このアルバムの3つのポイント

R.シュトラウス アルプス交響曲 ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1985年)
R.シュトラウス アルプス交響曲 ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(1985年)
  • ハイティンクの珍しいR.シュトラウス
  • 誠実でバランスの取れた響き
  • いぶし銀のコンセルトヘボウ・サウンド

オランダ出身の名指揮者ベルナルト・ハイティンク(1929-2021年)。亡くなられた際にこちらの記事に書きましたが、世界のオーケストラから愛された指揮者でした。

幅広いレパートリーを持っていたハイティンクで、特にアントン・ブルックナーグスタフ・マーラーの作品で膨大な数の演奏とレコーディングをおこなってきましたが、意外にも同じ後期ロマン派のリヒャルト・シュトラウス(シュトラウスにはワルツ王のヨーゼフ・シュトラウス家などもいるので、区別するため以後R.シュトラウスと記します)の作品はあまり録音していません。管弦楽曲や『ダフネ』などの歌劇の録音もありますが、一度録音しただけのものもあり、再録音を何度もおこなったブルックナーやマーラーと比べると温度差があります。

今回紹介するのは、ハイティンクによる珍しいR.シュトラウスの録音。1981年12月の『死と変容』Op.24と、1985年1月の『アルプス交響曲』Op.64です。

タワーレコードが復刻

ハイティンクの録音は膨大な数がありますが、CDが廃盤になってそのままになっているアルバムも数多くあり、定評があるのになかなか入手しづらいという状態が続いていました。特に80年代や90年代のものが埋もれてしまっていました。

2000年代以降、タワーレコードはそうしたハイティンクのアルバムを独自の企画盤としてリリースを始め、このアルプス交響曲と死と変容のアルバムも2007年12月にリリース(PROA161)しています。そして、2014年6月には、R.シュトラウスの生誕150周年としてアルプス交響曲を除く管弦楽曲集を3枚組でリリース(PROC-1441)しています。

PROA161のCDの説明では「名匠ハイティンク、唯一の録音となるアルプス交響曲&「死と変容」が遂に復活!」と書いてありますが、このCDがリリースされた後の2008年6月8日と10日にロンドン交響楽団を指揮してアルプス交響曲をライヴ録音しているので、アルプス交響曲は唯一では無いのでご注意ください。

ハイティンクは誠実で楽譜に忠実な演奏が持ち味。「中庸」、「穏健派」、「常識家」とも評されますが、私にはハイティンクには指揮者は作品の黒子(くろこ)であるべきで個性を押し付けるべきでない、というポリシーを持っているように思えます。

私事ですが、最近ミラーレスカメラの写真のレタッチ(画像編集・RAW現像)を本格的に始めまして、音楽表現と似ているところが多いと感じています。カメラで撮っただけの写真でも十分良いのですが、さらにレタッチすることによって印象深い写真になるのです。例えば、夜の空の写真でも、露光量を上げて明るくしたり、下げて暗くしたりした後、コントラストでダイナミックさを変えたり、空の部分だけ青色を足して黒からややダークブルーにしてみたりすることで同じ写真でも印象が全然違います。

R.シュトラウスの作品には官能的な美しさやカオスに近い混沌さがあるので、写真のレタッチで言うなら、カラープロファイルをビビッドにしたり、輝度値の高い光る部分をより光らせて美しさを強調したり、暗い部分も明瞭さを上げてダイナミックになるようにするイメージでしょうか。

R.シュトラウスを得意としたマリス・ヤンソンスバイエルン放送交響楽団とのアルプス交響曲のライヴ録音(2016年)でゴージャスな響きと官能美の表現が見事でしたし、他にもサー・ゲオルグ・ショルティカルロス・クライバーヘルベルト・フォン・カラヤンといった指揮者のR.シュトラウスの作品の演奏にも光る個性がありました。

そういう点では、ハイティンクのこのアルプス交響曲と死と変容の録音は、加工をあまりやらずに原画に近いと言えます。強いて言うなら明瞭度を上げて個々の楽器の響きをくっきりさせているところでしょうか。2015年4月リリースのアルバム(UCCD-2172)では「誠実かつ誇張のない表現」と説明されていました。また、タワーレコードの説明では次のように書いています。

大オーケストラのための作品でありながら其の実正確な表現も求められるR.シュトラウスの作品は、端正かつ実直な音作りを得意とするハイティンクとの相性は頗る良いものでした。ただ派手さに欠けるため、豪華・豪快・瀟洒が居並ぶ過去の名録音と比べ目立ちにくい事もまた事実です。

タワーレコードオンラインのPROC-1441の解説より

それがよく表れているのが第18曲「雷雨・下山」。ここではテンポを煽って嵐の怖さを表現する演奏が多いですが、ハイティンクとコンセルトヘボウ管は堂々としています。第7曲の「花咲く高原にて」でも美しいですがうっとりするほど行き過ぎません。

『死と変容』のほうも、スケールの大きなコンセルトヘボウの音で程々の美しさです。

この2曲を聴いて、ハイティンクはR.シュトラウスも上手いと思いましたが、こうした中庸な表現の点で他の名録音と比べて目立たないのかもしれません。誠実なハイティンクらしい演奏とコンセルトヘボウのいぶし銀のサウンドだとは思いますが。

ハイティンクによる珍しいR.シュトラウスの作品をコンセルトヘボウ・サウンドで。誠実で誇張のない中庸な演奏です。

オススメ度

評価 :4/5。

指揮:ベルナルト・ハイティンク
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1981年12月7-8日, 1985年1月20ー21日, コンセルトヘボウ

Apple Music で試聴可能。

特に無し。

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