※2023/01/26 更新、2020/10/13 初稿
このアルバムの3つのポイント
- カール・ベームの名盤の一つ
- みなぎる重厚感と推進力
- 個々の楽器の音がクリアに聴こえる、ステレオ初期の良好な音質
カール・ベームと言えば
オーストリア出身の指揮者、カール・ベームは20世紀を代表する指揮者の一人。1894年生まれのベームが70〜80代の1970年代以降の録音を聴いていると、
「教科書どおり」
「ゆっくり」
「素朴」
といった印象を持つようになります。
確かに晩年のベームのテンポはゆっくりとして、楽譜に忠実な演奏で、素朴なモーツァルトやシューベルトの作品を得意としていたのは事実でしょう。
そんなベームのイメージが、1950〜60年代のライヴ録音、たとえばバイロイト音楽祭1963の第九や、バイロイト音楽祭1963の『トリスタンとイゾルデ』を聴くと一変します。晩年の端正な音楽づくりと違う、生の演奏で感情もほとばしっています。
今回紹介する1959年のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのブラームスの交響曲第1番もそうしたベーム壮年期の名盤として聴き継がれている演奏です。
重厚感と推進力
ベルリンのイエス・キリスト教会は、ベルリン・フィルハーモニーができるまでベルリンフィルが多くの録音をおこなってきましたが、1959年10月に録音されたこのベームとのブラームスの交響曲第1番はその中でも格別なものでしょう。
1975年のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とのセッション録音でブラームスの第1番を聴いたときにはウィーンの美音をもって一定のテンポで進む厳格な演奏でしたが、その後でこれを聴くと「これがベーム!?」と驚いてしまうほど。後年のベームと明らかに違うのはキビキビとしたテンポと、ぐいぐいと勢いある推進力。第1楽章の序奏から重厚感ある響きを引き出し、ブラームスが楽譜に込めた内声をよく引き出しています。
オーケストラもベルリンフィルということもあり、個々の楽器のレベルがものすごく高いです。弦も木管も金管も打楽器も、全てが絶妙なバランスで溶け合うよう。この第1楽章を聴いていると「怒涛の渦」と表現したいほど、エクスタシーに浸ることができます。
1961年に同じくベーム&ベルリンフィルの演奏でベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を録音していますが、そちらも推進力のある演奏でした。
慈愛に満ちた美しさ
一方で、第2楽章になると「あぁ、ベームだ」という印象。このゆったりとしたテンポで牧歌的で美しい音楽を、ベームは慈愛に満ちたオブラートのように表現しています。ヴィルトゥオーソ揃いのベルリンフィルが、ここでは官能的な美しさを生み出しています。
優しい雰囲気の第3楽章は意外にも速めのテンポですが、クラリネットの旋律が心地よく流れ、メリハリのついた演奏。
圧巻の第4楽章
そして迎える第4楽章は圧巻と言える出来栄えでベルリンフィルの集大成を聴いている気分です。ぐいぐいと進む勢いと、それに応えるオーケストラの名技のコンビネーションが見事。それでいて休符の長さをしっかり守っているのが、いかにもベームらしいです。
1959年の録音なのに音質がGOOD!
このディスクで驚くのは、今から60年以上前の1959年というステレオ初期のレコーディングなのに、音質がものすごく良いところ。私は2006年に再発売された「20世紀の巨匠シリーズ」のCDでこの演奏を聴いているのですが、それでも全然古い演奏を聴いているという感じはせず、音がこもることもなくクリアに聴こえます。さらに2018年に再発売されたディスクでは音質が良いSACD(SHM仕様)になっているので、もっと良い録音になっているようです。
百田尚樹さんも一押しの一曲
なお、この録音は作家、百田尚樹氏のクラシック音楽本『至高の音楽』でもブラームスの交響曲第1番のオススメ録音として紹介されているものです。フルトヴェングラーとトスカニーニの録音を紹介した後、
ステレオではカール・ベーム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏がいい。今風のスマートなものではなく、むしろ無骨とも言える演奏だが、感動は深い。
百田尚樹、『至高の音楽〜クラシック 永遠の名曲〜』第17曲ブラームス「第一交響曲」
とベーム/ベルリンフィル盤を紹介しています。
参考: 作家・百田尚樹さんのクラシック紹介本(FC2ブログ記事)
まとめ
半世紀以上前の録音だが、現在でも不変の価値を持つ名演。このCDを初めて聴いたときの感動は未だに忘れられなくて、数あるカール・ベームの録音の中でもベスト盤と言えるレコーディングです。
オススメ度
指揮:カール・ベーム
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1959年10月, ベルリン・イエス・キリスト教会
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試聴
iTunesで試聴可能。
受賞
特に無し。
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