このアルバムの3つのポイント

カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団来日公演 (1975年3月19日)
カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団来日公演 (1975年3月19日)
  • 日本中を熱狂させたベームとウィーンフィルの1975年来日公演
  • シューベルトの「ザ・グレート」とヴァーグナーの「マイスタージンガー」前奏曲
  • 柔らかいウィーンの響き

以前の記事で1975年3月17日のNHKホールでのストラヴィンスキーの『火の鳥』、ブラームスの交響曲第1番、J.シュトラウスの『美しき青きドナウ』のアルバムを紹介しました。

1975年の3月から4月にかけて全国16公演がおこなわれたウィーンフィルの演奏会。NHKの放送開始50周年の記念事業としておこなわれ、カール・ベームNHKホールでの7公演を、まだ若かりしリッカルド・ムーティが9公演を指揮しました。

ベームが指揮した7公演は4つのプログラムでおこなわれ、ヨハン・シュトラウスの作品を取り上げたプログラムだけが1回だけ、それ以外の3プログラムが2回演奏されています。

分かっている限りのプログラムでは以下の曲目でした。青字は同じプログラムだったという情報から私のほうで推測したものです。また、プログラムの順番までは分かりませんでした。

1975年3月16日:

  • 君が代
  • オーストリア国歌
  • ベートーヴェン:交響曲第4番
  • J.シュトラウスII:美しく青きドナウ(アンコール)

1975年3月17日:

  • ベートーヴェン:『レオノーレ』序曲第3番
  • ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』(1919年版)
  • ブラームス:交響曲第1番
  • J.シュトラウスII:美しく青きドナウ (アンコール)

1975年3月19日:

  • シューベルト:交響曲第7番『未完成』
  • シューベルト:交響曲第8番『ザ・グレート』
  • ヴァーグナー:楽劇『マイスタージンガー』第1幕への前奏曲(アンコール)

1975年3月22日:

  • ベートーヴェン:『レオノーレ』序曲第3番
  • ストラヴィンスキー:バレエ組曲『火の鳥』(1919年版)
  • ブラームス:交響曲第1番
  • ヴァーグナー:楽劇『マイスタージンガー』第1幕への前奏曲(アンコール)

1975年3月25日:

  • J.シュトラウスII:『南国のばら』
  • J.シュトラウスII:アンネン・ポルカ
  • J.シュトラウスII:皇帝円舞曲
  • J.シュトラウスII:常動曲
  • J.シュトラウス&ヨーゼフ・シュトラウス:ピツィカート・ポルカ
  • J.シュトラウスII:喜歌劇『こうもり』序曲
  • ヴァーグナー:楽劇『マイスタージンガー』第1幕への前奏曲(アンコール)

NHKがテレビ・ラジオで放送をおこないましたが、2013年2月に、その音源から5つのSHM-CDがリリースされています。廃盤になっているものもありますが、まだ在庫があるものもあるので、ベーム没後40周年の今年2021年に聴いてみるのも良いと思います。

今回紹介するのは、3月19日の演奏会から、シューベルトの交響曲第8番『ザ・グレート』と、アンコールに演奏されたヴァーグナーの『マイスタージンガー』の前奏曲のアルバムです。

ベームは1963年から1971年にベルリンフィルとシューベルトの交響曲全集を完成させた後、何曲かウィーンフィルと再録音していますが、『ザ・グレート』については1979年1月にシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立管弦楽団)との録音があります。オーケストラがウィーンフィルではないので、硬さがある演奏でした。

ベームはスタジオ録音だと教科書のような模範的演奏になってしまいますが、ライヴ録音を聴くと実演だと遊びを持たせている傾向があります。この『グレート』のライヴ録音も第1楽章から伸びがあって、ロベルト・シューマンが「天国的な長さ」と評したシューベルトの特徴が顕れています。第1楽章の終わりではたっぷりと間合いを開け、ゆっくりと幕を下ろします。ライヴならではのアドリブ感がありますね。ハキハキとした第2楽章もスタジオ録音よりも全然活き活きとしていますし、第3楽章でもユーモアがあります。そして第4楽章は怒涛のように押し寄せて、ものすごい迫力。もちろん、ウィーンフィルならではの柔らかい響きも健在です。

この「グレート」はベームが何回か録音した中でも一番良いと思う演奏です。

アンコールで演奏されたヴァーグナーの『マイスタージンガー』の第1幕への前奏曲。アンコールなので、メインプログラムよりも粗さが目立ちます。混沌とした響きでまだ夢の中のようなぼんやりとした世界。

ウィーンフィルの美しいヴァイオリンの響きや柔らかい木管・金管の良さが活きていますが、『ザ・グレート』を聴いた後だと、何だか草書体のように雑な演奏のように聴こえてしまいます。

日本中を熱狂させたベームとウィーンフィルの来日公演。シューベルトの『ザ・グレート』は実演ならではの遊びもあって、スタジオ録音よりも秀逸な演奏。繰り返し聴きたい演奏です。アンコールで演奏された『マイスタージンガー』の前奏曲はちょっと雑かなぁという感想。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:カール・ベーム
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1975年3月19日, NHKホール(ライヴ)

上記のタワーレコードの商品ページから試聴可能。

特に無し。

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