしては珍しいモーツァルトの交響曲録音。ヨーロッパ室内管との初共演で、いつもと違う一面が見れる演奏でもあります。これが配信の検索で出てこないのは本当にもったいない。
オススメ度
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ
ヨーロッパ室内管弦楽団
録音:1984年6月, フランクフルト・アルテ・オーパー
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試聴
iTunes (DeccaのUltimate Mozart)で第40番と41番を試聴可能。
受賞
特に無し。









コメント数:2
モーツァルトはいろんな場面で耳にしていても、しっかりと聴いたことがありませんでした。今回も、先入観で「ショルティがモーツァルト?」とか思いながら聴き始めてしまいましたが、40番のイントロからすぐ、旋律の歌わせ方にハッとしました。こんな芸風も持っていたのか。さすが。それでも、弦にガシガシ引かせるところはショルティらしく、ちょっとベートーヴェン的にも聞こえました。
初めまして、こんにちは。10代前半の頃からのショルティファンです。初めて買ったのが2枚組¥3,000だった第九か、¥5,000もした千人だったかの記憶は定かではありません。LPレコード時代のお話♪
この記事を拝読して、さっそく手配して楽しませていただきました。モーツアルト後期は、セル・クリーブランドがお気に入りでしたが、ショルティもなかなかやって呉れますね。
グラミー賞ギネスのショルティが日本で不人気なのが謎です。几帳面で律儀な日本人向けの演奏だと思っているのは私だけ?