ベルリンフィル来日公演2025 アイキャッチ画像

ベルリンフィルが今年2回目の来日、ペトレンコとは2年ぶり

世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が11月から来日公演をおこないました。今年は7月にもグスターボ・ドゥダメルが率いてヴァルトビューネ野外公演を河口湖でおこなった他、大阪でも演奏会あって、11月が2回目の来日。今回は首席指揮者のキリル・ペトレンコが率いて、2023年11月以来、2年ぶりの来日。

2019年8月にポストに就任したペトレンコですが、2019年11月の来日公演はズービン・メータが指揮をおこなった後はコロナ禍で演奏旅行ができなかったベルリンフィル。ペトレンコとのコンビ待望の来日公演が前回の2023年11月で、2つのプログラムともに『音楽の友』誌が選ぶコンサート・ベストテン2023で第2位と5位にランクイン。「作品に応じた適応能力の高さと、名手ぞろい個性派ぞろいのベルリン・フィルを巧みに束ねるペトレンコのリーダーシップを認識するよい機会でもあった」と評されたこのコンビ。私も2023年11月20日のサントリーホール公演を聴いて、鳥肌が立ったのを今でも忘れられません。 (紹介記事)

2023年来日からの変更点

ペトレンコとのコンビで6年を迎えてますます充実期を迎えているベルリンフィルですが、前回の来日公演から、少し変化が。女性初のコンマスだったヴィネタ・サレイカ=フォルクナーが2025年2月に辞任。凛とした姿がカッコ良かったでしたね。現在はさらにフルート首席のセバスチャン・ジャコーが2024年11月に、クラリネット首席のアンドレアス・オッテンザマーが2025年1月に退団した他、新たなメンバーとして首席トランペットのダヴィッド・ゲリエ、首席ホルンのユン・ゼンが加わっています。特にユン・ゼンは1999年生まれでまだ20代の若さでの首席ですから、期待しちゃいますね。

あと、細かいところでは2023来日公演のプログラム冊子がA4サイズだったのが、2025来日公演ではB5にコンパクトになりました。

演奏旅行で繰り返し演奏された2つのプログラム

11月の来日公演では東京、横浜、川崎で公演を実施。プログラムは2種類で、プログラムAがヤナーチェクのラシュスコ舞曲、バルトークの『中国の不思議な役人』、ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』(1947年版)、プログラムBがシューマンの『マンフレッド』序曲、ヴァーグナーのジークフリート牧歌、そしてブラームスの交響曲第1番。プログラムAが2日、プログラムBが2日ずつです。

日付場所プログラム曲目
11月19日(水)東京・サントリーホールプログラムAヤナーチェク:ラシュスコ舞曲
バルトーク:『中国の不思議な役人』組曲 Op.19
ストラヴィンスキー:バレエ音楽『ペトルーシュカ』 (1947年版)
11月20日(木)横浜・横浜みなとみらいホールプログラムA同上
11月22日(土)川崎・ミューザ川崎シンフォニーホールプログラムBシューマン:『マンフレッド』序曲 Op.115
ヴァーグナー:ジークフリート牧歌 WWV103
ブラームス:交響曲第1番 Op.68
11月23日(日)東京・サントリーホールプログラムB同上

プログラムAは10/29、10/30、10/31のベルリン・フィルハーモニーでの定期演奏会、11/8のソウル、11/11の台北、11/15の上海で演奏され、プログラムBは11/3のフランクフルト、11/7と11/9のソウル、11/12と11/13の台北、11/16の上海でも演奏されたもの。デジタル・コンサートホールでも10/31の映像でプログラムB、シューマンの『マンフレッド』序曲とブラームスの交響曲第1番は8/29の映像で、ブラ1は9/19の映像でも観れますが、プログラムAを演奏した台北の11/13のコンサートが配信され、アーカイブ映像に上がる予定です。

完璧主義とか職人的とも言われるペトレンコらしく、レパートリーをやみくもに拡大しないで、ベルリンフィルと磨き上げた音楽を披露する姿勢が伺えます。シューマン、ヴァーグナー、ブラームスというドイツ音楽の王道であるプログラムBと、フォーク音楽という共通項がありつつもヤナーチェクの珍しい作品も含めたプログラムA。中でもラシュスコ舞曲は、ペトレンコによるとベルリンフィルが以前に演奏したのは1971年、その前は1951年だったそうで、「不当に忘れられた作曲の作品にも力を入れている」というペトレンコらしい選曲ですね。

本当は職場から歩いて行けるサントリーホールで、と思っていたのですが、チケット発売初日にアクセス過多でシステムダウンしているうちにソールドアウトに。泣く泣く取れたのが11/20の横浜みなとみらいホールのチケットでした。

