このアルバムの3つのポイント

ヴァーグナー楽劇『トリスタンとイゾルデ』 カール・ベーム/バイロイト祝祭管弦楽団(1966年)
ヴァーグナー楽劇『トリスタンとイゾルデ』 カール・ベーム/バイロイト祝祭管弦楽団(1966年)
  • カール・ベームの伝説的な1966年夏のバイロイト音楽祭でのライヴ録音
  • ビルギット・ニルソンやヴォルフガング・ヴィントガッセンの熱演
  • 日本のレコード・アカデミー賞の大賞や各国の音楽賞を受賞

最近は交響曲などの管弦楽曲ばかり聴いていたのですが、オーケストラの響きだけだと寂しさを感じるようになってきました。人の「声」が聴きたくなってきて、まずはオペラのBlu-rayを何枚か映像で観ていたのですが、今度は「歌は素晴らしいんだけど演技がなぁ…」とか、「演出が奇抜すぎてちょっと抵抗が…」とかしっくり来るものがなくて再びCDへ。

以前の記事で紹介した百田尚樹氏のクラシック音楽紹介本「至高の音楽」の第10曲「ヴァーグナー 『ヴァルキューレ』」にこんな文章があります。

ところでオペラはDVDで見る方が圧倒的にわかりやすいが、市販されている「ヴァルキューレ」のDVDはどれも不満があり、お薦めしにくい。むしろ映像のないCDを聴いて、自由な想像力を働かせてもらいたいと思う。

百田尚樹, 「至高の音楽」

これはヴァーグナーに限らず、他の作曲家のオペラでもある話ですが、私もDVDかBlu-rayで映像で登場人物やストーリーを観てから、他の演奏家のCDを耳で聴くようにしています。逆に耳でしか聴いていなくて映像を観ていないとストーリーが全く入ってきません。

そんなことで、映像で2回観ていてストーリーも充分把握している『トリスタンとイゾルデ』で、CDで聴いてみようと思ったら、CDラックの中に良いのがありました。カール・ベームのバイロイト音楽祭でのライヴ録音です。

以前の記事で1963年7月のバイロイト音楽祭での第九のライヴ録音について紹介しましたが、私はベームの第九の録音の中で一番衝撃を受けました。スタジオ録音と違ってバイロイト音楽祭だとベームはこんなに劇的な演奏をおこなうのか、と。バイロイトには何か魔物でもいるのだろうか、と。

そして再び聴いてみたのが、1966年の7月から8月にかけてバイロイト音楽祭でライヴ録音された『トリスタンとイゾルデ』。モーツァルトやシューベルト、ブルックナーなど良い意味で「素朴な」音楽を得意としたベームが、ヴァーグナーなんて劇薬の作品を指揮するの?と最初に思いましたが、聴いてみるとこれがすごい。

1曲目の第1幕への前奏曲から引き込まれます。スッキリとした響きで始まったと思ったら、徐々に熱を帯びてきて媚薬のような有名な旋律ではグイッと一気に力を入れてきます。一つの旋律の中にポリフォニーのように複雑な心情が絡み合っていくようで、聴き慣れた有名な曲ですが改めてベーム盤を聴くと新たな発見がありました。

中でもすごいと思ったのはトリスタン役のソプラノのビルギット・ニルソン。透き通った美声も充分魅力的なのですが、トリスタンに見事にハマっています。最後の「イゾルデの愛の死」の圧倒感は言葉で言い表せないほどですね。ベームとバイロイト祝祭管が激しい熱演でサポートしているのですが、オーケストラが完全に伴奏に聞こえてしまうほどのニルソンの存在感に脱帽しました。聴く側も思わず息を止めてしまうほどなので、最後の音が消えるとホッとします。

私は1997年9月にリリースされた輸入盤のCD3枚組(#449 772-2)を持っていますが、CD2のトラック8のSo starben wir, um ungetrennt (第2幕第2場の最後)のようにトリスタンが熱唱するところでは音質がこもっていました。音響があまり良くないと評判のバイロイト祝祭劇場ですし、アナログ録音なのでしょうがないかなと思っていますが、最近では2019年7月にリリースされたレコーディング(#4837394)があって、そちらは24bit/96kHzでリマスタリングされた3CDとBlu-ray Audioも含まれているそうです。さらに高音質が期待できそうですね。

カール・ベームがバイロイトで指揮した伝統的なトリスタンのライヴ録音。各国の音楽賞を受賞したのも納得する大満足の出来栄えです。

オススメ度

評価 :5/5。

トリスタン役:ヴォルフガング・ヴィントガッセン(テノール)
イゾルデ役:ビルギット・ニルソン(ソプラノ)
ブランゲーネ役:クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ)
マルケ王役:マルッティ・タルヴェラ(バス)
クルヴェナール役:エーベルハルト・ウェヒター(バリトン)
指揮:カール・ベーム
バイロイト祝祭管弦楽団
録音:1966年7ー8月, バイロイト祝祭劇場(ライヴ)

iTunesで試聴可能。

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