ブルックナー交響曲第8番 ハンス・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 (1963年)

今回紹介するのは、往年の名指揮者ハンス・クナッパーツブッシュミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のブルックナー。ミュンヘンフィルは今年5月に来日公演を予定していて、2026年に就任したばかりの首席指揮者ラハフ・シャニとのコンビ。イスラエル出身のシャニはまだ37歳という若さですが、1月末にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団に客演デビューしていて、ドヴォルザークの『新世界より』で圧倒的な成功を収めました。それをデジタル・コンサートホールで聴いて私も来日公演に行ってみようと決意した次第です。

そんなミュンヘンフィルと遡ること60年余り。クナッパーツブッシュ (略してクナと呼ばれます)はミュンヘンフィルを指揮してブルックナーの交響曲第8番を録音しました。それを含む交響曲集がデッカ・レーベルのグループであるエロクエンス・レーベルから出ていて私もそれを持っているのですが、世間の評判ほどのすごさを感じなかったのが正直な感想。

Apple Music の配信で聴けるものも同じく音質にムラがあり、アンサンブルも痩せ細って聞こえていました。何度か聴いてみたもののこれはオススメするのは難しいと考えるようになっていたのですが、記事には書かないでいました。某音楽評論家もそうでしたが、クナ・ファンは熱烈ですから。

しかしタワーレコードの企画盤として、2024年の最新リマスターがSACD ハイブリッドでリリースされました。それを聴いてみて初めてクナの名演の真価を感じました。

ブルックナー交響曲第8番 ハンス・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 (1963年)
ブルックナー交響曲第8番 ハンス・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 (1963年)

ブルックナーの交響曲第8番は第2稿ハース校訂版 (1939年発表)、第2稿ノーヴァク校訂版 (1955年発表)のスコアがよく使われます。それより前に存在したスコアがシャルク改訂版、または初版と言います。第2稿を基にブルックナーの弟子であるヨーゼフ・シャルクが手を加えたものです。

ポーコ・リタルダンド (少しずつ、だんだん遅く)、とア・テンポ (元の速さで)を多用してテンポの緩急の指示を追加したり、原典版でフォルテッシモになっているところをフォルテに、逆にメッゾ・フォルテになっているところをピアニッシモに、と強弱を変えたり、クレッシェンド・センプル (常にだんだん大きく)をディミヌエンド (だんだん弱く)に変えたり、第4楽章ではノーヴァク版の93〜98小節の6小節をカットして、逆に519〜520小節を繰り返して2小節追加することでトータル4小節短くしたり、とブルックナーの無骨な響きをヴァーグナーらしく壮麗に味付けしています。

ハース版が登場してから作曲家の意志を尊重するようになり弟子が改訂したこのシャルク版は日の目を見なくなりましたが、クナはハース版が出てもノーヴァク版が出てもこのシャルク版を使用し続けました。

ただブルックナーは他の交響曲も版が多く、交響曲全集でも第1稿、第2稿、第3稿でそれぞれ演奏されるような多様性の時代。そんな時代からこそ、クナのシャルク改訂版はまた注目されているようにも思えます。

ミュンヘンの雄・クナの名演

しかしそれを指揮するクナはしたたか。例えば第1楽章の第3主題ではピアニッシモ (ノーヴァク版ではピアノ)に書かれていますが、強めの音で演奏するクナとミュンヘンフィル。コテコテのメロドラマのようなシャルクの指示全てには従わず、自然体の息遣いでブルックナーの音楽に生命を宿らせています。

今までの音源では痩せ細って聴こえた響きもこの2024リマスターではふっくらと聴こえ、これこそが柔らかいミュンヘンフィルのサウンド。

ハース版、ノーヴァク版含めて名盤の多いブルックナーの交響曲第8番ですが、シャルク改訂版ならこのクナ&ミュンヘンは必聴でしょう。

オススメ度

評価 :5/5。

指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1963年1月, ミュンヘン、バヴァリア・スタジオ

Apple Music で試聴可能。

特に無し。

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