この公演では終演後の写真撮影がOKだったので、記録にも残せましたが、目視とメンバーリストでチェックすると、コンマスが樫本大進さんでした。ティンパニは2名体制ですが今夜はヴィーラント・ヴェルツェルが担当。(第1)首席は第2ヴァイオリンがトーマス・ティム、ヴィオラがディヤン・メイ、チェロはブリュノ・ドルプレールルードヴィヒ・クヴァントの2枚看板、フルートはステファン・ラグナー・ホスクルドソン、オーボエはアルブレヒト・マイヤー、クラリネットはヴェルツェル・フックス、ファゴットはシュテファン・シュヴァイゲルト、ホルンはユン・ゼン、などという顔ぶれ。ゲスト奏者としてピアノのサラ・ティスマン、チェレスタのマシュー・オッテンリプス、オルガンのトビアス・ベルントも加わっています。

プログラムA はフォーク音楽をルーツにした19世紀末から20世紀初頭のチェコ、ハンガリー、ロシアがテーマの作品でした。

1曲目のヤナーチェクは軽やかに。ペトレンコの指揮は表情豊かですが、祝福の踊りでは肩を揺らして実にチャーミング。デジタル・コンサートホールでもこの曲が印象的でしたが、生で聴いてもここが私の中でハイライトです(笑)。ペトレンコはときおり指揮棒を振らずに見守るだけのこともあり、オーケストラに全幅の信頼を寄せて阿吽の呼吸を見せてくれました。

2曲目はバルトークの『中国の不思議な役人』。対向配置で右手手前にいる第2ヴァイオリン群が生み出すうねりが不安を煽ります。こんなにグロテスクな作品だったのか。今回、S席で聴いていたのですが2ブロック目だったのでちょっと音が遠いかなと思っていたのですが、この曲の最強音でベルリンフィルの凄まじさを知りました。デジタル・コンサートホールのインタビューで現在進行系でバルトークを発見している、すべての作品が難しく奏者だけではなく指揮者にも要求が高いと語っていたペトレンコですが、デジタル・コンサートホールで観た演奏よりも今回のほうがさらに完成度が上がっていた気がしました。音だけなのに老人が放り投げられる様子がマジマジと伝わってきました。この曲ではオルガンも登場しましたね。クラリネットソロが本当に上手い。

チューニングではおふざけも

後半は演奏前のチューニングが面白いことに。ラーとしっかり音を出して調整するところが、冒頭から「ふにゃっ」とした音を奏でるのです。聴衆も「えっ!?」というリアクションで、コンマスの樫本さんが苦笑すると、「ミレドシ・ラー」で音合わせが再開。2年前のサントリーホール公演でも樫本さんがコンマスのときにチューニングでおふざけしてましたが、団員の仲の良さを感じますね。

ペトルーシュカでは多彩な響きとオーケストラの自発性を感じました。個々の技術力が高いベルリンフィルですが、それをペトレンコが自然体で束ねています。ペトルーシュカ、バレリーナ、ムーア人が生き生きと描かれ、第4部の熊は強烈でした。ゆったりと現れてチューバの咆哮で市場を驚かせる様子が思い浮かびます。続く『行商人と二人のジプシー娘』では第1音目にアクセントを付けて慌ただしさを表現。第3部『ワルツ(バレリーナとムーア人の踊り)』ではファゴット首席のシュテファン・シュヴァイゲルトがゆったりとしたテンポで味わい深く。第4部『ペトルーシュカの亡霊』では亡きペトルーシュカの雄叫びをトランペットが悲痛に奏で、静まり返った後のピチカートで謎めいた幕切れにさせるのがペトレンコの手腕でした。

コンマスの樫本大進さんと抱擁を交わすキリル・ペトレンコ
コンマスの樫本大進さんと抱擁を交わすキリル・ペトレンコ

着替えちゃったけど、鳴り止まぬ拍手に応えて来てくれたペトレンコ

カーテンコール後にオーケストラが撤収しても拍手が続き指揮者だけがステージに戻ってくる、というのが近年の演奏会の恒例になっていますが、今回はいくら拍手が続いてもペトレンコがなかなか出てきません。ようやく扉が開いたと思ったら、着替えちゃったんだよねとジェスチャーしながらペトレンコが登場。このチャーミングさ、たまりません。

楽屋口に数台待機していたバスも、終演後10分後には楽団員が乗り込んだ1台が出発していきました。皆さん切り替えが早い!

充実期を迎えたペトレンコとベルリンフィル。次の来日公演も絶対行こうと心に決めた、横浜の夜でした。

指揮:キリル・ペトレンコ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
演奏:2025年11月20日, 横浜みなとみらいホール

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