レコードアカデミー賞受賞! 作品に付かず離れず、香るウィーンフィルの響き ブラームス交響曲全集 ベーム(1975年)

ブラームス交響曲全集 カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1975年)

このアルバムの3つのポイント

ブラームス交響曲全集 カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1975年)
ブラームス交響曲全集 カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1975年)
  • ベームがウィーンと1975年に一気に録音した交響曲全集
  • 作品から一定の距離を保ちつつ、香るウィーンフィルの美音
  • レコードアカデミー賞受賞

カール・ベームとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は1975年3月に来日公演を実施し、爆発的なベーム・フィーバーとなりました。その時のコンサートはいくつかNHKが録音してドイツ・グラモフォン・レーベルからリリースされていますが、3月17日のストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」とブラームスの交響曲第1番を演奏したコンサートもCD化されていまして、こちらの記事で紹介しました。ライヴさながらのものすごい熱気のある交響曲第1番で、ベームらしからぬ印象を受けました。

同じ年の5月と6月に掛けてベームとウィーンフィルはブラームスの交響曲全集を録音しています。これは日本ではレコードアカデミー賞「交響曲部門」を受賞しているほど音楽評論家からの評価は高いですが、来日公演のライヴ音源を聴いてからだと、少し淡白に聴こえます。それでは順に紹介していきましょう。

カール・ベームのブラームスの交響曲第1番と言えば1959年のベルリンフィルとの重厚感と推進力ある名演があり、この記事でも紹介したとおり、私の中ではブラームスのこの交響曲で一番良い演奏だと思っています。

このウィーンフィルとの再録音ではどうでしょうか。第1楽章からウィーンフィルらしい美しく柔らかい音色で進みます。テンポは標準的で、一定のリズムのまま。途中で熱くなったり、テンポをあおったりすることなく、厳格なベームらしく、正確で形の整った演奏です。

第2楽章は穏やかな曲想で、ウィーンフィルの弦楽と木管の柔らかい音色が静かに、美しいです。

第3楽章も木管の柔らかい音色で始まるのでが、ウィーンフィルの豊かな響きがよく活きています。1970年代のベームとウィーンフィルと言えば、1971年にベートーヴェンの田園交響曲1973年にブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」、そして1979年にシューベルトの交響曲第5番(FC2ブログ記事)の録音を行っていて、ウィーンフィルの持つ美音と豊かな響きを最大限に引き出して素朴な温かい演奏を行っていましたが、それと同じようにこの楽章でも柔らかいウィーンフィルらしさが出ています。

第4楽章もヴィオラ、チェロの中間音域の弦の音色がよく引き出されています。テンポは一定で、その場のノリで一気に駆け足で行くことはなく、丁寧に一音一音を積み重ねて音楽を作っている印象を受けます。

ベートーヴェンの交響曲全集でも偶数番号のものが特に素晴らしかったベームとウィーンフィルによるこのブラームスの交響曲第2番は牧歌的なこともあり、この交響曲全集でも白眉の出来です。弦楽器や木管が心地良い音色を響かせ、ウィーンフィルの魅力を存分に発揮しています。第4楽章のフィナーレでも、決してテンポをあおることなく、あくまでも基本テンポを守っています。

優雅な交響曲第3番では、ベームとウィーンフィルはややゆったりとしたテンポで毅然とした演奏を聴かせています。ベームのタクトの下、一定のリズムで曲は進行し、上品な音色で演奏されていきます。

第2楽章のアンダンテはかなり遅めです。木管と弦の音色が柔らかく、よく聴こえ、ウィーンフィルらしい美音です。低音部の楽器がしっかりと下支えをして、全ての楽器の音色が融合されています。美しいウィーンの響きでブラームスの旋律を引き出していくのですが、それにしてもすごくゆっくりです。休日にまったりと聴くには良いのかもしれないですが、仕事や勉強をしながらこの第2楽章を聴いていると、手を動かしたり頭を働かせたりするのが億劫になってきますね。

第3楽章は別格の素晴らしさ。ベートーヴェンの交響曲全集でも第6番「田園」やシューベルトの交響曲第5番などで牧歌的な作品で名演を行ったベームとウィーンフィルですが、このブラームスの交響曲の第3番の第3楽章はまさにウィーンフィルの特長が活きた素晴らしい演奏です。チェロの哀愁のある美しさに、ヴァイオリンの官能的さが加わり、オーボエ、フルート、クラリネットの癒しの音色が重なる。主題が繰り返されるところでは、ホルンの温かい音色が何とも味わい深い。ここはウィーンフィルだからこそ実現できた素晴らしい演奏でしょう。

そして第4楽章。本来なら全てを吹き飛ばす勢いのある楽章なのだが、音質のせいか、どこか曇って聞こえます。また、ベームの指揮もどこか客観的というか、情熱からは距離を置いて淡々と指揮しているフシがあります。あくまでも一定のテンポを刻み、感情に任せることはないベームは堂々と、そしてシンフォニックにこの曲を盛り上げていきます。

この交響曲では名演が多くあるが、切実だったり情熱的だったりするのが多い中、ベームは弦楽器や木管が心地良い音色を響かせ、ウィーンフィルの魅力を存分に発揮しています。第1楽章でもイン・テンポで豊かな響きで聴かせますし、第2楽章では第1楽章のクライマックスでの熱を冷ますかのように、淡々と冷静に進められていくのですが、主題に入ると明るい美しさで彩りを与えます。ゆったりとしたテンポでじっくりと香り豊かな響きを引き出しています。

第3楽章は楽譜から足しも引きもしていない感じと言いましょうか。情熱がほとばしっているわけではなく、どこか中庸的な演奏をしている感じです。

第4楽章のフィナーレでも決してテンポをあおることなく、あくまでも基本テンポを守った演奏です。ここはPassionatoの指示も付いているので、もっとパッションを出しても良かったのかと思うのですが、この淡々さがベームの70年代以降の晩年のスタイルです。

この全集には交響曲の他に、アルト・ラプソディ(1976年6月録音)と、ハイドンの主題による変奏曲、悲劇的序曲(ともに1977年2月の録音)が収録されています。特に印象的なのは「ハイドン」変奏曲。ウィーンフィルから柔らかい音色を引き出し、ベームは普遍的な演奏をおこなっています。

主役は作品であるというベームの音楽に対する哲学が窺えます。淡々としているフシもあるのですが、情熱からは距離を置き、ウィーンフィルの美音をじっくりと引き出した演奏でしょう。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:カール・ベーム
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
メゾ・ソプラノ:クリスタ・ルートヴィヒ(アルト・ラプソディ)
ウィーン楽友協会合唱団(アルト・ラプソディ)
録音:1975年5月(交響曲第1番、第2番、第4番), 1975年6月(交響曲第3番), 1976年6月(アルト・ラプソディ), 1977年2月(変奏曲、序曲),ウィーン楽友協会・大ホール

【タワレコ】ブラームス:交響曲全集 [SACD[SHM仕様]]<限定盤>

iTunesで試聴可能。

日本の1976年度レコードアカデミー賞「交響曲部門」を受賞。

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