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ベートーヴェン交響曲選集 カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団(1991-1993年)
ベートーヴェン交響曲選集 カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団(1991-1993年)
  • ジュリーニ晩年のミラノ・スカラ座との演奏
  • ゆったりとしたテンポで、旋律を見事に引き出した個性的な演奏
  • 第8番は歌うような旋律をこれ以上に引き出せた指揮者はいないのでは、と思うほど

1914年生まれのイタリア出身の指揮者カルロ・マリア・ジュリーニは、ミラノ・スカラ座の音楽監督、シカゴ交響楽団の首席客演指揮者、ウィーン交響楽団の首席指揮者、ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督のポジションを歴任しましたが、夫人の病気のために晩年は特定のオーケストラや歌劇場のポストに就かず、ゲスト指揮者としてヨーロッパ内で活動を制限していました。

1991年からミラノ・スカラ座とベートーヴェンの交響曲全集に取り掛かりましたが、第9番だけ録音されませんでした。第1番から第8番の交響曲と、コリオラン序曲、エグモント序曲、そしてサルヴァトーレ・アッカルドとのヴァイオリン協奏曲、2つのロマンスをソニークラシカルレーベルで収録しています。

晩年のジュリーニらしく、ゆったりとしたテンポで、旋律を見事に引き出した演奏ですが、曲によっては「遅すぎるな」と感じるものもあります。

中でもオススメは第8番で、歌うような旋律をこれ以上に引き出せた指揮者はいないのでは、と思うほどです。

第1楽章の立ち上がりからして、素晴らしさを感じる。ふわっと香り立つように、木管が柔らかく音を鳴らす。この柔らかさは他ではあまり見られない。ここでのテンポ設定は中くらいの速さで、弦も木管もメロディを柔らかく美しく奏でている。これぞハーモニーといった感じの、良い音色である。
第2楽章でもおとなしく優雅な演奏。とても上品である。
第3楽章はゆっくりとしたテンポであるが、強くトゥッティで奏でるところでも音が尖らずに、丸みを帯びた輪郭でメロディを演奏している。
第4楽章では、冒頭からふわっとした和音で始まる。音を揃えずに、あえて少しずらすことで柔らかさや温かさが増している。フォルテの音でも、木管と弦、金管が柔らかく、とても優雅な音色を出している。

テンポは遅くも速くもなく、中庸的な速さ。序奏は全体的に抑えめに演奏されているが、金管はアクセントとして少し強調している。柔らかくて良い音色である。
主題に入ると、少しテンポを上げて、まだ抑え目ながら丁寧に、少しずつ盛り上がっていく。自己主張しないで、作品から自然と香りが立つような、ゆとりある演奏である。
第4楽章でもテンポをゆっくりと取り、ジュリーニらしいベートーヴェンとなっている。
古典的な交響曲のように作品の規模が小さいだけに、室内楽的な、自発的なこういう演奏がよく合っている。

ジュリーニの英雄と言えば、1978年のロサンゼルス・フィルハーモニックの録音を紹介しているが、この交響曲からかくも旋律を引き出したジュリーニの指揮の素晴らしさに脱帽したものであった。
このスカラ座との再録でも、第1楽章からジュリーニ晩年の特徴がうかがえる。ロスフィルのときよりもさらにテンポを落として、ゆったりと悠然と構えている。音色が柔らかく、弦、木管、金管全ての楽器パートの旋律が見事に引き出されている。ロスフィルのとき以上に、旋律が丹念に描かれている。「英雄」という標題を気にして雄大さを出そうとテンポを煽ったりすることはなく、テンポは一定のまま、どっしりと構えている。ジュリーニだからこそできる解釈であるし、ミラノスカラ座とのコンビだからこその旋律の美しさである。
第2楽章の葬送行進曲はさらにテンポが遅くなり、まるで深呼吸をするかのようなゆったりとしたリズムで旋律が丁寧に描かれている。死者を弔うかのように、柔らかく慈愛に満ちた演奏である。ロスフィルとの旧録では、美しさとともに差し迫る迫力もあったのだが、このスカラ座との再録では、迫力は失われたものの、柔らかい輪郭で美しさに磨きが掛かっている。
第3楽章のスケルツォもゆったりとしたテンポ。軽快ではあるが、旋律を丁寧に引き出しているアプローチは他の楽章と同じ。特にホルンのソロのパートでは、柔らかい音色で温かく旋律が歌われている。
そして第4楽章のフィナーレ。冒頭のフレーズから木管の中間音域の旋律がよく引き出されている。ゆったりとしたテンポで、それぞれの楽器がお互いのメロディを聴いて呼応しているかのように、オケ全体が歌うように音楽が紡がれていく。
カラヤンのような勇ましい英雄や、アバドのような激しい英雄ショルティのような壮大な英雄を好む人には違和感を感じるかもしれない。テンポも遅くて万人受けする演奏とは思えない。しかし「英雄」交響曲をゆったりと丁寧に演奏し、見事に旋律を引き出したジュリーニの晩年の名演である。

