このアルバムの3つのポイント
- 1975年ベーム/ウィーンフィルの来日公演2日目
- ベームにしては珍しい「火の鳥」、得意のブラームスの交響曲第1番
- アンコールに「美しく青きドナウ」も
新年と言えばウィンナ・ワルツだが…
2021年、元旦。クラシック音楽にとって新年と言えば、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートでヨハン・シュトラウス2世などのウィンナ・ワルツだけの演奏会をテレビ放送で観る、というのが世界の様々な国での恒例行事となっています。今年はリッカルド・ムーティが無観客のムジークフェラインザールで指揮を行ったコンサートで、日本でもNHKのEテレが生放送した。私も生では観られなかったので、録画したのですがまだ観れていません。
ウィンナ・ワルツは数曲ぐらいなら良いなと思うのだが、ずっと聴いているとしんどくなってきます。そうすると2時間弱の演奏会の録画を数日に分けて観ないといけないので、時間も掛かるし、ウィンナ・ワルツを聴こうというムードにするのも意外に手間だったりします。
せめてニューイヤー・コンサートの恒例のアンコール曲「美しく青きドナウ」だけでも何か聴いておこうと思って、CDの山から見付けたのが、カール・ベームとウィーンフィルの1975年の来日公演のCD。
カール・ベームとウィーンフィルの1975年来日公演
2021年はベーム没後40周年ということで、タワーレコードから早速1月20日にCD限定盤が再発売されるようです。その中にJ.シュトラウスファミリーの作品を1972年にセッション録音したものも含まれていますが、ドイツ=オーストリア音楽を代表する指揮者のベームはウィンナ・ワルツをそれほど録音していないので貴重です。
モーツァルトやベートーヴェンなどを指揮すると楽譜の休符の長さにまで細かい厳格なベームが、ウィンナ・ワルツを指揮するなんて意外な感じがしますが、実は1975年の来日公演でアンコールで「美しく青きドナウ」を演奏しているのです。
1975年のウィーンフィル来日公演は合計16公演で、NHKホールでの7公演をカール・ベームが、それ以外の9公演をまだ若きリッカルド・ムーティが指揮しています。ムーティと言えば昨日のニューイヤーコンサートで6回目の登場となった大巨匠ですが、45年前はまだ若手の部類でした。ベームとウィーンフィルのNHKホールでの公演は4つのプログラムで行われ、NHKがテレビやラジオで放送した。
ベームが指揮した7公演は4つのプログラムでおこなわれ、ヨハン・シュトラウスの作品を取り上げたプログラムだけが1回だけ、それ以外の3プログラムが2回演奏されています。
分かっている限りのプログラムでは以下の曲目でした。青字は同じプログラムだったという情報から私のほうで推測したものです。また、プログラムの順番までは分かりませんでした。
1975年3月16日:
- 君が代
- オーストリア国歌
- ベートーヴェン:交響曲第4番
- J.シュトラウスII:美しく青きドナウ(アンコール)
1975年3月17日:
- ベートーヴェン:『レオノーレ』序曲第3番
- ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』(1919年版)
- ブラームス:交響曲第1番
- J.シュトラウスII:美しく青きドナウ (アンコール)
1975年3月19日:
- シューベルト:交響曲第7番『未完成』
- シューベルト:交響曲第8番『ザ・グレート』
- ヴァーグナー:楽劇『マイスタージンガー』第1幕への前奏曲(アンコール)
1975年3月22日:
- ベートーヴェン:『レオノーレ』序曲第3番
- ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』(1919年版)
- ブラームス:交響曲第1番
- ヴァーグナー:楽劇『マイスタージンガー』第1幕への前奏曲(アンコール)
1975年3月25日:
- J.シュトラウスII:『南国のばら』
- J.シュトラウスII:アンネン・ポルカ
- J.シュトラウスII:皇帝円舞曲
- J.シュトラウスII:常動曲
- J.シュトラウス&ヨーゼフ・シュトラウス:ピツィカート・ポルカ
- J.シュトラウスII:喜歌劇『こうもり』序曲
- ヴァーグナー:楽劇『マイスタージンガー』第1幕への前奏曲(アンコール)
3月19日の演奏会での『ザ・グレート』と『マイスタージンガー』前奏曲のアルバムのレビューはこちらの記事に書いています。
このときのNHKホールでのベームの人気に火が点き、日本の聴衆からの熱い反応に応える形で、再度来日することを即断し、2年後の1977年にベームの来日公演が実現されることとなったそうです。
珍しい「火の鳥」
今回紹介するのは、1975年3月17日のNHKホールでのベーム/ウィーンフィルのライヴ録音。ストラヴィンスキーの「火の鳥」(1919年版)、ブラームス交響曲第1番、そしてアンコールに演奏されたヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」が収録されています。
ベームにとってストラヴィンスキーはかなり意外な感じがするが、ベームらしい実直さとウィーンフィルの美音で演奏されていきます。
ロシアらしいきらびやかさや壮大さとは違うのかもしれませんが、贅肉を削ぎ落とした演奏で作品の骨格が浮き上がってきます。正直、序奏はボソボソして聴衆の咳払いのほうが音量が大きいぐらいですが、「火の鳥とその踊り」で一気にウィーンフィルの美しい音色で華やかになります。終曲ではウィーンフィルの持つ最大限の音量でグワっと演奏されるのですが、終了後に聴衆からのブラボーの声と大きな拍手。
得意のブラームス交響曲第1番
続くブラームスの交響曲第1番はベーム/ウィーンフィルの得意の作品ですし、この数ヶ月後に交響曲全集の録音もおこなっていますので、そちらとアプローチはあまり変わらないのかと思いきや、淡々としていた印象の全集での第1番が、この来日公演では熱さがみなぎっているし、ティンパニーも轟いています。
全集の録音よりもこのライヴ録音のほうが断然良いでしょう。NHKホールに集まった日本の聴衆のために、最高の演奏をしようというベームとウィーンフィルの気迫が感じられます。演奏終了後にはまだ音が鳴り止んでいないのに若干フライング気味で割れんばかりの拍手と「オー」という絶賛。
アンコールに「美しく青きドナウ」
アンコールで演奏されたのは、「美しく青きドナウ」。細かいトレモロがさざなみのように水面を作り、そこにハープや金管の華やかな音が加わります。ベームが作るワルツは「踊る」ワルツではなくて「聴く」ワルツなのかもしれないが、どっしりとした骨格を持たせて多彩な音で肉付けをしています。ベームのウィンナ・ワルツ、なかなか良いですね。
まとめ
日本の聴衆が絶賛した1975年のベームとウィーンフィルの来日公演から、意外な「火の鳥」と熱気あるブラームスの交響曲第1番、そしてどっしりとした「美しく青きドナウ」。ベームをまた聴きたくなる音楽ばかりでした。
オススメ度
指揮:カール・ベーム
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1975年3月17日, NHKホール(ライヴ)
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試聴
上記タワーレコードのSHM-CDのリンクで試聴可能。
受賞
特に無し。
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