米グラミー賞受賞!最晩年のホロヴィッツとジュリーニの奇跡のモーツァルト ピアノ協奏曲第23番(1987年)

モーツァルト ピアノ協奏曲第23番他 ヴラディーミル・ホロヴィッツ/カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団(1987年)

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モーツァルト ピアノ協奏曲第23番他 ヴラディーミル・ホロヴィッツ/カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団(1987年)
モーツァルト ピアノ協奏曲第23番他 ヴラディーミル・ホロヴィッツ/カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団(1987年)
  • 最晩年のホロヴィッツによるモーツァルトのピアノ協奏曲
  • 寄り添うジュリーニ&ミラノスカラ座
  • 米グラミー賞受賞

20世紀を代表するピアニストの一人、ヴラディーミル・ホロヴィッツ(1903〜1989年)。ウクライナ生まれですが、長らく祖国に戻ることはなく、1986年4月、約60年ぶりに祖国の旧ソ連でのピアノ・リサイタルを開き、大成功を収めました。そして翌5月には約50年ぶりのドイツ・ベルリンでのリサイタルをおこない、こちらも大成功に終わりました。私は先月、映像でモスクワのリサイタルの録画を見ましたが、1曲弾くごとに聴衆からの割れんばかりの拍手が起こっていました。弾き終えるとホロヴィッツは「どう?」という顔でお客さんを見て、熱い反応を受けて笑顔で次の曲を弾く、そんな聴き手との双方向のやり取りでのリサイタルは映像を観ていても心が温まりました。

100万ドル(当時のレートだと2億3千2百万円)という破格のギャラでおこなった1983年のホロヴィッツの初来日公演では、リサイタルでミスを連発して、音楽評論家の吉田秀和に「ひび割れた骨董」と酷評されるほどの不出来。公演後に精神を病んでしまい1年以上演奏活動から遠ざかってしまったホロヴィッツが、この1986年のモスクワとベルリンで見事に成功を収め、この年に2回目の来日公演も無事に終えました。1986年はホロヴィッツの転換期とも言える年でしょう。

そして翌年の1987年3月には、ホロヴィッツはイタリア出身の指揮者カルロ・マリア・ジュリーニミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団と、でミラノにあるアバネラ・スタジオ(Abanella Stduio)でモーツァルトのピアノ協奏曲第23番イ長調K488を、ピアノソロでピアノソナタ第13番変ロ長調K333(K315c)のセッション録音をおこないます。

ピアノ協奏曲のほうは米国グラミー賞を受賞しています。

晩年のジュリーニは遅いテンポで有名でした。

1984年のウィーンフィルとのブルックナーの交響曲第8番は、通常75分〜80分で演奏し終わるノーヴァク版を使っているのに87分33秒も掛かっていました。また、同じくミラノ・スカラ座との1991年から93年のベートーヴェンの交響曲第1番〜8番の録音もゆったりとしたテンポで旋律を解きほぐしているような印象でした。

しかし、このモーツァルトの協奏曲では、速めのテンポを好むホロヴィッツに合わせてせっせと進んでいきます。特に第1楽章はオーケストラだけの演奏から始まりますが、いつもだったら溜めを効かせるところでもジュリーニとスカラ座はさっと足早に進んでいきます。歌うような旋律を引き出していく晩年のジュリーニにしては意外な演奏です。まるで1969年のシカゴ交響楽団とのブラームスの交響曲第4番のような、壮年期の指揮スタイルに戻ったようです。弦のメロディの美しさはスカラ座らしいです。

そしてピアノ独奏が加わると、軽やかなタッチで詩情豊かにホロヴィッツは演奏していきます。ホロヴィッツのピアノにオーケストラが伴奏をしているかのように、この演奏での主役はピアノ、そしてホロヴィッツです。

例えるなら、カレーとうどんを両方食べたいからカレーうどんにしたら、うどんのほうに引っ張られてカレーの個性が薄まってしまったように、この演奏ではジュリーニの持ち味を出し切れていません。ホロヴィッツをお膳立てしている役に回ってしまっています。

第1楽章のカデンツァはブゾーニが作曲したものを使っていて、即興的なホロヴィッツの演奏によく合っています。詩情豊かなのですが、低音をガンガンと鳴らすところもあるのがホロヴィッツの意外性です。

第2楽章のアダージョはしんみりとした曲想ですが、ここでもホロヴィッツは少し速めのテンポで進みます。ただ、モスクワやベルリンの1986年のリサイタルで演奏した「トロイメライ」のように、ピアノからこれほどまでに詩情豊かに演奏できるのはホロヴィッツならではでしょう。

第3楽章のアレグロ・アッサイではキビキビとしたタッチに変わり、ピアノもハツラツとしています。ただ、ジュリーニ&スカラ座もそれに合わせてテンポを速めに設定しています。アドリブ感がするホロヴィッツのピアノは、モーツァルトがおどけているかのように、意外なところで低音をガンガンと鳴らしています。

協奏曲にカップリングされているモーツァルトのピアノソナタ第13番K333は、ホロヴィッツのソロということもあって、協奏曲以上に演奏がオーガナイズされています。

ピアノを打鍵するときに爪が当たってカチカチ音がするので、ピアニストは爪を短くするのが一般的ですが、ホロヴィッツは独特のタッチをしていたので爪を切らなくても当たらなかったそうです。(2018年?のホロヴィッツのドキュメンタリーによる)。ホロヴィッツならではの軽いタッチで奏でられるソナタは、詩情豊かで無邪気でもあり、モーツァルトの一つの理想的な演奏だと思います。

最晩年のヴラディーミル・ホロヴィッツのピアノ独奏によるモーツァルトのピアノ協奏曲。カルロ・マリア・ジュリーニとミラノ・スカラ座がホロヴィッツに寄り添う演奏で意外性がありました。ホロヴィッツの詩情豊かなピアノはさすがだと思いますが、ジュリーニの持ち味が出し切れていないのが惜しいところ。

オススメ度

評価 :4/5。

ピアノ:ヴラディーミル・ホロヴィッツ
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団
録音:1987年3月, ミラノ・アバネラ・スタジオ

iTunesで試聴可能。

ピアノ協奏曲第23番のレコーディングが1988年の米国グラミー賞「BEST CLASSICAL PERFORMANCE – INSTRUMENTAL SOLOIST(S) (WITH ORCHESTRA)」を受賞。

また、ピアノソナタ第13番が同賞の「BEST CLASSICAL PERFORMANCE – INSTRUMENTAL SOLOIST(S) (WITHOUT ORCHESTRA)」、両方を含むアルバムHorowitz Plays Mozartが「BEST CLASSICAL ALBUM」にノミネートされるも受賞ならず。

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