- 1976年4月のウィーン楽友協会での演奏
- ポリーニが希望したベームとの共演
- ベーム/ウィーンフィルの輝かしい魅力
ポリーニが希望したベームとの共演
1976年4月、ピアニストのマウリツィオ・ポリーニは指揮者カール・ベームとウィーンフィルと共演して、モーツァルトのピアノ協奏曲を2曲録音した。ベームとの共演を希望したのはポリーニのほうらしい。1992年、イタリア音楽雑誌「ムジカ」の編集長ウンベルト・マジーニによるインタビューでポリーニはこのように語っていた。
彼(カール・ベーム)にはモーツァルトの演奏者としてとても心酔していたので、イ長調とヘ長調の協奏曲をやってみたいと私からお願いしました。その後、ベートーヴェンの「第3番」「第4番」「第5番」、そして最後にブラームスの「第1番」を録音しました。
マウリツィオ・ポリーニ、ウンベルト・マジーニによるインタビュー, 1992年
(…中略…)
ベームは、今、もっと聴かれてよいのではないかと思います。彼の驚くべき厳粛さと彼のスタイルは、今日完全には理解されていないように思うのですけれど。
私も、モーツァルト・シューベルトはカール・ベーム指揮の演奏を聴くことが多いが、このピアノ協奏曲がそういう理由で実現したとは知らなかった。
1976年4月、ウィーン楽友協会の黄金ホールで
このピアノ協奏曲はCDとしてもリリースされているし、映像としてDVDにもなっている。私はCDとDVDの両方で聴いたが、やはりDVDで観たほうが情報量が多い。CDではピアノ協奏曲第23番、第19番の順に収録されているのだが、DVDだと第19番、第23番の順番になっている。
ウィーン楽友協会・大ホールでの演奏なのだが、一見コンサートのライヴ映像なのかと思いきや、壇上に登場するシーンも無くいきなり演奏が始まるし、ちらっと映る黄金ホールの2階の客席にも誰もいない。演奏後の拍手も無く映像が終わってしまう。そうか、これは無観客で撮影された映像なのかとようやく気が付く。ポリーニもベームもウィーンフィルの団員も皆コンサートに出る衣装を着ていたので本当にライヴなのかと思った。ただ、無観客だと思って改めて観てみると、演奏に集中できている感じが伝わってくる。
ふっと笑うベーム
ピアノ協奏曲第19番の冒頭で、指揮棒を振ってウィーンフィルから最初の音を引き出したとき、ベームはふっと笑って斜め後ろを見る。ピアノでスタンバイしているポリーニに「良いだろう、この音色」とでもアイコンタクトしたのだろうか。
カール・ベームの指揮は本当に軽い。全然力んでいなくて、これがモーツァルトのような作品を演奏するときにはマッチする。
音楽評論家の戸部 亮 氏はポリーニのムック本で以下のように書いている。
ベームがウィーン・フィルを指揮したベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」、「同第4番」、「同第5番《皇帝》」、さらにはモーツァルト「ピアノ協奏曲第19番」、「同第23番」は、ベーム晩年のゆったりとしたテンポで、今日の感覚からすると、停滞している。ただし、しばらくすると、ベルベットのように古風なウィーン・フィルならではの音楽が立ちのぼってくる。しかもベームならではの造形がある。
戸部 亮, マウリツィオ・ポリーニ ー「知・情・意」を備えた現代最高峰のピアニストのすべて
ただ、私自身はこのモーツァルトのピアノ協奏曲を観て、聴いて、停滞しているなんて全然思わない。むしろイキイキとしていて、作品の素の良さが表されているように思える。
ベーム/ウィーンフィルに寄り添うようなポリーニ
1970年代のポリーニと言えば大理石のような硬い音色が特徴だったが、この2つのモーツァルトのピアノ協奏曲では、少し違う。まるでベーム/ウィーンフィルの柔らかい響きに寄り添うかのように、いつもより柔らかいタッチでピアノを演奏している。と言っても、1980年代後半以降のまろやかさと比べるとまだ硬いのだが。
そしてヴィルトゥオーソとして既に名実ともに最高峰のピアニストにいたポリーニだが、映像を見ると驚くほど謙虚な印象だ。全然超絶技巧をひけらかすこともなく、時折、ベームやウィーンフィルの団員のほうに目を配り、彼らのスタイルに合わせて行こうとする姿勢が伺える。
まとめ
ベームとウィーンフィルの輝かしいモーツァルトに、ポリーニのピアノが寄り添う贅沢な演奏。
オススメ度
ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ
指揮:カール・ベーム
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1976年4月, ウィーン楽友協会・大ホール
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受賞
特に無し。
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