第1楽章の長い序奏はゆったりと、まるでオルガンの演奏を聴くかのよう。低音部の音の上下に合わせて中間部の音が和音を付ける。バロックの通奏低音である。華麗な第1主題に入るとジュリーニは一気にテンポを上げ、ミラノスカラ座の華やかな音色で、特に旋律を際立たせた演奏を行う。ただし、「運命」で聴かせたように、ここでもシンフォニックで厚みのあるハーモニー。
第2楽章はゆったりとしたテンポで、旋律がよく引き出された心地よい演奏。ジュリーニらしく、丁寧に音楽が作られている。10分ほどの楽章だが、まるでシューベルトの天国的な長さの曲を聴いているかのように、永遠に続いて欲しい心癒される楽章である。
第3楽章も少しゆっくり目のテンポで、一音一音が丁寧に引き出されている。
第4楽章は軽やかな楽章だが、ジュリーニはゆったりとしたテンポで、テンポルバートで速めることもなく一貫したリズムで進む。厚みあるハーモニーで、ここも一音一音がしっかりと鳴らされている。

1981年にロスフィルとレガートな運命の演奏を行っていたが、このミラノスカラ座との演奏ではレガートにさらに磨きが掛かっている。
第1楽章はジュリーニらしく、タタタターンをレガートでつなげて演奏している。ピアノでたとえるなら、ずっとペダルを踏みっぱなしのような感じだ。ドイツ的な演奏を好む人には、タン、タン、タン、ターンと音を切らないと運命らしく聴こえないだろうが、ジュリーニのアプローチはこの全曲を支配する運命の動機から滑らかである。単にレガートで歌うように演奏しているだけではなく、ハーモニーがシンフォニックで、厚みがある。テンポもそこまで遅くはなく、むしろ標準的である。
第2楽章は癒しの音楽。旋律を丁寧に歌わせるような演奏で、いかにもジュリーニらしい。しかし、ここでもテンポは標準的である。決してゆっくりということはない。そして低音部までどっしりと音が鳴らされ、とても厚みのあるハーモニーである。
第3楽章も美しい旋律が引き出されている。ヴァイオリン、ピッコロの音色が特に美しく聴こえるが、ピチカートでの弦の演奏を始め、それぞれの楽器の音色がよく出ている。
そして少しずつ雲が掛かり始めもやもやとしてから、一気に音が強くなり、アタッカで始まる第4楽章。少しゆっくりのテンポで各楽器が丹念に演奏される。高音から低音までのハーモニーに厚みがある。この第4楽章は特にジュリーニのこだわりが感じられ、終始変わらない少しゆっくり目のテンポで、ベートーヴェンの楽譜の一つ一つの音が全て大切に奏でられている。それにしても素晴らしいハーモニーだ。
他の7つの交響曲の録音と比べると、テンポも標準的でやや異色な感じもするが、レガートに磨きが掛かり、意外にもシンフォニックなジュリーニ晩年の「運命」である。

