このアルバムの3つのポイント

ブルックナー交響曲第9番 カール・シューリヒト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1961年)
ブルックナー交響曲第9番 カール・シューリヒト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1961年)
  • ブルックナーを得意としたシューリヒトによる第9番
  • ウィーンフィルから尊敬された名誉指揮者
  • 削ぎ落とされた枯淡の味わい

一昨日の記事サー・ジョン・バルビローリのマーラーの交響曲を紹介しましたが、6年ぶりに行ったレコードショップの店舗で、バルビローリとともに出会ったのがカール・シューリヒトのCD。

自分だけで探すことに限界を感じたので、アントン・ブルックナーでまだ聴いていない名演奏は無いかなと店舗を探してみたら、ブルックナーのCDの陳列棚で最初に展示されていたのがギュンター・ヴァントの最後の録音(交響曲第4番)、そして次にあったのがシューリヒトが指揮した交響曲第9番のCD。ヴァントは種類がいくつかあるのでオンラインの豊富なデータベースから探そうと思って今回は見送りにして、シューリヒトのCDを2枚(交響曲第9番と第8番)だけにしました。

オススメという意味の「タワレコチョイス」のシールが付いています。

シューリヒトはまだ聴いたことが無いなと思って調べてみると、1880年に当時ドイツ帝国だったダンツィヒ生まれで、特にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との親交が深かった指揮者だそうです。1960年に名誉指揮者にも任命されています。ブルックナーを得意としていて、第9番のCDには「枯淡の境地」とのキャッチワードが書かれていました。

ブルックナーの演奏近頃ますます充実してきています。再来年の2024年がブルックナーの生誕200周年のアニバーサリーということもあり、交響曲全集もドイツ・グラモフォンがアンドリス・ネルソンスライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(紹介記事はこちら)、ソニークラシカルがクリスティアン・ティーレマン&ウィーンフィル(紹介記事)との企画が進行中です。それ以外にも世界各国の様々なオーケストラでブルックナーが演奏されています。

私は最近のブルックナーの演奏は良い意味で「飽食」のように感じています。贅沢なサウンドで美しくきらびやかな演奏が多くなってきたためです。一方で、ブルックナーは質実剛健の響きで演奏しても真価が発揮される不思議な作曲家でもあります。以前、同じ春に咲く白い花で例えて前者の流麗な演奏を「ハクモクレン」、後者の質実剛健を「コブシ」で表したことがあるのですが、最近の演奏はハクモクレン寄りが多いかなという印象です。

コブシと表現したいのが、ブルックナーの大家として知られるドイツの指揮者オイゲン・ヨッフム。2回交響曲全集を完成させていますが、特に1回目のブルックナーの交響曲全集では余分な贅沢を削ぎ落としたかのような演奏に感じました。私はこうした武骨な演奏もブルックナーらしさを感じて好きです。

ハクモクレンだとウィーンフィルが1988年にカルロ・マリア・ジュリーニと録音した交響曲第9番。ゆったりとしたテンポで豊かな響きで描きつつもしっかりとした構築美を持つ演奏で、私はこれも大好きなのですが、それと比べると同じオーケストラでも全く違う演奏に聴こえるのがこのシューリヒト盤。

1961年の11月の録音ということで、ウィーンフィルの名誉指揮者に就任した翌年になりますが、ブルックナーとはこうあるべきだという意志を感じます。ハーモニーは決して過剰にせずに贅肉がなく引き締まっています。

CDの帯では「枯淡の境地」と表現されていましたが、確かに枯れているようにも思うかもしれません。ただあっさりしていると言うとそうではなく、むしろ心に突き刺さるようです。演奏はオーソドックスなのですが、同じ曲がいつも以上に訴えてきます。ブルックナーの音楽から余分なものを削ぎ落としてありのままを表現しているようです。

1961年の録音ですが2011年のリマスター盤では音質がかなり良く、隅々までクリアに聴こえます。

ただオーケストラがウィーンフィルということで、引き締まった演奏の中に気品や美しさも表れています。緊張感のある第2楽章から、除々に霧が晴れていく第3楽章の冒頭は何とも言えないですね。

新時代の名曲名盤500+100では第2位

2023年2月に発行された音楽之友社の「レコード芸術」編 新時代の名曲名盤500+100ではブルックナーの交響曲第9番の順位で第2位を獲得。レコ芸の評論家8名の合計点で決まるこの順位は、1人が第1推薦(3点)が1人が第2推薦(2点)で合計5点を獲得して2位でした。ちなみに1位はアーノンクール指揮ウィーンフィル(2002年)で9点。と言っても、アーノンクール盤も5人が0点、シューリヒト盤も6人が0点なので、参考になるかは分かりませんが…

ウィーンフィルに愛され、ブルックナーを得意としたカール・シューリヒトによる第9番。質実剛健な演奏ですが、心に刺さります。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:カール・シューリヒト
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1961年11月20-22日, ウィーン楽友協会・大ホール

iTunesで試聴可能。

特に無し。

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コメント数:1

  1. 名前も知りませんでしたが、偉大な指揮者だったのですね。1961年ということは、カール・シューリヒトが81歳の時の録音ですか、「枯淡の境地」というのもわかるような気がします。すごくすんなりとブルックナーが心に入ってきました。聴き終わった後で「あれ、もう終わったの?」と思い、演奏時間を見たら、第三楽章が 20:15 になっていて、他のいろんな演奏より6分程度短いことに気が付きました。

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