このアルバムの3つのポイント
- 20代前半のツィメルマンが希望して実現したジュリーニとの協演
- ショパンが作曲したときと同じ年頃で、繊細で、詩情豊かなピアノ
- ジュリーニの歌心ある伴奏
ツィメルマンはこれまでに2回ショパンのピアノ協奏曲全集を録音
ポーランド出身のピアニスト、クリスチャン・ツィメルマン(クリスティアン・ツィマーマンとも)は1975年の第9回ショパン・コンクールで18歳の最年少で優勝を果たしました。
これまでにショパンのピアノ協奏曲第1番と第2番をドイツ・グラモフォンレーベルで2回録音しています。
回数 | 第1番 | 第2番 |
---|---|---|
1回目 | カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロスフィル 1978年 | カルロ・マリア・ジュリーニ指揮 ロスフィル 1979年 |
2回目 | ツィメルマン指揮&ピアノ ポーランド祝祭管 1999年 | ツィメルマン指揮&ピアノ ポーランド祝祭管 1999年 |
2回目は1999年に自身で創設したポーランド祝祭管を弾き振りしたもの(FC2ブログ)で、絶賛している音楽評論家やファンも多いですが、ツィメルマンが編曲してショパンの楽譜に無い楽器を追加したり、テンポも極端にゆっくりにして溜めを効かせてみたりと、唯一無二の個性的な演奏ではありますが、私としては音楽の流れがあまり良くなってしまったので、オススメはしづらいです。
その点、このジュリーニ&ロスフィルとのピアノ協奏曲は、ツィメルマンがショパンコンクールで優勝した数年後で21〜22歳の時期。
繊細で感受性が豊かな演奏で、この年頃にしかできない演奏に仕上がっています。ショパンがこの2つのピアノ協奏曲を完成させたのは彼が19〜20歳の頃。
ベテランの域に入ってからのほうがピアニストの音楽性は深くなるのでしょうが、やはりこの曲を演奏するのは20代ぐらいのフレッシュで多感な時期のほうが合うと私は思います。それもあって、今回紹介するツィメルマン/ジュリーニ&ロスフィルの録音は、ショパンのピアノ協奏曲全集として私が最もオススメする演奏です。
イタリア・オペラの指揮者との協演を希望して実現
1999年のポーランド祝祭管との録音のライナーノートに書いてあった内容ですが、ショパンがイタリア・オペラから影響を受けて作曲していたことを踏まえて、ツィメルマンが1978年にドイツ・グラモフォンレーベルでショパンのピアノ協奏曲を録音することになったとき、彼はオペラ指揮者との協演を希望したそうです。
それをドイツ・グラモフォンが配慮し、イタリア出身の指揮者でオペラも得意としていたカルロ・マリア・ジュリーニと協演することが実現したのでした。1999年のライナーノートでも、ツィメルマン自身はジュリーニとの録音を気に入っていると話していました。
第1番はロスのミュージックセンターでのライヴ
ピアニストの登竜門とでも言うべきショパンのピアノ協奏曲ですが、中でも第1番は特に名演が多く、どれから聴けば良いのか迷ってしまう方も多いと思います。
私がオススメする録音は、1998年のマルタ・アルゲリッチとシャルル・デュトワ指揮モントリオール響の演奏と、今回紹介するツィメルマンとジュリーニ指揮ロスフィルの演奏です。前者はインスピレーションに富む情熱的な演奏で、後者はショパンがこの作品を書いた年に近い年齢での演奏でもあり、若さ特有の繊細さや感情、そして美しさを兼ね備えています。
第1楽章は勇ましく始まる演奏が多いですが、ジュリーニが指揮したロスフィルは、弦が憂いを帯びた旋律で始まり、第1主題をまろやかなハーモニーで奏で、輪郭をはっきりと描かないのです。
また副主題でも、本当に「レガート」と表現したいほど歌うように甘く切ない旋律を紡いでいきます。第2主題では何かをためらうような感情を見せますが、そこにツィメルマンのピアノ独奏が毅然とした態度で、決断するかのように力強く打鍵していきます。
他の演奏家だとこの曲ではピアノが突っ走って目立ちすぎオーケストラが置き去りになるケースも多いのですが、このツィメルマンの演奏はオーケストラとのバランスも良いです。
そして真骨頂は第2楽章のロマンス。ジュリーニが指揮するロスフィルは温かく柔らかく、ヴェールのようなハーモニーを生み出し、そこにツィメルマンのロマン的なピアノが加わります。本当に1音1音が何か語っているかのように、詩情豊かです。
ハツラツとした第3楽章も、ジュリーニが指揮するオーケストラの丸みを帯びた音色に、ツィメルマンのきらびやかなピアノが加わります。小鳥がさえずる情景が思い浮かびます。
第2番はシュライン・オーディトリアムでのセッション録音
続く第2番は1979年の録音で、こちらはロサンゼルスのシュライン・オーディトリアムでのセッション録音。第1番より若干音質が良く、細部までクリアに聴こえます。
こちらもジュリーニが指揮するロスフィルはショパンの繊細さを損なわないようにしつつ、フォルテの聴かせどころでは雄大に演奏しています。第1主題と第2主題の後に、闇に包まれたと思ったら、ピアノ独奏がビビッドに入ります。
第1主題の自問自答を繰り返し、そしてきらびやかに、物思いに浸りながら、進んでいきます。ツィメルマンのピアノ演奏は非常に繊細で、詩情豊か。瑞々しさがありますし、何と言っても完成度が高いです。22歳でこんなに完成された演奏ができるなんて。
そしてこの曲も第2楽章のラルゲットが素晴らしいです。詩情があって、ピアノってこんなにも優しく美しいんだなと感じさせてくれます。
第3楽章は少し憂いを込めた表情でピアノ独奏が始まり、オーケストラの伴奏が勇気付けるように応え、ピアノは華麗に舞っていきます。ここはポーランドの伝統舞踊であるマズルカがベースになっているそうですが、ツィメルマンのマズルカは美しくて華麗で、踊るよりも聴くほうに専念したいぐらいです。ここもピアノがため息が出るほど美しいです。
まとめ
ショパンコンクールの優勝者クリスティアン・ツィメルマンが、ショパンのピアノ協奏曲を作曲された時とほぼ同年齢で演奏したもので、歌心と詩情、そして繊細さが感じられます。
2つのピアノ協奏曲をまだ聴いたことがない方には、まずはこのツィメルマンの1978/1979年盤をオススメしたいです。
オススメ度
ピアノ:クリスティアン・ツィメルマン
指揮:カルロ・マリア・ジュリーニ
ロサンゼルス・フィルハーモニック
録音:1978年11月, ロサンゼルス・ミュージックセンター(第1番, ライヴ),
1979年11月, シュライン・オーディトリアム(第2番)
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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