この「田園」でも、たっぷりと歌っている。ロスフィルとの録音でも遅いテンポであったが、このスカラ座との録音はさらに遅くなっている。音楽の流れよりも、音の要素ごとを丹念に歌っているようなそんな演奏である。第4楽章の「雷雨、嵐」でもテンポを速くして煽るようなことはなく、あくまでもどっしりとして音楽を作っている。嵐の獰猛さを表すために、ここはテンポを速める指揮者が多いのに、ジュリーニのアプローチは逆を行く。それでも、うねるような低音部は差し迫る迫力だ。
そして嵐の過ぎ去った第5楽章は、ヴァイオリンがそっとメロディを歌い、とても愛おしい。身体が溶けるような美しさである。以前よりもジュリーニらしさがさらに強く出た、個性的な演奏である。

この曲でも、冒頭を聴くだけでジュリーニとスカラ座の解釈がよく分かる。トゥッティで弾くところで、ふわっと立ち上がるような音色を聴かせ、柔らかく香り立つ演奏をしている。
弦と木管が柔らかい音色を聴かせ、勇ましい第1楽章でも優雅で上品な演奏を聴かせる。テンポは非常に遅く取っているが、そのために優雅さがより一層引き出されている。1つ1つの楽譜の音を丁寧に演奏している。ジュリーにはワインを熟成するかのように、決して焦ることはない。
第2楽章でも遅めのテンポで、低音部から丁寧に音色を出している。
第3楽章ではテンポは普通で、躍動感よりもしっとりとした演奏である。
第4楽章でもテンポは遅い。丁寧ではあるが、テンポを上げることによって出される切迫感は、ここでは聴けない。ピッコロなどの木管がメロディを奏でるところは非常に美しく、ジュリーニらしいメロディの引き立たせを感じることができる。
柔らかく優雅なベートーヴェンではあるが、テンポが遅すぎるのが気になる。

第7番と同時期に作曲されたが、イマイチ知名度の低いベートーヴェンの交響曲第8番。第7番が「のだめカンタービレ」で集中的に取り上げられて「ベト7(シチ)」という呼称で親しまれているのに、第8番は一般的に知られるレベルまでには至っていない。曲としては、第7番に引けを取らないくらいに素晴らしい曲である。ベートーヴェンの交響曲の中では最も優雅であると言えるかもしれない。田園ののどかな景色と良く似合う曲である。
第8番の数ある録音の中でも、このジュリーニとミラノスカラ座の演奏を最もオススメしたい。全体を通して歌心が溢れ、ジュリーニの良さがこの曲で存分に発揮されている。冒頭のヴァイオリンの音色から、歌わせるようにたっぷりと弾いている。一つのフレーズの中で、ヴァイオリンの強弱を変えて、メロディラインを本当に歌うように演奏している。
スカラ座との他のベートーヴェンの交響曲録音ではテンポが遅くて、やや音楽の流れが悪くなるところもあったが、この曲ではテンポはちょうど良く、様々なメロディが次々と美しく歌われ、本当に素晴らしい。個人的には、ジュリーニが残した録音の中でも最高の一枚であると思う。

晩年のジュリーニらしくテンポがゆったりと取られていて歌心ある演奏だが、単なるイタリアっぽい指揮者ではなく、第5番「運命」のように、かっちりとした構造を持たせた演奏に仕上げているところがジュリーニの特徴だろう。個性的なだけに、万人受けする演奏ではないかもしれないが、数あるベートーヴェンの交響曲の録音の中でも異彩を放っている。

オススメ度

評価 :3/5。

指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団
録音:1991年9月27-28日(第6番), 1991年9月27-30日(第7番),
 1991年12月8-11日(第1番、第2番), 1992年9月20-22日(第8番),
 1992年9月22日(エグモント序曲), 1992年11月15-17日(第3番),
 1992年11月17日(コリオラン序曲), 1993年10月17-20日(第4番、第5番), アバネラ劇場


iTunesで試聴可能。

特に無し。

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