このアルバムの3つのポイント
- ジュリーニのロスフィル音楽監督初年の演奏
- 一度はレパートリーから外れた「英雄」
- しっかりとした骨格と溢れる歌心
ジュリーニのロサンゼルス時代
イタリア出身の指揮者カルロ・マリア・ジュリーニは1978年から1984年までロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督を務めました。ドイツ・グラモフォンでのレコーディングも多くおこない、シューマンの交響曲「ライン」(FC2ブログ記事)やチャイコフスキーの「悲愴」(FC2ブログ記事)、ベートーヴェンの「運命」(FC2ブログ記事)、「田園」(FC2ブログ記事)、クリスチャン・ツィメルマンがピアノ独奏を務めたショパンのピアノ協奏曲全集、ブラームスの第1番と第2番、そしてドビュッシーの交響詩「海」(FC2ブログ記事)など、短い期間ながら比較的多くの曲を録音しました。
首席客演指揮者も務めた黄金期のシカゴ交響楽団との時代(特に1969〜1978年の録音)や、ロスフィル退任後のヨーロッパに活動拠点を移した1980年代中盤以降のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、バイエルン放送交響楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団などのヨーロッパの名門オーケストラとの演奏に比べると、このロスフィル時代はあまり注目されないのですが、若い団員が多かった当時のロスフィルたちと楽しみながら指揮していたと言われています。
この時代は、サイモン・ラトルもロスフィルを指揮して米国デビュー(1979年)を果たし、1981年からは主席客演指揮者も務めています(1994年まで)。ジュリーニの元でアシスタントを務めることもあり、ジュリーニの指揮やオーケストラとのコミュニケーションを見て学んだこともあったそうです。
一度はレパートリーから外れた「英雄」
今回紹介する「英雄」はジュリーニがロスフィルの音楽監督として初年度にあたる1978年11月の録音で、ジュリーニの名盤として何度も再プレスされている録音です。
ドイツ・グラモフォンからリリースされているThe OriginalsのCD番号447-444-2に入っている解説書によると、ジュリーニは1960年に初めてベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」をレパートリーに追加したそうです。ベートーヴェンの名曲中の名曲を46歳でレパートリーに追加するとはかなり慎重だったのでしょう。
しかし演奏の出来に満足がいかず、その後長い間演奏しなくなったそうで、17年ぶりの1977年11月に、シカゴ響と演奏するために再び学び直し、初演時のスコアなども調べたそうです。
翌年1978年11月のロスフィルとの演奏でも「英雄」を取り上げ、米国西海岸への演奏ツアーでも指揮しました。そしてレコーディングもされています。
しっかりとした骨格、溢れる歌心
ジュリーニはレコーディング時に小節毎にバラバラに演奏した録音をつなげる編集を嫌がり、本当のコンサートのように休みなく楽章を演奏し、それを録音するアプローチを好んだということですが、それだからこの「英雄」でも全体が調和しているような感じを受けます。
この演奏は一言で言うと、しっかりとした骨格で歌心に溢れていて、イタリア出身の指揮者でオペラも得意としていたジュリーニだけに作品から歌を引き出すのがものすごくうまいです。それだけではなく、かっちりとした構造を作っているのがジュリーニの特徴で、軟派な音楽ではなく重厚感と奥行きが引き出されています。
この「英雄」では第1楽章からゆったりとしたテンポで入るのですが、冒頭のフォルテの和音をガツンと演奏させています。特に144小節 (トラックの3分30秒あたり)の第1ヴァイオリンとチェロとコントラバスのフォルテから第2ヴァイオリンとヴィオラの2つの音符へバトンを渡すところが見事。省略されがちな提示部の繰り返し (トラックの3分46秒から)も忠実に守っています。
ジュリーニ自身の声と思われる歌声も入っています。「英雄」だけに壮大な演奏を期待する方には不向きですが、ベートーヴェンの旋律をここまで引き出したのはジュリーニならではでしょう。ティンパニーをはじめとするロスフィルの壮大なオーケストラの響きで引き出されています。
聴きどころの第2楽章
第2楽章がこの曲の最も聴きどころで、ジュリーニの指揮はゆったりとしたテンポでここでも旋律たっぷりに聴かせます。冒頭の弦楽五重奏による重たい足取りも印象的ですし、低音がしっかり鳴らされているのがこの演奏の特徴。第1副部のオーボエの音色が特によく引き出されていて、ジュリーニならではの歌心が溢れます。第2副部の悲劇的なフレーズではティンパニーがダンダンと叩かれ、弦が悲痛な叫びを聴かせていて、ゆったりとした流れの中でドラマティックに描いています。
後の1990年代のジュリーニ晩年のミラノスカラ座との「英雄」では、より慈愛に満ちた優しい響きになっていくのですが、このロスフィルとの旧録との違いが興味深いです。
第3楽章も4楽章も明るい音色でたっぷりとしたテンポでスケール大きく奏でられ、ロスフィルのサウンドがまるで弾むようにイキイキと演奏されていきます。特に第4楽章はレガートでゆったりとしていて、晩年のジュリーニを予兆させる演奏でもあります。
まとめ
ジュリーニがロスフィルの音楽監督初年度に演奏した、しっかりとした骨格を持たせて歌心を加えた「英雄」。この作品にこんなに旋律があるのかと驚かされます。
オススメ度
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
ロサンゼルス・フィルハーモニック
録音:1978年11月, シュライン・オーディトリアム
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【タワレコ】ベートーヴェン:交響曲第3番≪英雄≫(SHM-CD)試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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